副業人材との契約書はどれも似ています。
・期間は1〜3か月
・何もしなければ自動更新
・更新を止めたければ、1か月前に伝達
本稿では、この形がなぜ定着したのかを民法とフリーランス新法から読み解き、中小企業が契約の相場をどう解釈して使うべきかを書きます。
なお、本稿は2026年9月時点の法令に基づく一般的な整理です。個別の契約は、弁護士または社会保険労務士にご確認ください。
契約は大きく3種類
外部人材との契約は、民法では雇用・請負・委任の3つです。「業務委託」は、請負と委任をまとめた呼び名です。
3つの違いは、何に対して報酬を払うかです。
- 雇用(民法第623条):労働に従事することに払う。指揮命令ができ、労働法が適用される
- 請負(第632条):仕事の完成に払う。指揮命令はできない
- 委任(第643条):事務の処理そのものに払う。完成は約束しない。指揮命令はできない
委任は本来、法律行為を頼む契約で、それ以外の事務を頼む場合は準委任(第656条)と呼びます。副業人材との契約はほぼ準委任です。
副業人材と交わす契約書の表題はたいてい「業務委託契約書」です。請負か委任か、委任であれば委任か準委任かは記載内容で決まります。完成を約束しているか、事務の処理を約束しているか、法律的業務か否かで分類されます。
副業人材の契約はなぜ準委任なのか
採用される副業人材の多くは、名の知れた会社で正社員あるいは幹部として働いています。雇用の形で受け入れると労働時間が本業と通算され(労働基準法第38条第1項)、割増賃金や上限規制の管理が双方の会社に生じます。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」は、フリーランスや顧問など労働基準法が適用されない働き方を通算の対象外としているため、受け入れ企業は業務委託を選びます。この通算ルールは見直しが議論されていますが、2026年9月時点では現行のままです。
副業人材にフィットする依頼は、「売上を伸ばす仕組みをつくる」「採用の動線を整える」といった、非定型な依頼です。完成の形を定義できない仕事に、完成に対して払う請負は向きません。
雇用は副業と相性が悪く、請負は非定型と相性が悪い。ですから準委任というわけです。中小企業庁の3類型に当てはめると、次のようになります。
| 類型 | 仕事の性質 | 契約形態の典型 |
|---|---|---|
| タスク型 | 完成物を定義できる(記事、デザイン、資料) | 請負、または成果完成型の準委任 |
| プロジェクト型 | 期間と目標はあるが、途中の手順は決まっていない | 履行割合型の準委任 |
| ミッション型 | 経営課題そのものを任せる。完成形は動きながら決まる | 履行割合型の準委任(月額固定) |
注意点は指揮命令です。準委任では、業務の進め方や働く時間・場所を細かく指示できません。指示すると、契約の名称にかかわらず雇用と判断されることがあります(労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」1985年)。管理するのは成果と期限で、定例の打ち合わせや報告を求めることは問題ありません。
興味深いのは契約期間と終了通知の時期
個人的に興味深いのが、契約期間と終了通知の時期です。
副業人材との契約書の雛形は、依頼する企業側が作るのがスタンダードです(副業人材に作ってもらうと、企業不利な記載が混ざるかもしれず、チェックの負担が大きいため)。
契約期間は1〜3か月が大半で、期間の条項には決まって次のようなただし書きが付きます。
本契約の有効期間は、○年○月○日から○年○月○日までとする。ただし、期間満了の1か月前までに、いずれの当事者からも別段の意思表示がないときは、本契約は同一の条件をもってさらに1か月継続するものとし、以後も同様とする。
期間満了の1か月前までに更新しない旨を伝えれば、契約は終了します。伝えなければ自動更新されます。
なぜ1か月前なのかというと、「バランス」です。
民法上、委任は各当事者がいつでも解除できます(第651条第1項)。ただし、相手方に不利な時期の解除には損害賠償の責任が生じ得ます(同条第2項)。他方、2024年11月1日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(以下、フリーランス新法)が施行されました。この法律は、6か月以上続く業務委託の解除・不更新に、原則として30日前までの予告を発注側に義務づけています(第16条)。更新の通算で6か月以上になる場合も含み、求められれば理由を開示する義務もあります(同条第2項)。副業で業務委託を受ける会社員も、その業務の範囲では保護対象の「特定受託事業者」に該当し得ます(公正取引委員会Q&A・Q14)。
1か月前予告は、民法の「いつでも」とフリーランス新法の「30日前」のあいだに置かれた均衡点です。最初の1か月から法の最低線を守り、なおかつ短い周期で見直せる但し書きが、「終了は1カ月前に通知」というわけです。
雇い手優位な条件で契約が結べる背景に、需給の差があります
フリーランス新法で、終了通知がいつでもから30日前になりましたが、それでも圧倒的に雇い手優位な状況は変わりません。それでも副業人材がそれを受け入れて契約を結ぶ背景には、需給の差があります。
総務省「令和4年就業構造基本調査」によれば、非農林業従事者のうち、副業がある者は305万人、副業を希望する追加就業希望者は493万人。足すと約800万人です。対して、副業・兼業人材を「現在活用している」「現在活用していないが、活用したことはある」中小企業は合わせて約2割にとどまります(中小企業庁『2025年版 中小企業白書』)。単純計算で約67万社です。67万社の需要に800万人もの猛烈な供給があるわけです。
筆者は副業マッチングプラットフォーム内の担当者と話をすることがありますが、皆さんこぞって「1件に数十人が応募することが珍しくない」とおっしゃります。実際、筆者のクライアント企業からも同様の回答が返ってきます。
副業市場は圧倒的に雇い手優位。ゆえに企業優位な契約でも受け入れてもらえることが多いのです。
人材は会社の生死にかかわる
人員にも触れておきます。
中小企業336.5万者のうち、小規模企業は285.3万者、全企業の84.5%です(中小企業庁、2021年6月時点)。小規模企業とは、製造業などで従業員20人以下、商業・サービス業で5人以下の企業です。日本の会社の8割以上は、従業員20人以下の組織です。
帝国データバンクによれば、2025年度の人手不足倒産は441件で、前年度の約1.3倍、年度として初めて400件を超えました。従業員の退職を主因とする「従業員退職型」は118件で、初めて100件を超え、4年連続で増えています。規模で見ると、2025年(暦年)の人手不足倒産427件のうち330件、77.0%が従業員10人未満の企業でした。
5人の会社で1人辞めれば、戦力の2割が消えます。大企業ならなんてことはない1人の退職も、小規模企業では存続に関わる問題です。
少人数の組織は、新しいことに人を割けません。筆者の経験では、新しい事業や改善が進まない主要因は、担当できる人の不在です。
守るべきは自社、そして従業員と家族
副業人材を遠慮なく使ってください。
多くの応募者の中から採用される副業人材はハイポテンシャルで、本業の収入で生計を立てられています。中小企業の経営者として、従業員とそのご家族を第一になさってください。つまり、業績を上げるために、契約と法律を逸脱しない限り遠慮なく使ってほしいということです。
1か月の契約で始める。合わなければ終える。要望は率直に伝える。複数人と同時に契約して比べる。持っている知識と技術を、社内に出し切ってもらいます。
副業人材の能力移転型活用
契約終了後に社内へ能力を残すことを目的とする活用の型を、能力移転型と呼びます。
**能力移転型(のうりょくいてんがた)**とは、副業人材の活用において、業務の代行ではなく、社内人材への能力の移転と定着を契約の目的に据える活用型を指す。契約終了後も、外部人材の関与なしに社内でその業務を再現・運用できる状態(自走)をもって成果とする。
移転は、実演、並走、監修、自走の4段階を重なりながら進み、段階が進むごとに外部人材の稼働は減ります。1か月更新の契約なら、稼働の減少に合わせて契約の分量を毎月変えられます。並走から監修に進めば稼働を減らし、自走に至れば更新を止める。費用の性質は、「作業の対価」から「移転の対価」へ変わります。
能力移転元に副業人材が向く理由があります。コンサルティング会社やフリーランスにとって、発注元の自走は継続契約の終了を意味し、継続売上と顧客の自走のあいだに利害の不一致が生じます。本業の収入を主な生活基盤とする副業人材は、顧客の自走で契約が終わっても生計が揺らぎません。教えると損をする外部人材と、教えても困らない副業人材。この非対称が、能力移転の担い手として副業人材を特異な存在にしています。
まとめ
副業人材の契約書は、期間満了の1か月前に伝えれば更新を止められるように書かれます。民法とフリーランス新法のあいだに置かれた均衡点であり、需給の差がそれを支えています。数少ない、中小企業優位な土俵です。ルールを守ったうえで遠慮なく使い、自走を進めてください。
成功に近道なし。共に頑張りましょう。
よくある質問
Q1 更新しないと1か月前に告げるのは、副業人材に失礼ではありませんか。
失礼ではありません。契約書に双方の権利として書かれており、副業人材の側も同じ条件で終了を申し出られます。
Q2 指揮命令ができないなら、どうやって仕事を管理すればよいですか。
管理は建設的ではありません。企業は依頼先の入れ替えで対応します。
Q3 契約が6か月を超えたら、何が変わりますか。
解除・不更新に30日前の予告が義務になり(第16条)、育児・介護との両立への配慮も求められます(第13条)。契約書の予告期間が「1か月前」なら、法律の「30日前」とは月によって数日の差が出ます。予告期間を「30日前」にそろえておきましょう。
出典
- 民法(明治29年法律第89号)第623条・第632条・第643条・第648条の2・第651条・第656条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第38条第1項
- 労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」1985年12月19日
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号、2024年11月1日施行)第3条・第4条・第5条・第13条・第16条
- 公正取引委員会・中小企業庁「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 説明資料」 https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/download/freelance/law_02.pdf
- 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法 Q&A」 https://www.jftc.go.jp/fllaw_limited/fllaw_qa.html
- 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(2018年1月策定、2020年9月・2022年7月改定) https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000962665.pdf
- 経済産業省 中小企業庁・ミラサポplus「事例から学ぶ!『副業人材』」 https://mirasapo-plus.go.jp/hint/20187/
- 総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 結果の概要」2023年 https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2022/
- 中小企業庁『2025年版 中小企業白書』第2部第1章第4節 人材戦略(第2-1-53図) https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/chusho/b2_1_4.html
- 中小企業庁『2024年版 中小企業白書』第2部第1章第2節 多様な人材の活用(第2-1-36図) https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/chusho/b2_1_2.html
- 中小企業庁「中小企業・小規模事業者の数(2021年6月時点)の集計結果」2023年12月13日公表 https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/chu_kigyocnt/2023/231213chukigyocnt.html
- 帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年度)」2026年4月9日公表 https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260409-laborshortage-br25fy/
- 帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年)」2026年1月8日公表 https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260108-laborshortage-br2025/
- 砂川大輔(2026)「能力移転型とは」副業人材活用ラボ® https://fukukatsu-lab.com/nouryoku-iten/
- 砂川大輔(2026)『経営者のための副業人材活用・適正運用ガイドライン』副業人材活用ラボ®
- 砂川大輔(2026)『副業人材活用の戦略』整流出版
