AIが進化し内製化の妙味が増しています。とりわけ自社の情報を使ってする仕事です。例えば文章や資料づくりは見直す価値があります。
専門知識がない。社員の手が足りない。育てても辞められるかもしれない。こうした理由で外注を選んだ経営者もいるでしょう。ただし、外注を決めた当時と今では状況が変わっています。
筆者のお薦めは、AIと副業人材を組み合わせた内製化です。AIで日々の作業負担を軽くし、副業人材から専門知識や判断基準を学ぶ。そのうえで、社員が替わっても仕事を続けられる仕組みをつくります。
成果物の材料は自社にある
当然ながら多くの成果物の材料は自社が持っています。採用記事なら社員の経験、営業資料なら顧客の課題や商品の特徴、報告書なら日々の売上や問い合わせの記録です。
企業は、こうした情報をわざわざ外注先に渡し、文章や資料へ加工してもらってきました。その際には、材料を送るだけでなく、背景や目的を説明する必要があります。初稿を確認し、意図と異なる箇所の修正を依頼する時間もかかります。
たとえば、社員紹介の記事を外注する場面を考えてみてください。取材の日程を調整し、仕事内容を説明し、できた原稿を確認する。表現が実態と違えば、再び説明して直してもらう。発注企業にも相応の負担があります。
AIを使えば、取材記録から記事の初稿を作り、経験豊富な社員がレビューする。商談メモから提案書の構成を起こし、営業担当者が整える。自社で生まれた情報を、成果物としてあっという間にアウトプットできます。
かつてはスキルを要する作業がボトルネックでしたが、今やAIの進化により、誰でもある程度の作業をこなせるようになりました。今やボトルネックは人的コミュニケーションに移っています。意思疎通に時間がかかる業務ほど、自社でスピーディに消化する仕組みを確立する妙味があります。
AIで実務の負担が減る
AIによる業務の効率化は研究で示されています。顧客サポート担当者5,172人を対象とした研究では、生成AIの支援によって、時間当たりの問題解決件数が平均15%増えました。経験の浅い担当者ほど改善が大きかったと報告されています。出典:Generative AI at Work(2025年)
従来は専門家に任せていた仕事でも、社内で担えるようになっています。文章の初稿づくり、記録の要約、資料の構成などです。
ただし、AIが作ったものを評価する仕事は残ります。
AIが出してくるのは基本的に中央値ですから、「果たして企業競争力につながるか?差別化できるか?」という判断は依然として必要です。
外注先にも退職者は出る
内製化がためらわれる理由の一つは社員の退職です。育成に時間と費用をかけても、担当者が辞めれば仕事が止まる。この不安は理解できます。
若年層では、転職者の割合が相対的に高いことも事実です。総務省の2025年平均の調査では、就業者に占める転職者の割合は全体で4.8%でした。15〜24歳では9.9%、25〜34歳では7.1%です。出典:総務省「労働力調査〈詳細集計〉2025年平均結果」
しかし、よくよく考えてみると、退職は外注先でも起こります。中小企業の外注先は中小企業です。業務は属人化しており、近年はAIがシステムを作るので理解する者がいない状況に拍車がかかっています。
外注先の社内でもブラックボックス化が進んでおり、さらに人が辞める。ですから「外注すれば、退職によるノウハウの喪失に備えられる」は幻想です。外注はむしろ、自社と外注先の退職、二重のリスクを背負うのです。
社内にベストプラクティスを広める工夫
筆者はEC企業の在籍時、顧客レビューから重要評価項目ごとの影響を定量化し、商品の訴求を見直す手法をマニュアル化しました。その手法を社内に公開したところ社内賞をいただいたことがあります。人材流動性の高い外資系企業には、個人のベストプラクティスを、他の人にも広める仕組みがあります。
これは人治的な手法でしたが、基本はログを残させることです。AIを使う業務でも、考え方は共通します。どの情報を材料にするのか。何を目的に作るのか。どの状態なら使ってよいのか。こうした判断基準が手順と一緒に残るようにします。
社内で共有したいものは、次の五つです。
- 元データと、その保管場所
- 作業手順と、AIへの指示文
- 成果物のひな型と、良い例・悪い例
- 品質の確認項目と、修正した理由
- アカウントの管理方法と、担当者・確認者の役割
とくに、修正の理由は重要です。採用記事を直したなら、事実が違ったのか、説明が足りなかったのか、求職者の知りたいことから外れていたのか。競争優位(多くの場合、差別化)に繋がらなかったのか。理由が分かれば、後任も同じ観点で原稿を確認できます。
資料を残した後は、別の社員が実際に作業できるかを確かめます。つまずいた箇所は手順に補い、業務が変われば更新する。成果物のあるなしと、仕事を再現できることは分けて考えたいところです。
副業人材から能力を移転する
「その仕組みをつくれる人が社内にいない」。そうした企業に勧めたいのが、副業人材の能力移転型活用です。
筆者が提唱する能力移転型は、社員への能力の移転と定着を、契約の目的に据える活用方法です。契約終了後も、社内で対象業務を再現・運用できる状態を目指します。詳しい定義は、「能力移転型とは」で整理しています。
たとえば、採用記事の作成を内製化するなら、次のように進めます。
- 実演:副業人材が一本の記事を作り、取材項目やAIへの指示、原稿を直す理由を説明します。
- 並走:社員も材料の整理や執筆を担い、副業人材と一緒に仕上げます。
- 監修:社員が主体となって作成し、副業人材は内容を確認して改善点を伝えます。
- 自走:社員が社内の手順と判断基準を使い、作成から確認・公開まで進めます。
筆者の支援でも、ホームページの担当者に記事の作成や掲載を練習してもらい、その操作をサポートしたことがあります。担当者自身が手を動かすと、説明だけでは気づけなかった粗が見えてきます。
一度の練習で継続運用まで保証できるわけではありません。次の仕事でも再現できるか、迷ったときに判断できるかを、実務のなかで確かめる必要があります。
副業人材を選ぶ際は、実務能力に加え、判断基準を言葉にする力を見てください。相手の理解度に合わせて説明し、自社で使える手順へ整理できる人が適しています。
受け入れ企業も、学ぶ担当者と実践の時間を用意します。何をできるようになるのか、何を資料として残すのか、どうなれば支援を減らせるのか。到達目標を契約の初めに合意することが大切です。
まず一つの業務で採算と再現性を確かめる
内製化の候補は、自社の情報を多く使い、繰り返し発生し、社内で品質を確認できるタスクです。現在外注している業務から、この条件に合うものを一つ選んでください。
比較するのは、同じ品質・業務量・期間での総コストです。外注には委託料と社内の説明・確認時間がかかります。要はコミュニケーションコストです。内製には、能力移転の費用、AIの利用料、社員の作業・確認時間、手順の更新や後任教育の負担があります。
社員の時間もコストです。内製化した結果、営業や顧客対応に支障が出るなら、その影響も含めて判断します。
よくある質問
Q1.AIがあれば、中小企業はすべての業務を内製化できますか?
内製化の範囲は、社員が品質を確認できる業務から広げるのが現実的です。AIを使っても、材料の整理や出力の確認は必要です。
Q2.内製化すると、必ず外注費より安くなりますか?
費用が下がるかは、業務の頻度、社員の作業時間、必要な品質によって変わります。外注の委託料・説明時間と、内製の育成費用・AI利用料・作業時間を比較してください。
Q3.社員が退職したら、内製化への投資は無駄になりませんか?
退職の影響を抑えるには、情報、手順、判断基準を会社で共有する必要があります。別の担当者が実際に作業できるかも確かめます。外注先でも担当者交代は起こるため、内製・外注のどちらでも引き継げる体制が重要です。
Q4.副業人材の能力移転型活用とは何ですか?
副業人材から社員への能力の移転と定着を、契約の目的に据える活用方法です。砂川大輔が提唱し、契約終了後も社内で対象業務を再現・運用できる状態を目指します。実演・並走・監修・自走を通じて、社員が実務を担える範囲を広げます。
Q5.社内に詳しい社員がいない場合、何から始めればよいですか?
まず、内製化したい業務を一つ選び、学ぶ担当者と時間を確保してください。その業務に詳しく、判断の理由まで説明できる副業人材に支援を依頼します。残す資料と到達目標を決め、社員が実際の仕事を通じて学ぶ形にします。
AIによって、従来の外注判断を見直せる余地が生まれています。いま社外へ渡している情報と、それを成果物にするための仕事を、一度棚卸ししてみてください。
副業人材から学び、社員が実践し、その経験を会社の仕組みに残す。AI時代の内製化は、自社の能力を育てる機会でもあります。
成功に近道なし。共に頑張りましょう。
