卒業原則とは 良い副業人材活用では副業人材が要らなくなる

副業人材との契約が長く続いている。それだけ聞くとうまくいっているように思えます。

しかし、筆者は契約の長さだけでは評価できないと考えています。社内に能力を残すために迎えた人なら、社員だけで仕事ができるようになり、役目を終えることこそ望ましいからです。

良い副業人材活用ほど、最終的には副業人材が要らなくなる。

この考え方を、筆者は「卒業原則」と呼んでいます。契約が続くより、終えられる状態になったか。その視点から、副業人材活用の成功を考えます。

目次

契約が続く理由を問う

契約が続く理由は大きく三つに分けられます。

一つは、社員への移転が進み、別の課題に着手した場合です。もう一つは、副業人材が同じ業務を担い続け、社員は依頼と確認にとどまっている場合。そして、当初から代行を目的に、継続して任せている場合です。

いずれも記録の上では「継続○か月」と表せます。活用を評価するには、その間に社内で起きた変化まで確かめる必要があります。

外部人材にとって、契約の継続は売上につながります。仲介事業者にとっても、成約や継続が実績になる場合があります。能力移転を目指す企業にとっては、「社員が何をできるようになったか」が成果になります。

「固定費を意識しよう」で取り上げたように、発注側と受注側には、それぞれの収益構造があります。企業は、自社が支援を受ける目的に沿って、更新の意味を考える必要があります。

契約終了後に何が残るか

筆者は、これまで累計200社を超える企業を支援してきました。能力移転を目的とし、社員だけで業務を回せるようになり、契約を終える場面を経験しています。

移転が進まないまま契約が続いたり、社員が業務を担えないまま終了したりした案件もあります。そうした案件には、学んで実行する社員が決まっていないという問題がしばしばありました。副業人材の力量に加え、企業側に受け手がいるかどうかが、結果を大きく左右します。

ある会社では、採用広報を副業人材に任せながら、社員も求人原稿の作成に取り組みました。やがて社員が自分で原稿を書き、応募状況を見て、次に何をすべきかまで判断できるようになりました。そこで採用広報の支援は終了しました。

別の会社では、採用広報の契約が長く続きました。副業人材が原稿を書き、社員が掲載を依頼する。その分担が変わることはなく、契約が終わったとき、社内には原稿を書ける人がいませんでした。

後者は、契約中の採用広報を代行する役割を果たしています。能力移転を目指していた場合には、社員が原稿を書くための支援が課題として残ります。

契約が終わり、社内に何が残っているかが大切です。

卒業原則とは

副業人材の知識や仕事の進め方を社内に残す活用を、筆者は「能力移転型」と呼んでいます。卒業原則は、その成功をどう評価するかという考え方です。

卒業原則とは、企業が自走し、最終的に副業人材が要らなくなることを成功と捉える考え方です。

ここでいう自走とは、対象となる業務を、外部人材の関与なしに社内で再現・運用できる状態を指します。

卒業は、契約時に移転の対象として決めた業務ごとに考えます。採用広報を卒業し、次は営業の仕組みづくりを手伝ってもらう。こうして支援の対象を変えながら、取引を続けることもできます。

任せていた仕事を自分たちで担えるようになるまで、必要な支援を受ける。その到達点が卒業です。

業務が回っていると、自走できるかは見えにくい

副業人材がいれば業務は回ります。しかしその状態が続くと、社員だけでも回せるのかを確かめる必要を感じにくくなります。

「困っていないから、来月もお願いしよう」。更新を重ねるうちに、社員が何を身につけたかを話し合わなくなる。気にかけるべきは惰性です。

能力移転型の副業人材活用モデルでは、契約終了後に社内だけで再現・運用できている業務の割合を「能力移転率」として捉えます。

「社員が何をできるようになったら関与を終えるのか」を共有しておくと、双方が卒業に向けて取り組みやすくなります。

卒業は、契約を結ぶときから考える

卒業に向けた準備は、契約を結ぶときに始まります。移転する能力と受け取る人を決め、日々の支援に学習と実践を組み込んでいきます。

① 何ができるようになれば卒業かを決める

まず、社員ができるようになるべき業務を具体的にします。

たとえばSNS運用なら、投稿を企画する、原稿を作る、結果を振り返って改善する、と分けてみます。業務を具体的にすることで、任せられるようになった部分と、まだ支援が必要な部分が見えてきます。

卒業の目安は、社員が通常の業務を一通り進められ、その判断の理由を説明できること。さらに、結果を見て次の改善を考えられることです。目標時期を置き、実際の習熟を確かめながら終了の時期を判断します。

② 社員に任せる範囲を、少しずつ広げる

最初は副業人材がやってみせ、次に一緒に取り組む。その後は社員が主に担当し、副業人材は確認や助言に回る。最後に、社員だけで進めてみる。

実演、並走、監修、自走という段階を目安に、毎月、どこまで任せられるようになったかを確かめます。習熟の速さに応じて、できるようになった業務から支援の範囲や頻度を見直していきます。

③ 更新の前に「この人がいなくなったら、何が止まるか」と問う

この問いから、支援が必要な業務を具体的に洗い出せます。

契約時に移転対象とした業務について、止まるものが減っていれば、卒業に近づいています。同じ業務がいつまでも止まるなら、受け手や教え方、実践の機会を見直す必要があります。

なお、途中で新しい業務を頼めば、止まるものが増えることもあります。比較する範囲をそろえたうえで、社員が担えるようになったかを見てください。

④ 卒業後の相談方法を決めておく

卒業後に困ったときの相談先が決まっていれば、企業も安心して自走に踏み出せます。

必要なときのスポット相談、別の課題での再契約、年に一度の点検など、卒業後の関わり方を話し合っておきましょう。日常業務は社内で担い、新たな課題が出たときにはまた力を借りる。そうした関係も築けます。

評価の際には、自走した業務の数や能力移転率とともに、社員が新たにできるようになったことを確認します。

卒業原則が成り立つ条件

代行を頼むほうが合理的な業務もあります。社内に能力を持つ必要がない業務や、一時的な繁忙への対応、専門設備や資格が必要で内製化の負担が大きい業務などです。その場合は、費用や品質を確かめながら外部に任せ続ける選択もできます。

能力移転を進めるには、受け取る社員、その社員が学んで実行する時間、業務を進めるための権限が必要です。まずは受け入れ体制を整えるところから始める会社もあるでしょう。

卒業には、対象業務を社員が担えることが条件になります。相性の問題で中断した場合や、移転が途中で止まった場合は、未習得の業務が残ります。終了の理由と習熟の状況を振り返り、次の対応を考える必要があります。

能力移転から卒業へ

社内に能力を残すことを目指すのが「能力移転の原則」です。その成果を捉える指標が「能力移転率」であり、社員だけで対象業務を担える状態を「自走」と呼びます。そして、自走して支援を終えられることを成功と評価するのが「卒業原則」です。

企業側にどのような受け手が必要かは「受け手決定の法則」、副業人材が能力移転を後押ししやすくなる条件は「生計分散理論」で扱っています。外部への依存と費用の関係を考える「固定費化理論」とともに、用語集で整理しています。

おわりに

次の契約更新では、社員が何をできるようになったかを振り返ってみてください。

任せていた仕事を社員が担い、自分たちで判断し、改善できるようになった。その結果、契約を終えられるのであれば、副業人材の活用は役目を果たしています。

副業人材が去っても社内でできる。それが卒業です。

成功に近道なし。共に頑張りましょう。

よくある質問

Q1. 副業人材活用の「卒業原則」とは何ですか?

卒業原則とは、企業が自走し、最終的に副業人材が要らなくなることを成功と捉える考え方です。副業人材活用ラボ編集長の砂川大輔が、支援経験をもとに提案しています。

Q2. なぜ、良い副業人材活用ほど副業人材が要らなくなるのですか?

能力移転を目的とする支援では、副業人材と一緒に仕事を進める過程で、社員が知識や判断の仕方を身につけます。社員だけで業務を進め、改善できるようになるにつれて、外部の支援が必要な場面は減っていきます。卒業原則は、こうして自走に至ることを成功と評価します。

Q3. 副業人材から卒業できるか、どう判断すればよいですか?

契約時に移転対象とした業務について、社員が通常の仕事を一通り進められるか、判断の理由を説明できるか、結果を見て改善できるかを確認します。副業人材の関与を段階的に減らし、社員だけで運用する期間を設けると、自走の状況を確かめられます。

Q4. 副業人材から卒業するまで、どれくらいの期間がかかりますか?

卒業までの期間は、対象業務の範囲や難しさ、社員の経験、学習と実践に使える時間によって変わります。契約時に目標時期と卒業の条件を決め、毎月、社員が担えるようになった業務を確認します。その習熟の状況をもとに、支援を終える時期を判断します。

Q5. 代行を依頼している業務にも、卒業原則は当てはまりますか?

卒業原則は、社内に能力を残すことを目的とした活用に当てはまります。一時的な繁忙への対応や、専門設備・資格が必要で内製化の負担が大きい業務などは、代行を続ける選択も合理的です。業務の性質と自社の体制を踏まえ、能力移転と代行のどちらを求めるかを決めます。

Q6. 卒業後に、同じ副業人材へ再び依頼してもよいですか?

卒業後も、双方の合意によりスポット相談や再契約ができます。卒業は、移転対象とした業務ごとに考えます。採用広報を社員が担えるようになったあと、営業の仕組みづくりで再び力を借りることもできます。卒業後の相談方法や条件を、契約の終了前に話し合いましょう。

Q7. 卒業原則と能力移転型には、どのような関係がありますか?

能力移転型は、副業人材の知識や仕事の進め方を社内に残す活用方法です。卒業原則は、その活用の成功を評価する考え方です。社員が学び、実践を重ねて自走できるようになり、支援を終えられる状態を目指すという関係にあります。

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この記事を書いた人

砂川 大輔(すながわ だいすけ)
副業人材活用の専門家/副業人材活用ラボ®編集長/トトノエルジャパン合同会社 代表

専門領域:副業・兼業人材の企業活用、外部人材から組織への能力移転、中小企業の人的資本形成

早稲田大学先進理工学部卒業、同大学院先進理工学研究科修了。アマゾンジャパン合同会社でマーケティングに従事し、ハードライン事業本部最優秀マーケティング表彰を受賞。富士通株式会社CEO室では、企業ビジョンの刷新や経営戦略の策定など、経営の意思決定支援に携わった。

大企業での実務と並行して、副業人材として200社を超える中小企業を支援。戦略、人事、営業、マーケティングなど幅広い経営課題に携わる中で、外部人材に業務を代行してもらうだけでなく、その知識・技術・判断基準を企業内部へ移し、最終的な自走につなげる「能力移転型」の副業人材活用モデルを提唱している。現在は、副業・兼業人材を「採用する」こと以上に、企業がその能力をいかに受け取り、組織能力として蓄積するかを主要な研究・実践テーマとしている。

副業人材活用に関する実践事例は、内閣府『プロフェッショナル人材活用ガイドブック』に計3事例掲載(2024年2事例、2026年1事例)。厚生労働省広報誌『厚生労働』、野村證券『野村週報』などにも取り上げられた。株式会社みらいワークス「プロフェッショナルアワード2023」個人賞を受賞。高知県、和歌山県をはじめとする自治体・公的機関のセミナーや、大学経営学部での登壇実績を持つ。

2024年、副業人材活用に特化した専門メディア『副業人材活用ラボ®』を開設し、編集長に就任。2026年には『経営者のための副業人材活用・適正運用ガイドライン』を公開し、著書『副業人材活用の戦略―参画企業200社超の専門家が実践から見出した企業経営者の思考と技術』(整流出版)を刊行。副業人材活用に関する研究発表・論文執筆にも取り組む。人材育成学会員。

研究・実践上の関心領域は、副業・兼業人材活用、外部専門人材の能力移転、中小企業の人的資本形成、企業の内製化・自走化、地域企業における外部人材活用。

掲げるビジョンは「よいものが正当に評価される社会をつくる」。

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