はじめに
「会社の認知を高めたい」「自社の取り組みを社会に発信したい」。そう考え、広報部門の立ち上げのために、副業で「広報顧問」の募集をかけた。
するとあっという間に多くの応募が寄せられる。職歴書も「大手広告代理店出身」「Webマーケティングで実績多数」など華やかなものが多い。しかし、面接で話してみると違和感がある。
彼らの話すことは「いかに広告予算をうまく使うか」「どのメディアに広告を出すべきか」といった話ばかり。私たちが求めている「社会との関係づくり」や「メディアとのリレーション」とは噛み合わない…。
このミスマッチは頻繁に起きています。今回は、真の広報家を見極める観点を紹介します。
第1章:なぜ本物の広報は希少なのか?
応募者の多くが広告色の強い人材である理由。それは応募者が「広告」と「広報」を混同しているからですが、それ以上に、そもそも日本では「体系的に広報を学んだ人材」が極めて少ないという事実があります。
1. 教育システムの欠如
諸外国と異なり、日本の大学には「広報(Public Relations)」を専門的に学ぶカリキュラムがほぼ存在しません。多くの場合、総合職で大手企業に入社し、たまたま広報部に配属されてから、手探りで勉強を始めるというのが実態です。
2. 資格者の希少性
広報の体系的な知識を証明する資格の筆頭はPRプランナー(日本パブリックリレーションズ協会認定)です。その合格者数は累計でも約3,800名に過ぎません(※2024年1月時点)。これは、日本の就労人口に対して、あまりにも少ない数です。
つまり、市場にいる広報経験者の多くは自称であり、「広告(プロモーション)」と「広報(リレーションズ)」を明確に区別できていないまま「広報」を名乗っている可能性が高いのです。
*実際、昨今SNSに溢れる稚拙な広報活動と炎上事件は目に余るものがあります。
第2章:情報参謀が中小企業の競争優位となる
予測
広告に依存する企業と、広報で信頼を築き上げる企業。未来の勝者が後者であることは論を俟ちません。
そして、広報の価値は信頼の構築だけにとどまりません。
本物の広報家は、経営トップの「情報参謀」としても機能します。
一流の広報家は、常に社会(外部環境)にアンテナを張り、自社の方針が世論とズレていないか、社会から何を期待されているかを察知します。そして、その情報を経営者にフィードバックし、時には「耳の痛い進言」さえも行うことで、経営の舵取りを支えるのです。
「本物の広報家」は希少ですから、複数の採用手段を講じるべきで、副業人材からも募るのは合理的です。
もし優秀な広報家を確保し、経営の情報参謀として機能させられたならば、それは他社が容易に模倣できない強力な競争優位となります。
行動指針:希少な「情報参謀」を、“その他大勢”から見抜く「3つの問い」
本物の「広報家」を見抜くために面接で聞くべきは広告に関する実績ではありません。以下の3つの問いを推奨します。
1.関係構築力
「メディア(記者)と、どのような“関係性”を築いてきましたか?」
NG回答: 「広告営業の〇〇さんを知っています」
OK回答: 「〇〇業界担当の〇〇記者が、今どんなネタを探しているかを把握しています。彼らと定期的に情報交換をしています」
解説: 記者や編集者と個人レベルで接してきたかが大切です。
2.平時の対応:コーポレート広報
「当社の経営理念(ビジョン)を、社会に伝えるために、どのようなストーリーを設計しますか?」
NG回答: 「魅力的なキャッチコピーを考え、広告を出します」
OK回答: 「社長の想いを、社会課題(例:地域の過疎化)と接続させ、“社会がそれを聞くべき理由”としてストーリーを再構築し、発信します」
解説: 「広告」は製品の魅力を語りますが、「広報」は会社の理念を社会の文脈に翻訳し、世間に受け入れられる言葉で発信します。
3.有事の対応:危機管理広報
「もし当社が深刻なクレームや不祥事を起こした場合、広報として行うべき“準備”と“対話”は何ですか?」
NG回答: 「そのような経験はありません」「様子を見て鎮火を待ちます」「ネガティブな情報を打ち消す広告を出し、火消しをします」
OK回答: 「まず平時に、プレスリリースの配信先リストや、公式サイトの緊急告知スペースなどの広報手段を準備しておきます。その上で、事実関係を把握し、経営陣と『謝罪の対象は誰か』『公表すべき事実は何か』を明確にし、透明性の高い情報を遅滞なく発信します。最も影響を受けるステークホルダーとの誠実な対話を最優先します」
解説: 「広告」はコントロールを試みますが、「広報」はコントロール不可能な状況下で「誠実な対話」を設計する危機管理(クライシス・コミュニケーション)能力です。多くの中小企業では、この「遅滞なく発信する広報手段」が未確立です。その結果、有事の際に世間への発信が遅れたり、SNSというインフォーマルな媒体での発信に終始し「不誠実な企業だ」というレッテルを貼られて炎上が拡大することが多々あります。平時から広報手段を確立しておくことも、広報家(情報参謀)の重要な仕事です。
第3章:「広告屋」と「広報家」
あなたが採用したいのはどちらの専門家ですか?
| 項目 | ❌ 「広告」の専門家 | ✅ 「広報」の専門家 |
| 主たる目的 | 販売促進(短期的) | 信頼関係の構築(長期的) |
| 主たる手法 | メディアの枠を「買う」(ペイドメディア) | メディアに「報じてもらう」(アーンドメディア) |
| 経営へのスタンス | 実行部隊(受動的) | 情報参謀(能動的) |
| 平時の対応 | 製品・サービス広報(広告)が中心 | コーポレート広報(企業価値)が中心 |
| 有事の対応 | 思考停止、稚拙な火消し | 危機管理広報を主導(発信手段の平時確立を含む) |
| 人材の希少性 | 多数(経験者は多い) | 極めて希少(体系的知識を持つ人は少ない) |
| 経営への影響 | 販促コストの積み上げ | 競争優位となる資産(信頼)の積み上げ |
まとめ
副業市場に「広報」の募集をかけると、集まる大半は「広告」のプロフェッショナルです。彼らは決して能力が低いわけではありません。ただ、あなたの会社が求める目的と、彼らの手段が異なっているだけです。
日本市場において、体系的な知識を持つ「広報家」は極めて希少です。だからこそ、中小企業の経営者が採用すべき広報顧問とは、広告費の使い方を教えてくれる人ではなく、社会との関係性(信頼)の築き方を、共に考え、そのノウハウを社内に「内製化」してくれる「コーチ」なのです。
面接の場で、「広告予算はいくらですか?」と聞いてくる候補者ではなく、「あなたの会社のビジョンと、社会とのズレを、どう埋めていきましょうか?」と問いかけてくれる希少な「情報参謀」こそ、あなたの会社に競争優位をもたらすパートナーです。
成功に近道なし。共に頑張りましょう。
