採用サイトはターゲット理解で9割決まる

目次

はじめに

建設や製造など、いわゆる採用難な業界の企業から採用サイトをつくってほしいという依頼が増えています。今回は思うところを紹介します。

採用サイトはデザインやコピーライティングの問題だと思われがちです。しかし制作にかかる前の段階、つまりディレクションの質が採用サイトの成否をほぼ決めます。雑な構想のまま制作に進んだサイトは、どれだけ見栄えが良くても機能しません。


第1章:採用サイトで本当に大切なこと

採用サイトは会社を紹介するページではありません。特定の人材に、特定のメッセージを届けて心を動かし、行動を変えてもらうための媒体です。

採用サイトで最も大切なのは、ターゲット選定と、そのターゲットの背景の深掘りです。順番で言えば、以下の4段階になります。

① 事業戦略から人材要件を定める

採用サイトは事業戦略の実現手段です。どんな事業を、どんな体制で進めるのか。その実現に必要な機能は何で、それを担える人材はどんなスキルやマインドセットと経験を持つ人か。ここが定まらないまま採用サイトを作っても、要件に見合う人は集まりません。

② ターゲットが集まっている塊を見つける

人材要件が定まったら、その条件を満たす人材がどこにいるかを考えます。どんな会社に勤めているか、どんなキャリアの段階にいるか、どんなメディアを見ているか、単身者か家族暮らしか、ターゲットの輪郭が具体的になるほど、メッセージの精度が上がります。

③ ターゲットの葛藤を理解する

ターゲットが特定できたら、その人々が置かれた状況と心の葛藤を掘り下げます。今の職場に何を不満に感じているか、転職で何を実現したいか、何を恐れているか。この理解なしに書かれたキャッチコピーは響きません。

④ 葛藤を解消できる根拠を並べる

ターゲットの葛藤が分かれば、自社ならそれを解消できるというメッセージが設計できます。強力なキャッチ、共感を呼ぶ画像、説得力あるエビデンス。これらは葛藤の理解があって初めて的を得ます。


第2章:採用サイトでは中小企業が大企業に勝てる

採用といえば大企業が有利というイメージが根強くあります。知名度、給与水準、福利厚生。確かにこれらでは敵いません。しかし採用サイトの設計という観点に限れば、中小企業には大企業にはない強みがあります。

大企業の採用サイトを見ると、ミッション・ビジョン・バリューの紹介、経営者メッセージが並んでいます。なぜそうなるかというと、大企業には複数の事業・役職・職種があるので、その職種に合った個々人むけのメッセージを出せないからです。営業も、エンジニアも、管理部門も、新卒も、中途も、同じサイトで訴求しなければならない。必然的にターゲットを絞れず、万人受けを狙った作りになります。

企業のビジョンや信念を伝えることは大切です。しかしそれが個々の求職者の心を動かすかというと、そうではありません。この会社は良さそうだという印象は与えられても、自分はここで働きたいという確信には至りません。大企業の採用サイトが抱える構造的な限界です。この対策として、大企業はミッションやビジョンを社会貢献型のメッセージに改めようとしています。Googleの “世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること” は、NOを突き付ける人がほぼいない万人受けフレーズとして先見の明がありました。

大企業は万人受けする採用サイトをつくらねばなりませんが、中小企業は違います。事業がシンプルで、求める職種も限られている。だからこそターゲットを一点に絞り込んだ訴求ができます。たとえば「開発に没頭できる」といった表現は、エンジニアリングがやりたくて大手自動車メーカーに入ったのに、蓋を開けてみれば下請けへの指示業務ばかりだったと悩む現場志向者に響きます。特定の誰かに向けたメッセージが書ける。中小企業は、その人が抱える葛藤に直接語りかけ、この会社なら自分の悩みが解消できるという希望を、採用サイトで示せるのです。

ターゲットを絞れる企業ほど、採用サイトは魅力を増します。中小企業がこのアドバンテージを使わない手はありません。


第3章:なぜ雑な採用サイトが量産されるのか

ここまで読んで当たり前のことではないかと思った方もいるかもしれません。しかし支援の現場では、この当たり前が実践されていない採用サイトを繰り返し目にします。

雑な採用サイトが量産される背景には、いくつかのパターンがあります。

制作会社に丸投げする

採用サイトの制作依頼を受けた制作会社は、デザインと文章の制作はできます。しかし事業戦略の読み解きや、ターゲットの葛藤の掘り下げは、本来クライアント側がディレクションすべき仕事です。その部分が曖昧なまま発注されると、制作会社は既存の社員インタビューと会社概要をもとにそれらしいサイトを作るしかありません。見栄えは整っているが、誰のためのページか分からないサイトが出来上がります。

採用の目的が欠員補充になっている

前任者が辞めたから採用したい、人手が足りないから増やしたい。この動機で動き出した採用は、ターゲット設定が甘くなります。とにかく来てほしいという焦りでターゲット理解に時間をかけられていない。メッセージはどこかで見たような量産型になります。

ディレクションできる人材が社内にいない

採用サイトのディレクションには、事業戦略の理解、人材市場の知識、ターゲットの心理への洞察が必要です。これらを兼ね備えた人材が社内にいない中小企業では、ディレクションそのものが行われないまま制作に進んでしまいます。


第4章:副業人材がディレクションに向いている理由

採用サイトのディレクションを適切に行うには、事業戦略の理解、人材市場の知識、ターゲットの心理への洞察という3つの要素が必要です。これらを社内で揃えるのが難しい中小企業にとって、副業人材は現実的な選択肢です。

大企業の人事・採用・マーケティング部門を経験した副業人材は、ターゲット設定と訴求設計の上流工程を経験してきた人材が多くいます。また複数の企業に伴走してきた経験から、業界や職種を横断した比較の視点も持っています。この会社のターゲット設定は他社と比べてどこが甘いか、という判断が社内の人間より精度高くできます。

加えて、副業人材は社内の利害関係に縛られません。この採用要件では集まらない、このキャッチコピーではターゲットに響かない、という指摘を忖度なく伝えられます。採用サイトのディレクションには、こうした率直な評価が不可欠です。社長が「ウチは土木で100年やってきた。土木業界の働き甲斐を打ち出すんだ!」と息巻いていたら、止められる社内の人はいませんね。出来上がるのは「社会に貢献する仕事」というキャッチが並んだありふれた採用サイトです。これは大手の土俵です。

副業人材に依頼すべき仕事は、制作そのものというより上流設計、つまりターゲット定義・訴求設計・ディレクションブリーフの作成です。ここを副業人材と丁寧に詰めた上で制作したサイトは、見た求職者の応募率が大きく変わります。


まとめ

採用サイトの成否は、デザインやコピーライティングではなく、その前段のディレクションで決まります。ターゲットが誰で、どんな葛藤を抱えていて、自社がなぜその葛藤を解消できるのか。この問いに答えられない状態で制作に進んでも、ありふれたサイトができるだけ。大手の土俵で戦ってはいけません。

ターゲットを絞り込んだ訴求ができるのは、中小企業の特権です。大企業には構造上できないことが、中小企業にはできる。このアドバンテージを活かすためにも、ディレクションに投資してください。社内にその担い手がいないなら、副業人材の起用を検討してみてください。上流設計を丁寧に行う一手間が、機能する採用サイトにできるかどうかの分水嶺です。

成功に近道なし。共に頑張りましょう。

採用サイトの成否は、何で決まるのですか?

デザインやコピーライティングではなく、制作前のディレクションの質でほぼ決まります。採用サイトは会社を紹介するページではなく、特定の人材に特定のメッセージを届けて行動を変えてもらう媒体です。最も大切なのはターゲット選定と、その背景の深掘り。雑な構想のまま制作に進めば、どれだけ見栄えが良くても機能しません。

ターゲット理解は、具体的にどう進めればよいですか?

4段階で考えます。まず事業戦略から人材要件を定める。次に、その要件を満たす人材がどこに集まっているかを見つける。そして、その人々が置かれた状況と心の葛藤を掘り下げる。最後に、自社ならその葛藤を解消できるという根拠を並べる。強力なキャッチや画像、エビデンスは、葛藤の理解があって初めて的を射ます。

採用サイトでは、中小企業は大企業に勝てないのでは?

採用サイトの設計に限れば、むしろ中小企業に強みがあります。大企業は複数の事業・職種・新卒中途を同じサイトで訴求せざるを得ず、万人受けを狙うため個々の求職者の心までは動かしにくい。一方、中小企業は事業がシンプルで職種も限られるため、ターゲットを一点に絞った訴求ができます。特定の誰かの葛藤に直接語りかけ、ここなら解消できるという希望を示せるのです。

なぜ、雑な採用サイトが量産されてしまうのですか?

主に3つのパターンがあります。制作会社に丸投げし、本来クライアントが担うべき戦略の読み解きやターゲットの掘り下げが抜け落ちる。採用の目的が欠員補充になり、「とにかく来てほしい」という焦りでターゲット理解が甘くなる。そして、ディレクションに必要な事業戦略・人材市場・ターゲット心理への理解を兼ね備えた人材が、社内にいない。結果、誰のためのページか分からないサイトができあがります。

ディレクションを担う人がいない場合、どうすればよいですか?

副業人材の起用が現実的な選択肢です。大企業の人事・採用・マーケティング部門でターゲット設定や訴求設計の上流工程を経験した人材が多く、複数企業を見てきた比較の視点も持っています。さらに社内の利害に縛られないため、「この要件では集まらない」「このキャッチは響かない」と忖度なく指摘できる。任せるべきは制作そのものより、ターゲット定義や訴求設計といった上流設計です。

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この記事を書いた人

砂川 大輔(すながわ だいすけ)

副業人材活用の専門家/トトノエルジャパン合同会社 代表

早稲田大学先進理工学部卒業、同大学院先進理工学研究科修了。新卒でアマゾンジャパン合同会社に入社し、マーケティングを担当。ハードライン事業本部にて最優秀マーケティング表彰を受ける。世界最先端のマーケティングの現場で、個人の能力に頼らず成果を出し続ける「しくみ」の力を学ぶ。

富士通株式会社CEO室にて、企業ビジョンの刷新や経営戦略の策定など、経営の意思決定に携わる。そのかたわら、副業人材として200社を超える中小企業の現場を支援。大企業で磨かれた経営の型を、中小企業で使える形に翻訳し、企業機能の内製化と自走する組織づくりに伴走している。自らもトトノエルジャパン合同会社を経営し、会社員・副業人材・経営者の、三足のわらじで活動。

副業人材活用の知見は行政・金融機関からも注目され、内閣府『プロフェッショナル人材活用ガイドブック』に歴代最多の3度掲載(2024、2026。うち2024は2事例)。厚生労働省広報誌『厚生労働』、野村證券『野村週報』に取材記事が掲載されたほか、株式会社みらいワークス「プロフェッショナルアワード2023」個人賞を受賞。高知県、和歌山県などの自治体・公的機関のセミナーや、大学の経営学部で登壇。2024年、副業人材活用の専門メディア『副業人材活用ラボ®』を開設し、編集長を務める。2026年には『経営者のための副業人材活用・適正運用ガイドライン』を公開。

2026年7月、初の著書『副業人材活用の戦略 参画企業200社超の専門家が実践から見出した企業経営者の思考と技術』(整流出版)を刊行。

掲げるビジョンは「よいものが正当に評価される社会をつくる」。

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