銀行に薦められて副業人材を試すことの落とし穴
カテゴリー:基礎知識
はじめに
「御社の営業力強化には、副業人材の活用が有効ではないでしょうか」。融資担当者からそう言われ、断りにくい雰囲気の中でうなずいた経営者は少なくありません。
銀行が融資先の経営改善のために副業人材を薦めるケースが増えています。行政も後押しし、マッチングサービスも充実してきました。しかし支援の現場では、こうして始まった副業人材活用が空回りするケースを繰り返し目にしています。
第1章:銀行が副業人材を薦める背景
地方銀行や信用金庫を中心に、融資先の経営支援機能の強化が求められるようになっています。企業の業績が改善すれば、銀行は融資の回収と攻めの借入れのおかわりを期待できる。副業人材の活用は行政も推進しており、他人の財布から補助金が出るケースもある。副業人材の活用は、銀行担当者にとって薦めやすい提案になっています。
銀行担当者は企業の課題を外から診断し、「営業が弱い」「DXが遅れている」といった処方箋を出します。しかし外から見た課題と、経営者が腹落ちしている課題は必ずしも一致しません。
ここにズレが生まれます。
第2章:外発的動機が生む、求人票の歪み
内発的なモチベーションではなく、融資元に言われたからという外発的な動機で動き出した経営者は、副業人材に何を依頼すべきかを自分の言葉で説明できません。
問題と課題を当事者意識を持って定義できていないため、分かりやすい成果物で依頼する形をとります。「営業資料を作ってほしい」「ホームページを改善してほしい」「採用要件を整理してほしい」。求人票が成果物の要求で埋め尽くされます。
以前、こんな案件に関わったことがあります。ある中小企業から「採用要件の整理と求人票の作成」を依頼されました。ヒアリングを重ねドキュメントを納品しました。ところが経営者はそれを面接の場で一度も使いませんでした。なぜ採用要件を整理する必要があったのか、その背景にある課題を経営者自身が理解していなかったからです。成果物は納められた。しかし何も変わらなかった。
副業人材側も、課題の本質が共有されないまま成果物を作ることになり、手応えのない稼働が続きます。依頼した側は「思っていたのと違った」と感じ、受けた側は「何のために作ったのか分からなかった」と感じる。双方が消耗するだけで終わる悲劇が繰り返されています。
第3章:悲劇が繰り返される構造
一度うまくいかなくて、「副業人材は使えない」という結論で終わらせてしまい、本質的な原因に気づかないまま次の施策に移る。あるいは銀行に言われて再び別の副業人材を探し始める。この繰り返しが、失敗事例を量産しています。
外発的動機で始めた活用は、うまくいかなかったときの振り返りも浅くなります。「銀行に言われたからやってみたが、やはり自社には合わなかった」という結論で幕が引かれる。本当の問題は、経営者が自社の課題を自分の言葉で定義できていなかったことにあります。しかしそこに気づかないまま終わるため、次も同じ失敗を繰り返します。
副業人材という概念への誤解が積み重なり、市場全体の信頼が損なわれていく。これは副業人材活用の普及という観点からも、見過ごせない問題です。
第4章:経営者に求められる主体性
銀行の提案を契機に副業人材活用を始めること自体は問題ありません。きっかけは外からであっても構いません。問題は、自分の頭で考えるのを省略してしまうことです。
副業人材を迎え入れる前に、経営者自身が次の問いに答えられるかどうかを確認してください。
「自社が苦しい本当の理由は何か」
銀行担当者が指摘した課題は、あくまで外から見えている症状です。その背景にある本質的な原因を、経営者自身が自分の言葉で語れているか。「営業が弱い」という指摘を受け入れるとして、なぜ弱いのか。人の問題か、仕組みの問題か、商材の問題か。ここを掘り下げずに動き出しても的を外します。
「その課題を解決するために、今最も必要な一手は何か」
課題が定義できたとして、副業人材はその解消に本当に適した手段か。社内でできることをやり切った上での判断か。副業人材を含め、万能な人は存在しません。起用が合理的かどうかを、経営者自身が判断する必要があります。
「副業人材に何をしてもらいたいのか、一言で言えるか」
これが言えない状態で採用を進めると、求人票は成果物の羅列になります。「〇〇を作ってほしい」という依頼は、課題ではなく手段の指定です。課題を定義できている経営者は、「自社に〇〇という問題があり、それを解消するために一緒に考えてほしい」という形で依頼できます。
優れた副業人材は入念な質問で課題の輪郭を描く手助けをしてくれます。しかし経営者自身が課題に向き合う意志を持っていなければ、その試みも空振りに終わります。副業人材は課題解決の魔法使いではなく、経営者が腹落ちした課題を解決するための伴走者です。主体はあくまで経営者側にあります。
まとめ
銀行に薦められて副業人材を使ってみた。しかし成果が出なかった。失敗の多くは、副業人材の問題ではなく、経営者が課題を自分のものとして腹落ちできていなかったことに原因があります。
きっかけは外からで構いません。しかし動き出す前に、自社の課題を自分の言葉で語れるかどうかを確認してください。「銀行にそう言われたから」ではなく「自分がそう判断したから」という主体性を持って副業人材を迎え入れてください。
成功に近道なし。共に頑張りましょう。
