はじめに
取引先から「御社の製品についてSNSで騒ぎになっています」と、深夜に連絡が入ったとしましょう。スマートフォンを開くと、「〇〇社製のホームベーカリーから火が出た」と事実ともフェイクとも判断がつかない投稿が次々と拡散されています。こうなると企業は事実確認と、被害が拡散せぬように防止活動、そして広報を瞬時にこなさねばなりません。
しかしそこで壁にぶつかる経営者は少なくありません。いえ、むしろ中小企業はほとんどぶつかります。
HPの更新を制作会社に頼んでいると、深夜に連絡が取れるはずもなく、翌朝を待つしかない。またたく間にSNSの火はどこまでも広がっていきます。
これは他人事ではありません。自社でサイトを更新できない企業は、危機に即応できないのです。本記事では、なぜ今この問題が経営レベルの課題なのかをお伝えします。
第1章:初報の遅れは、それだけで罪になる時代
かつては、不祥事や事故が起きた際の初報が翌日でも許された時代がありました。プレスリリースを準備し、弁護士に文面を確認してもらい、翌朝の記者会見で発表する。それが誠実な対応として受け入れられていました。
今は違います。
事案が発生した瞬間から、SNSでは当事者・目撃者・第三者が情報を発信し始めます。出所不明な情報に憶測が重なり、尾ひれがつき、あっという間に事実のように語られはじめます。企業が沈黙していると隠蔽と解釈されます。
初動の遅れで傷を深めたケースは枚挙に暇がありません。事前の品質管理を徹底し、すぐに社内で適切な処置を行っていたにもかかわらず、HPへの掲載が翌日になったというだけで「対応が遅い」「不誠実だ」「被害が拡大したらどうするんだ」と叩かれ続けた例がありました。原因が企業側ではなく使用者の不適切な利用方法にあったとしても関係ありません。初報の遅さが叩かれる要因になる時代です。
第2章:初報はHPでなければならない理由
緊急時の発信媒体として、SNSを使えばいいのではと考える経営者もいます。しかしそれは逆効果になりかねません。
SNSの投稿はあっという間に他の情報に埋もれ、見つけにくくなります。また、文字数の制限がある媒体では、複雑な状況を正確に伝えることもできません。さらに、SNSはそもそも日常の発信の場や嘘も含めて楽しむものという面があり、重大な事案の発信媒体としての信頼性に欠けます。叩いて閲覧数を稼ぎたい人が見張っている媒体に速報を出すとどうなるか。結果は火を見るよりも明らかです。
危機発生時に求められるのは、企業としての公式見解を、適切な文量で、いつでも参照できる形で公開することです。それができる媒体は、中小企業では自社のウェブサイトをおいて他にありません。
報道機関もステークホルダーも、企業の公式発表を確認する際は真っ先にHPを見ます。そこに何もなければ、あるいは更新が遅ければ、それだけで不信感が生まれます。事件が起きると記者が一斉に電話してきます。鳴りやまぬ電話、すべてに出る事はできない。となれば「取材に応じませんでした」と報道される。HPに「現在、事実確認と被害拡大の防止に努めており、取材のお電話には出られない可能性がございます。」と一言書いておくだけで避けられるリスクです。
第3章:「制作会社に頼んでいる」が命取りになる
経験上、多くの中小企業のHPは、制作会社が構築・管理しています。デザインのクオリティは高く、SEO対策も施されているサイトもしばしばです。しかし更新は制作会社に依頼する運用になっており、自社では編集できない、管理画面へのログインパスワードすら分からない状態になっています。
平時はそれで問題ありません。しかし危機が起きたとき、制作会社の営業時間外に緊急の更新ができない企業は、対応できない企業と同義です。深夜・早朝・土日祝日を問わず、危機は発生します。「月曜に連絡して、水曜に掲載してもらいます」では、ダメージコントロールになりません。
深刻なのは、管理画面へのアクセス権限すら自社に存在しないケースです。ログインIDもパスワードも制作会社が持っており、経営者が自社のHPにアクセスする手段がない。これはもはや運用の問題ではなく、ガバナンスの問題です。
自社の公式発信媒体を、他社がコントロールしている。その危うさを経営者が認識していない、あるいは認識しながら放置している。危機管理の文脈を離れても、これは早急に見直すべき経営課題です。アクセス権限のない自社HPは、他人のHPと変わりません。
第4章:今すぐ確認すべき、自社HPの危機対応力
危機管理広報の観点から、自社のHP運用を点検してください。確認すべきは3点です。
①深夜・休日でも、社内で更新できるか
CMSと呼ばれるコンテンツ管理システムが導入されていれば、専門知識がなくてもテキストの追加・更新が可能です。WordPressをはじめとする主要なCMSは操作が平易で、1〜2時間の研修で基本操作は習得できます。自社のHPがCMS管理になっているか、まず確認してください。
②更新できる担当者が複数いるか
担当者が一人しかいない場合、その人が対応できない状況では機能しません。最低でも2〜3名が更新できる体制を整えておく必要があります。経営者自身が更新できることが理想です。
③お知らせ・ニュース欄が独立して存在するか
危機発生時の発表は、HPのトップに近い場所に、独立した形で掲載される必要があります。緊急のお知らせを素早く目立つ形で掲載できる構造になっているか確認してください。
第5章:内製化の担い手として、副業人材が向いている理由
では、自社更新できる体制をどう作るか。ここで副業人材が力を発揮します。
HP運用の内製化に必要なのは、CMS操作の習得と、更新ルールの整備です。これは、外部の専門家に「ずっとやってもらう」仕事ではなく、「仕組みを作って社内に移管する」仕事です。ノウハウの移譲は副業人材が得意とする仕事です。
副業人材は稼働が限定されているため、自然と「自分がいなくても回る仕組みを作る」ことを志向します。そして、本業の収入で懐に余裕があり、顧客を囲い込む(依存させる・自分がいないと回らない状態を意図的につくる)インセンティブが薄い。ノウハウを開示し、マニュアルを整備し、社内担当者が自走できるまで伴走する。この動き方が、HP運用の内製化と相性抜群です。
実際に私が支援した企業では、ノウハウを学んでもらう社員を数名立ててもらい、CMS操作の研修・更新フローの整備・緊急時の対応手順書の作成、危機管理広報プレスリリースの言葉遣いのタブーリストまで一気に仕上げた例があります。以降はすべて社内で完結できるようになり、制作会社への依存から脱却できました。
外注に頼まず自分たちで発信できる会社にする。その目標に向けた最初の一手として、副業人材の起用は合理的な選択肢です。
まとめ
危機管理広報は、危機が起きてから準備するものではありません。平時に仕組みを整えておくものです。
どれだけ内部統制を高度化し、品質向上に努め、誠実な経営を続けていても、いざというときに自社HPで速やかに広報できなければ、隠蔽体質の会社と判断されます。アクセス権限すら自社にない状態は、広報リスクである前にガバナンスリスクです。
まずは自社のHP管理画面にログインできるかどうかを確認してみてください。できなければ、制作会社にアクセス権限の移管を依頼するところから始めてください。そして内製化の仕組みを作る伴走者として、副業人材の活用を検討してみてください。その積み重ねが、いざというときに企業を守ります。
成功に近道なし。共に頑張りましょう。
