はじめに
支援の現場で繰り返し見てきた光景があります。
「こんなに優秀な方が来てくださった」と喜んでいた経営者が、数週間後に別人のような表情をしています。チャットの返信が翌日以降になる。会議で合意したはずのことが、文書に残っていない。簡単なファイルの共有にも毎回手間がかかる。気づけば、経営者自身がフォローに追われています。
私のところにも「専門家を採用したのに、なぜかプロジェクトが前に進まない」という相談が定期的に届きます。そうした案件を一つひとつ解きほぐしていくと、候補者の専門能力に問題があることはほとんどありません。問題は別のところにあります。
候補者のリモート実務力が、採用前に確認されていないのです。
本記事では、採用後の「こんなはずではなかった」を防ぐために、面接という自然なプロセスの中でリモート実務力を見抜く4つの視点をお伝えします。
第1章:なぜ「対面で優秀な人」がリモートで機能しないのか
副業人材の支援のほとんどはリモートで行われます。そして私の観察では、大企業で高い役職に就いていた人材ほど、リモート環境でパフォーマンスが落ちるリスクがあります。 これは一見矛盾しているようですが説明がつきます。
以前、東証プライム上場企業の元部長クラスの方が、ある中小企業の支援に入った場面に立ち会ったことがあります。経歴も話す内容も申し分ありませんでした。ところが実際に協働が始まると、会議のたびに議事録は先方任せ、連絡はメールのみで遅延が常態化し、クライアント側の担当者が「何が決まったのか分からない」と混乱し始めました。
本人に悪意はまったくありません。ただ、大企業の役職者として働いてきた環境では、議事録は部下がとり、資料整理はアシスタントがやり、ツールは全社統一で覚え直す必要もありませんでした。「考える」と「話す」に専念できる環境が整っていたのです。つまり、自分でPCを操作しながら情報を整理し、テキストで合意を記録するデジタル実務能力が、これまで問われてこなかったわけです。
副業の現場は真逆です。一人で動き、自分でログを残し、複数のツールを使いこなし、稼働が限られる中で誤解を生まないコミュニケーションをとる。この環境に適応できるかどうかは、どれだけ立派な経歴書を読んでも分かりません。
第2章:面接で「リモート実務力」を見抜く4つの視点
では、どうすれば事前に確認できるのでしょうか。私が実際に使っている方法は、特別なテストではありません。ちょっとした観察と、少しの質問。それだけで十分に見えてきます。
視点1:タイピングの速さを確認する
AIがメールや議事録の文章を代筆できる時代になりました。しかし、打ち合わせ中にリアルタイムで要点をメモする場面では、いまだタイピングの速さが実務の質を左右します。
私が気になるのは、オンライン面接の画面越しに見える候補者の手の動きです。こちらの話を聞きながらメモをとっているとき、キーボードを打つ手が滑らかに動いているか。あるいは、一文字ずつ探しながら打っている様子はないか。
面接の場で直接確認したければ、「今日お話しした内容を簡単にメモしていただけますか」と一言添えて、画面共有をお願いする方法もあります。入力のスピードと、どんな言葉を選んでメモするかの両方が、一度に観察できます。
打ち合わせ中のメモが遅いと、会話のテンポが乱れ、合意事項の記録が抜け落ちます。こうなるとリモート支援の現場では手戻りが頻発します。
視点2:過去の資料を見せてもらう
リモートワークでの支援には資料がつきものです。提案書、議事録、分析レポート、業務フローの整理……。現場で本当に動いてきた人には、こうした資料が自然と蓄積されているものです。
私は面接の場で、「これまでの支援で使った資料を、差し支えない範囲でいくつか見せていただけますか」とお願いすることがあります。その反応と内容の両方が、大きな手がかりになります。
すぐに「これとこれと、あとこれも参考になるかと思います」と複数の資料を出せる方は、現場での場数が資産として残っています。資料の量が実績を示す指標です。一方で、「守秘義務があって…」と言葉を濁すだけで何も出てこない場合や、出てきた資料がテンプレートをそのまま流用したような薄いものであれば、実務の経験値を慎重に見極める必要があります。
資料の見た目の美しさより、確認したいのは「思考の跡が残っているか」です。現場で試行錯誤しながら作り込まれた資料には、その人固有の判断と工夫が刻まれています。それこそが、リモート支援で再現される実務力の源泉です。
視点3:「仕事の型」を質問する
面接中にライブテストをする必要はありません。普段の仕事の進め方を問うだけで、リモートへの解像度が自然に現れます。
私がよく使う質問は2つです。
「リモートでの会議後、認識のズレが生じないように、普段どんなことを心がけていますか?」
副業の現場で活躍している方には、たいてい自分なりのルールがあります。「会議の最後に決定事項と担当者を必ず復唱しています」「1時間以内にチャットで簡単なサマリーを送ります」といった答えが返ってきます。一方で、「そうですね……気をつけているつもりですが」と言葉を濁す場合は、習慣として定着していないサインと見ることが多いです。
「私たちは普段〇〇(Slack、Chatworkなど)を使っているのですが、対応いただけますか?」
副業経験の豊富な方であれば、主要なチャットツールはたいてい経験済みです。ここで「自分が使い慣れたツールの方が…」という反応があれば、注意が必要です。クライアントの環境に合わせるのは、副業人材としての基本姿勢です。
視点4:会話中の「言葉の解像度」を観察する
最後の視点は、面接中の会話そのものに潜んでいます。私が注目するのは、候補者が指示語(あれ・それ・これ)をどれだけ使わないかです。
「そうしましょう」「あの件ですが」という曖昧な言葉づかいは手戻りの原因です。対面なら表情や空気感で補えるものが、テキストや画面越しでは補えません。この感覚を体で知っている人は、話し方が違います。
確認したいのは2点です。こちらが曖昧な表現を使ったとき、「〇〇という件ですね」と具体的な言葉で確認し返してくるか。自ら話すときに、主語と目的語を省かずに話す習慣があるか。
経歴書には一切現れませんが、協働の生産性を大きく左右する能力です。
第3章:リモート時代の「優秀さ」を再定義する
私が見てきた限り、採用後に「期待と違う」となる多くは、面接の工夫で予防できる問題です。失敗する場合、専門スキルだけを確認し、リモート実務力を確認せずに採用を決めてしまっています。
| 項目 | ❌ リスクが高い面接 | ✅ リスクが低い面接 |
|---|---|---|
| 評価の主軸 | 経歴・実績(専門スキル)のみ | 経歴・実績 + リモート実務力 |
| 注目する場面 | 面接中の会話のみ | タイピング・資料・言葉選びを含む全プロセス |
| 評価の手法 | 候補者の自己申告を信じる | 資料と習慣から行動の実態を探る |
| 見極めるもの | 組織の一員としての優秀さ | 自律して動ける個人としての優秀さ |
| 採用後の結果 | 期待値とのギャップ・管理コストの増大 | スムーズな連携・高い生産性 |
副業人材の活用は、稼働が限られているからこそ、一つひとつのやり取りの質が成果を左右します。そのやり取りの質を担保するのが、リモート実務力です。
まとめ
副業プロ人材が活躍できるかどうかは、専門知識と同じくらい、日々の業務をスムーズに進めるリモート実務力にかかっています。 その核心はツール操作の巧みさではありません。打ち合わせ中に要点をリアルタイムで記録できるタイピング力、現場で積み上げてきた資料という名の実績、合意内容を漏れなく言語化する習慣、そして誤解を生まない具体的な言葉で伝えるコミュニケーションの姿勢。この4つが揃ってリモート支援は機能します。
面接に特別な仕掛けは要りません。候補者の手の動きを観察し、これまでの資料を見せてもらい、仕事の進め方について少し問い、会話の中の言葉選びに目を向ける。その小さな視点の切り替えだけで、候補者が持つリモート環境での真の実力は、思いのほかはっきりと見えてくるはずです。
成功に近道なし。共に頑張りましょう。
