はじめに
採用はよく聞く相談のひとつです。話を聞いていくと、営業担当が辞めた→経理が手薄になった→現場の人手が足りない→だから採用したい、という経営者の考えが分かってきます。
気持ちは分かります。しかし、その採用は本当に会社を強くしますか。欠員を埋めることと、会社を強くすることは、同じではありません。
第1章:縮む市場で、戦略なき採用は焼け石に水
日本の人口減少は今後も続き、インバウンド向けなど一部の業界を除き、国内市場は縮小していきます。顧客の数が減る中で企業間の争いが激しくなるのは確実で、新しい攻め手を繰り出せない企業の生き残りは、運に左右されるようになります。戦略が必要です。
この環境の変化は、採用にも影響します。市場が拡大している時代は、人を増やせば売上が上がりました。しかし縮小市場では、頭数を揃えるだけでは競合に勝てません。どんな役割を果たす人材を採るかが、経営の明暗を分けるようになります。
それにもかかわらず、中小企業の採用の大半は欠員補充か繁忙期の増員が動機になっています。会社の将来像から逆算した採用計画を持つ中小企業は、支援の現場で見ていても、ほとんどいません。大企業は3〜5年先の事業計画と連動した人材計画を持っています。中小企業にその仕組みがないのは、採用担当者がおらず、経営者や現場マネージャーの片手間になっているからでもあります。
忙しいのは分かります。しかし、忙しいまま欠員補充を繰り返していると、気づいたときには手を打てる余裕すら失われています。実際、2025年は働き盛りのスタッフが一斉に退職し泣く泣く人手不足倒産する企業が目立ちました。人材流動化が進む時代に、収益を増やし労働環境を改善するサイクルを回せない企業に未来はありません。
第2章:採用の前に問うべき3点
採用計画を立てる前に、経営者自身が答えを持ってほしい問いが3つあります。
問い① 自社の主戦場はどこか
縮小する市場の中で、どの顧客に、どんな価値で選ばれ続けるのか。この問いに答えられない企業は、何を強化すべきかが定まらないため、採用の優先順位も定まりません。
「うちは中小企業だから、大企業と同じ土俵では戦えない」。これは正しい認識です。しかしだからこそ、自社が勝てる戦場を選ぶことが経営の核心になります。主戦場が決まれば、そこで勝つために何が必要かが見えてきます。
問い② その戦場で勝つために、自社に必要な機能は何か
主戦場が定まったら、競合に勝つために必要な企業機能を洗い出します。営業なのか、マーケティングなのか、技術開発なのか、カスタマーサクセスなのか。今の自社にある機能と本来必要な機能のギャップが、採用すべき人材像を決めます。
欠員補充の採用は、このプロセスなしに、今いない人を補う発想で動きます。結果として、会社が向かうべき方向に必要な機能ではなく、過去通りを維持するための採用になります。
問い③ その機能を立ち上げる人、維持するために必要な人は誰か
機能が定義できて初めて、採用すべき人材像が具体化します。スキルセット、経験、人物像。これらは主戦場と必要機能から逆算されるものであり、求人票を作る段階ではなく、戦略を考える段階で決まるものです。
この3つの問いに順番に答えることが、採用を経営戦略に昇華させるプロセスです。求人票はその後でいい。
第3章:欠員補充採用ばかりだと会社は弱体化する
欠員補充の採用を繰り返すと、組織は現状維持に最適化されていきます。変化に対応する機能より、既存業務を回す機能が強化される。気づけば、市場の変化についていけない硬直した組織になっています。縮小市場でこの状態に陥ると、挽回の余地が失われます。
具体的には、3つの問題が積み重なっていきます。
一つ目は、過去の組織設計を無批判に引き継ぐことです。辞めた人の後釜を探すということは、その役割が今後も必要かどうかを問い直さないということです。3年前に必要だった役割が、縮小市場の今も同じように必要とは限りません。
二つ目は、採用予算が守りに使われ続けることです。本来であれば新しい機能の立ち上げに使えるはずのリソースが、既存機能の維持に消えていきます。攻めに使えるお金と時間が、じわじわと削られていきます。
三つ目は、採用が対症療法になることです。人が辞めるたびに採用活動に追われ、組織の慢性的な課題に向き合う時間がなくなります。採用し続けているのに、会社が強くなっている実感がないというのは典型的な症状です。
| 項目 | 欠員補充採用 | 未来志向採用 |
|---|---|---|
| 採用の動機 | 人が辞めた・足りない | 必要な機能を強化するため |
| 出発点 | 過去の組織を維持する | 将来の戦略から逆算する |
| 人材要件の決め方 | 前任者に近い人を探す | 必要機能から人物像を定義する |
| 採用後の組織 | 現状維持に最適化される | 競争力が積み上がっていく |
| 市場縮小への対応 | 気づいたときに手遅れになる | 変化に先手を打てる |
第4章:未来志向採用に、副業人材をどう活かすか
戦略的採用の計画を一人でやり切れる経営者は多くありません。事業戦略の言語化、必要機能の洗い出し、人材要件の定義。これらは本来、専門的な知見が必要な仕事です。
大企業でHRBPや経営企画を経験した副業人材は、この種の上流設計が得意な人材が多くいます。採用戦略の設計そのものを、副業人材に伴走してもらうという考え方は、中小企業にとって合理的な選択肢です。設計した戦略を社内スタッフが運用できる形に落とし込むところまで担ってもらえれば、内製化にもつながります。
ただし一点、釘を刺しておきます。採用戦略の設計は、経営者自身が主体的に関わらなければ意味がありません。副業人材はあくまで伴走者であり、戦略の主語は経営者自身でなければならない。前章で述べた3つの問いに、自分の言葉で答えようとする意志がなければ、どれだけ優秀な副業人材を伴走者に迎えても現場は変わりません。
まとめ
市場が縮み、競争が激化する中で、欠員補充を繰り返している限り採用は会社を強くしません。
採用を強化したいなら、まず採用から離れてください。自社の主戦場はどこか、その戦場で勝つために必要な機能は何か、その機能を担う人材は誰か。この順番で考え直したとき、今すぐ採用すべき人材像が見えてきます。勝つための企業機能を強化し、増えた収益で労働環境を改善し、さらに優秀な人材を呼び込む。このサイクルが生き残りの鍵です。
成功に近道なし。共に頑張りましょう。
