「なぜ、うちのような小さな会社に力を貸してくれるのですか」
副業人材として企業を支援していると経営者からよく尋ねられます。「お小遣い稼ぎですか」と続くこともあります。
本業を持ちながら、月に数万円の報酬で、知らない会社の難しい課題に向き合う。経営者からすれば、その理由が気になるのでしょう。
もちろん、対価をいただけるのはありがたいことです。ただ、私自身の経験に照らすと、報酬の額だけでは、この仕事を続ける理由を十分に説明できません。
著書『副業人材活用の戦略』では、副業人材という存在をよく知らないまま迎えると活用につまずくと述べました。「副業をする人は、お金を増やしたい人」という理解も、その一つです。
副業をする人には、さまざまな立場の人がいます。本業の年収別に見ると、収入の低い層に加えて、高い層でも副業実施率が高い。事実ベースで中小企業を支援する副業人材の動機を考えてみます。
年収が高くなると、副業実施率は再び上がる
総務省「令和4年就業構造基本調査」によると、2022年10月時点の有業者は約6,706万人。そのうち、副業がある人は約332万人で、全体の約5.0%です。
本業の年収別に副業実施率を計算すると、50万円未満では9.7%。700万〜799万円では2.5%まで下がりますが、その先は再び上昇し、1,500万円以上では9.6%になります。正規の職員・従業員に限っても、おおむね同じ傾向が見られます。

出典:総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」全国編の年収別集計から算出。
年収の低い層から中間層にかけて下がり、高い層で上がる。折れ線は大きく見るとU字を描きます。本業の収入が高い人にとっても、副業は縁遠い働き方ではないのです。
ただし、これは各年収層のうち、副業をしている人の「割合」です。副業者の「人数」が、低年収層と高年収層に同じくらい集まっているわけではありません。
副業者約332万人のうち、本業年収200万円未満の人は約161万人で、全体の48.6%を占めます。一方、1,000万円以上の人は約17万人で、5.0%です。

出典:総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」全国編の年収別集計から算出。構成比の分母は所得不詳を含む副業者総数。
実施率は年収の両端で高く、人数は低年収側に偏っている。率と数に注意する必要があります。
調査の多数派と、自社が迎える人は異なる
では、副業をする人は何を求めているのでしょうか。
労働政策研究・研修機構(JILPT)が2022年に行った調査では、副業の理由として「収入を増やしたいから」を挙げた人が54.5%で、最も多くなっています。収入が主要な動機であることは確かです。同じ調査では、本業の月収が20万円以上の範囲で、月収が高いほど、金銭目的を主な理由とする人の割合が低くなる傾向も報告されています。『副業者の就労に関する調査』
全体の集計は、副業者の姿を広く知るうえで役立ちます。ただ、中小企業が経営企画や営業のしくみづくりを任せようとするときには、もう一段、対象を絞って考える必要があります。
求人には人材要件があります。応募する人は仕事内容や条件を読み、企業はその中から相手を選びます。こうして出会う人たちの構成は、副業者全体の構成と同じにはなりません。
私が200社を超える企業の支援に関わるなかでは、本業で責任ある仕事を担いながら、中小企業の課題に関心を寄せる人たちに接してきました。大手企業で培った経験を、別の環境で生かそうとする人たちです。
もっとも、採用される人の大半が年収1,000万円以上だと示すデータはありません。私が接してきた人たちにも、仕事や募集経路による偏りがあるでしょう。
ここで伝えたいのは、統計の最多回答だけで、目の前の人の動機を決めてしまわないでほしい、ということです。
本業で得にくい手応えを、社外に求める
著書では、中小企業の支援に向かう副業人材の動機を、私の観察から二つに整理しました。自分の腕を試し、磨きたいという思い。そして、難しい課題に挑みたいという思いです。
大企業では、仕事の型を学ぶ機会に恵まれます。営業の進め方、事業計画の立て方、組織の動かし方。長年にわたって磨かれたしくみの中で、経験を積めます。
一方で、役割が細かく分かれているため、一人で担える範囲は限られます。成果が出ても、会社の知名度や商品力、多くの同僚の働きが重なっていて、自分の力がどこまで通用したのか、実感しにくいことがあります。
そこで、自分の経験を違う環境で試したくなる。
たとえば、営業の進め方を一緒に見直し、社員が自分で顧客との商談を前に進められるようになる。採用の伝え方を変え、これまで接点のなかった人から応募が届く。中小企業では、自分の働きかけと会社の変化を近くで見られます。その手応えに価値を感じる人がいるのです。
難題に惹かれるのも、同じ理由です。すでに答えのある仕事を繰り返すだけでは、自分の引き出しは増えません。予算も人手も限られた会社で、何から変えれば状況が動くのかを考える。その経験が、支援する側の力も育てます。
企業が抱える課題は、こうした人にとって、自分の経験を生かし、さらに学ぶ機会になります。
この見方に関係する動きとして、パーソル総合研究所の2025年調査では、正社員の副業理由のうち、社外でスキルを試したいという回答が2023年調査より増えています。ただし、収入に関する理由は引き続き上位です。「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」
収入を得たい気持ちと、腕を磨きたい気持ちは、一人の中に共存します。どちらが強いかも、時期や案件によって変わります。相手が今回の仕事に何を求めているかを知ることが、活用のスタート地点になります。
本業があるから、引き受けられる仕事がある
本業で生活の基盤を持つ人は、副業先一社の契約が終わっても、収入のすべてを失うわけではありません。そのため、目先の報酬に加えて、仕事の内容や学べることを考慮して案件を選ぶ余地が生まれます。
これは、企業が自走するための支援とも相性のよい条件です。
自分が仕事を抱え続ければ、契約を続ける理由になります。けれど、社員に考え方ややり方を伝え、会社だけで回せるようになれば、自分の出番は減ります。副業先への収入依存度が低いことは、その変化を受け入れやすくする一つの要因になると、私は考えています。
社員ができることを増やし、最後には支援を終えられる。その過程に、自分の仕事の成果を感じる人がいます。このような活用を評価する考え方が、別稿で述べた卒業原則です。
もちろん、本業の収入があるだけで、知識を惜しまず伝えてくれるとは限りません。本人の姿勢も、教える力も確かめる必要があります。
また、本業を持つ人が使える時間には限りがあります。私が本書で主に想定しているのは、週に数時間、長くても十数時間ほど関わる支援です。その時間で何を担い、社員に何を引き継ぐか。活用の設計が欠かせません。
5. 課題に向き合える環境を用意する
腕を試したい人を迎えたのに、任せるのは指示どおりの作業ばかり。改善案を求めながら、必要な情報は渡さない。提案を受け取っても、いつまでも判断しない。
こうした状況が続けば、相手は、この会社で自分の力を発揮できるのかと考え始めます。報酬を増やしても、仕事が進まない原因は残ります。
著書では、優秀な副業人材が関心を持つ案件の条件として、挑みがいのある課題、速い意思決定、異なる意見に耳を傾ける経営者の姿勢を挙げました。大きな予算を用意しにくい企業にも、整えられる条件です。
そのために、まず次の五つを、社内と副業人材の間で共有しておくとよいでしょう。
| 共有すること | 話し合っておきたい内容 |
|---|---|
| 目的 | 今、何を変える必要があるのか |
| 成果 | どのような状態まで進めば、支援の目的を果たしたといえるか |
| 範囲 | どこまで任せ、何を社内で担うか |
| 制約 | 予算、期間、使える情報、社員が割ける時間はどれくらいか |
| 役割 | 誰が判断し、誰が実行し、誰がやり方を身につけるか |
募集前にすべてを決め切る必要はありません。面談で相手の見立ても聞き、一緒に具体化すればよいのです。
依頼する仕事も、会社の課題から考えます。営業資料が必要なら、資料をつくるところで終えず、誰に何を伝え、どう商談につなげるかまで相談する。その考え方を社員が理解し、次の資料や商談にも生かせるようにする。
こうして相手の経験を会社に残すことが、私の勧める能力移転型の活用です。受け入れる企業の準備が成果を左右するという受け手決定の法則も、ここにつながります。
課題への挑戦や成長の機会は、適切な報酬とともに用意するものです。相手の意欲に頼って、際限なく仕事を増やすことがないよう、業務の範囲と条件をすり合わせてください。
面談では、その人が応募した理由を聞く
年収別の統計を見てきましたが、採用の場で年収を能力や意欲の物差しにすることは勧めません。
収入は、業種、年齢、勤務先、働く時間などによって変わります。時短勤務をしている人や独立したばかりの人にも、力のある人はいます。高い収入を得ている人にも、追加収入を主な目的としている人はいます。
面談では、率直に聞いてみてください。
「今回の仕事の、どこに関心を持ちましたか」
「この取り組みを通じて、どんな経験を得たいですか」
答えが「腕を試したい」である必要はありません。収入を増やすためでも、将来の独立に備えるためでも、その動機と自社の仕事が合っていれば、一緒に成果を目指せます。
そのうえで、これまで何を経験し、今回の課題をどう捉え、限られた時間でどこまで関われるのかを確かめます。肩書や意欲だけで、適性が決まるわけではありません。
副業者全体の調査は、社会の姿を知るためにあります。自社での活用を考えるときは、そこから目の前の一人へと視線を移してください。
なぜ、この人は本業のあるなかで、わが社のために時間を使おうとしているのか。その理由がわかると、頼む仕事も、用意すべき環境も見えてきます。
成功に近道なし。共に頑張りましょう。
よくある質問
副業をする人の年収は、二極化しているのですか。
2022年の就業構造基本調査から確認できるのは、本業年収が低い層と高い層で副業実施率が高い、という傾向です。副業者の人数は低年収側に偏っており、人数が二つの層に同程度に分かれているわけではありません。
本業の年収が高い人は、なぜ副業をするのですか。
追加収入のほか、社外で経験を生かすこと、新しい課題に挑むこと、将来の選択肢を広げることなどが考えられます。私が企業支援の現場で接してきた人たちには、自分の腕を試し、磨く機会を求める人もいます。実際の動機は、本人に確かめる必要があります。
報酬を上げれば、よい副業人材に来てもらえますか。
報酬は応募や継続を判断する条件の一つです。仕事内容、業務量、裁量、会社の協力体制も関わります。金額を見直す際には、相手の経験が生きる仕事を用意できているか、提案を実行に移せる体制があるかも点検してください。
本業の年収が低い人は、採用を避けたほうがよいですか。
年収だけで判断することは勧めません。今回の仕事に必要な経験、課題への理解、関われる時間、知識を伝える姿勢などを確かめてください。本稿の年収別データは、個人の能力や動機を判定するためのものではありません。
副業人材を迎えれば、会社は自走できるようになりますか。
採用だけで自走が実現するわけではありません。本人の適性に加えて、社員が知識を受け取り、実行し、身につける機会が必要です。何を社内に残すかを合意し、担当者と時間を確保することから始めてください。
データと記述について
本稿の「年収」は、主な仕事からの年間収入・収益を指します。副業収入を含む合計年収や世帯年収とは異なります。副業者約332万人は農林業従事者を含む集計であり、同調査の結果概要にある非農林業従事者の副業者約305万人とは集計範囲が異なります。
図表①②の横軸は、幅の異なる年収階級を順に並べています。図表②は階級ごとの人数であり、同じ年収幅にそろえた人口密度を示す図ではありません。所得不詳の人は図示していませんが、副業者総数には含みます。
JILPTの調査は2022年10月に行われ、2024年に公表された、18〜64歳の登録モニターを対象とするインターネット調査です。54.5%は複数回答の結果です。金銭目的と本業月収との関係は、「最もあてはまる理由」を使った別の分析に基づきます。就業構造基本調査とは対象や方法が異なるため、一方の回答者構成を他方にそのまま当てはめることはできません。
副業人材の動機、案件の選び方、能力移転への姿勢に関する記述は、著書と筆者の企業支援経験に基づく見方です。年収別の統計から、個人の動機、能力、採用される確率を導いたものではありません。
参考資料・関連記事
- 総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」(2022年10月1日現在、2023年7月21日公表)。図表①②は全国編・表05200、20600に基づく年収別集計。
- 労働政策研究・研修機構(2024)『副業者の就労に関する調査』JILPT調査シリーズNo.245、第2章第3節。
- パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」。
- 砂川大輔(2026)『副業人材活用の戦略 参画企業200社超の専門家が実践から見出した企業経営者の思考と技術』整流出版、第2・4・6・7章。
- 副業人材活用ラボ®「卒業原則とは|良い副業人材活用ほど、副業人材が要らなくなる」。
- 副業人材活用ラボ®「受け手決定の法則とは 同じ副業人材でも成果が変わる」。
