固定費を意識しよう

世間がAI熱に浮かされていると感じます。

費用対効果に優れるのは既存業務の置き換えです。対して「新たな価値を生む」という言葉は綺麗ですが再現性に乏しかったというITシステムの教訓を記します。


目次

1. AIへの不慣れが外注につながりやすい

中小企業では、経営者がAIに未熟なまま導入の判断を迫られることがあります。帝国データバンクの調査によれば、2025年の社長の平均年齢は60.8歳。1990年以降35年連続で上昇し、社長が50歳以上の企業は8割を超えています。一方、生成AIが一般のビジネスパーソンでも容易に利用できるようになったのは、ごく最近です。

累計200社を超える企業支援に携わる中で、AIをまず自分たちで使ってみるではなく、詳しい人に任せようと考える経営者が少なからずいらっしゃいました。その結果、ツールより先に、AI活用支援、DX伴走、運用代行といった外注を検討するケースがあります。

統計でも示唆があります。

  • 生成AIについて「会社での導入はなく、使用は個人の判断に任せている」と回答した企業は64.9%(商工中金)
  • 導入・推進上の課題は「具体的な活用場面が不明」35.6%、「導入を推進する人材がいない」32.0%(同)
  • 「専門人材・ノウハウ不足」を課題に挙げた企業は41.3%(帝国データバンク)
  • 日本ではIT人材の73.6%がIT企業側に所属(情報処理推進機構『DX白書2023』)

目的が不明瞭。推進する人材がいない。
こうした状況では外注が魅力的に映ります。

分からないから任せるという動機で外注してはなりません。

2. 固定費の重さは利益で変わる

月10万円の支出が重いか軽いかは、その会社がどれだけ利益を出しているかに関係します。

中小企業庁の「中小企業実態基本調査」(令和7年調査、2024年度決算実績)によれば、中小企業1社あたりの平均は、売上高約2.2億円に対して経常利益1,075万円です。売上高経常利益率にするとおよそ5%。中小企業の利益率は低いのです。

さらに、家族経営の企業では、家族の労働によって人件費が抑えられています。家族の働きを市場価格の給与に置き換えれば、実質的な利益率はさらに低くなる企業もあるでしょう。

その家族労働も減っています。総務省の労働力調査によれば、自営業主と家族従業者は2025年平均で614万人。2015年の708万人から減少しています。帝国データバンクの調査では、同族継承で社長交代する前の経営者の平均年齢は71.6歳です(2024年)。今後は、これまで家族が担っていた仕事を、給与を支払う従業員や外部人材に置き換えねばならない企業が増えていくでしょう。

企業にとって固定費の増加は深刻な問題です。その脆弱性を示す代表的な指標が損益分岐点比率です。2021年版中小企業白書に掲載された2019年度の数値では、次のようになっています。

  • 大企業:60.0%
  • 中規模企業:85.1%
  • 小規模企業:92.7%

小規模企業の92.7%という数字は、現在の売上が約7%減るだけで赤字圏に入ることを意味します。余力が小さい会社ほど、新たな固定費の影響は大きくなります。

同じ月10万円でも、年間数億円の利益を出す会社と、年間1,000万円の利益を出す会社では、意味がまったく違います。固定費は利益との比率で見る必要があります。

3. 外注が固定費になるとき

業務の外注は有効な経営手段です。一時的に業務量が増えたとき、社内に専門人材を置く必要がないときなどは外注が合理的です。問題なのは、外注が常態化し自社で判断できない状態になることです。

筆者の経験では、特に次の4つに注意が必要です。

  1. 自社がすべき判断まで外部に任せている
  2. 契約期間が決まっていない
  3. 効果を測る指標がない
  4. 外注の理由が「自分たちには分からないから」

AIやITシステムの外注は固定費化しやすいです。総務省の「通信利用動向調査」では、クラウドサービスを利用する企業は83.5%に達しています。東京商工会議所の調査では、中小企業の47.2%が「新規システムの導入費用より、現行システムの維持・運営費用の方が多い」と回答しています。また、日本情報システム・ユーザー協会の「企業IT動向調査2026」速報では、IT予算を増やす理由として、次の項目が上位に挙がっています。

  • 「円安・人件費高騰・ベンダー提供価格の値上げ等の影響」46.6%
  • 「クラウドサービス増加」45.0%

契約先を変えていいか分からない。解約すると事業が止まる。社内に仕組みを理解している人がいない。こうなると外注費は学び無き固定費になります。

4. 高収益なIT企業と利用する企業の利益は別物

プラットフォーマーやITシステム会社には、自社にIT技術を使い高い利益率を出す企業が沢山あります。ただし、果たして自社がIT技術に投資したとして割に合う便益を得られるでしょうか。利益の源泉を考える必要があります。

法人向けITサービスの収益の多くは顧客企業が支払うシステム利用料、クラウド利用料、保守費、運用費などです。つまり、IT企業の利益は利用する企業にとって費用です。

筆者はECプラットフォーム企業とITシステム企業に勤務し、法人顧客から収益を得るビジネスを内側から見てきました。その経験から、中小企業の経営者に意識してほしいことがあります。

売り手が儲かっていることと、買い手が儲かることは、まったく別です。

月額10万円のITシステムを導入するなら、その企業は年間120万円を支払います。そのシステムにより年間300万円の粗利益が増える。あるいは年間200万円分の人件費や外注費を削減できる。そうした効果が出るのであれば合理的な投資です。

一方、業務が多少便利になっただけで、売上も利益も増えないのであれば、年間120万円はそのまま利益を押し下げます。これはAIでも、SaaSでも、広告運用でも同じです。導入したサービスが優れているかどうかではありません。

支払った金額以上の利益を、自社で生み出せるかどうかです。

売り手と買い手の立場は違います。IT企業にとって、月額利用料は売上です。利用企業にとっては固定的な支出です。IT企業にとって契約が長く続くことは望ましい。一方、利用企業にとって望ましいのは、契約期間の長さではなく、その期間に得られる利益です。

両者は取引相手ですが同じ損益計算書を見ているわけではありません。

プラットフォーマーやIT企業の利益率は高いです。彼らがITシステムを駆使しているからといって拙速に投資するのは避けるべきです。

大切なのは、投じた資金を、どのように回収するのかを考えることです。

大企業ほどの財力があっても、回収の見通しを説明できない投資は簡単には承認されません。中小企業ならなおさらであるべきです。

この支出によって、年間いくら利益が増えるのか。答えられないのであれば、まだ契約する段階ではありません。

5. 投資と外注のヒント

問い① 自社が勝負している領域か

顧客が他社ではなく自社を選ぶ理由に関係するかを考えます。競争力に直結する領域であれば、積極的な投資が必要です。一方、競争力への影響が小さい周辺業務であれば最低限の投資で十分な場合があります。すべての業務を最先端にする必要はありません。

問い② 顧客が違いを感じる水準はどこか

「最先端」と「顧客にとって十分な水準」は同じではありません。技術的にはさらに高度なことができても、顧客がその差を認識できないのであれば、追加投資が売上や利益につながらないことがあります。

しかも、多くのデジタル技術は時間とともに安価になります。今日、高額な投資が必要な機能が、数年後には一般的なサービスに標準搭載されることも珍しくありません。顧客が必要としている水準を見極めることが重要です。

問い③ 外注の満了時に何が残るか

成果物だけが残るのか。それとも、社員の知識や判断力も残るのか。外注先を変更する方法を社内の誰かが説明できるか。契約を終了するかどうかを、自社で判断できるか。外注を考えるときには、契約中の成果だけでなく、契約終了後の状態まで設計する必要があります。

追いつくべき相手は、AIの最先端ではありません。自社が競争する市場で求められる水準です。隣の会社が何を導入したかではなく、自社に何が必要なのかを基準にしてください。

6. 生成AIは、まず身近な業務で効果が出ている

生成AIについては、大規模な投資を急ぐ前に確認しておきたいデータがあります。帝国データバンクが2026年3月に実施した調査では、生成AIを活用している企業の86.7%が「効果あり」と回答しています。さらに、「大いに効果が出ている」と回答した割合は、小規模企業で29.7%。大企業の20.8%を上回りました。

では、何に使っているのでしょうか。主な用途は次のとおりです。

  • 文章の作成・要約・校正:45.1%
  • 情報収集:21.8%
  • データの集計・分析:7.4%
  • プログラミング支援:5.9%

中心になっているのは、文章作成や情報収集といった身近な業務です。大規模なシステム開発をしなくても利用できる領域で、すでに効果が出ています。

一方、企業が挙げる課題は次のとおりです。

  • 情報の正確性:50.4%
  • 専門人材・ノウハウ不足:41.3%
  • 活用すべき業務の範囲:40.0%

注目すべきは、上位が「何を買うか」ではなく、「どう使うか」だということです。生成AIの普及は、システムを保有している企業が有利になる段階から、社員が使いこなせる企業が有利になる段階へ移りつつあります。

高額な投資が必要とは限りません。社内で実際に使う人を増やし、使い方と判断基準を蓄積することも立派なAI投資です。

7. 不慣れを埋めるなら、「代行」ではなく「能力移転」を考える

AIに不慣れな企業が外部の力を借りる方法は大きく二つあります。一つは、業務を代わりにやってもらう方法です。もう一つは、自社でできるようになるまで教えてもらう方法です。前者を「代行型」、後者を筆者は「能力移転型」と呼んでいます。

**能力移転型(のうりょくいてんがた)**とは、副業人材の活用において、業務の代行ではなく、社内人材への能力の移転と定着を契約の目的に据える活用型を指す。契約終了後も、外部人材の関与なしに社内でその業務を再現・運用できる状態(自走)をもって成果とする。

代行型では、外部人材が実行者になります。能力移転型では、外部人材は実行者であると同時に、指導者になります。契約終了時に、成果物だけでなく、社内の実行能力と判断力を残すことを目的にします。

AI活用であれば、例えば次の4段階で進めます。

  • 実演:外部人材が実際の業務でAIを使い、使い方と判断基準を示す
  • 併走:社員自身がAIを使い、必要に応じて助言を受ける
  • 監修:社員が主体となり、外部人材はレビューと助言に回る
  • 自走:外部人材がいなくても業務を運用し、社内で改善できる状態にする

能力移転型の特徴は、外部への依存を減らすことを最初から契約の目的に置く点です。

もちろん、初期段階では代行より費用が高くなる場合があります。教えながら業務を進めるため、その分の工数が必要だからです。したがって、単月や単年度の費用だけで比較すると、能力移転型が割高に見えることがあります。見るべきなのは、外注を継続した場合の累計費用と、契約終了後に残る能力です。

副業人材が能力移転と相性のよい理由

副業人材は能力移転を頼む相手として向いています。一般に、業務代行を主な収益源とするその他の事業者にとって、顧客の自立を支援することは、将来の契約機会を減らすことになります。

一方で副業人材は本業による収入を得ているため、支援先企業が自走しても生活にさほど支障がありません。顧客を失うデメリットより、経験を積み腕を磨くキャリア上のメリットが大きいのです。ゆえに顧客を囲い込むのではなく、能力を移転し自立を支援できるというわけです。

AIに不慣れであっても、代わりにやってもらおうではなく、自社でできるようになるために誰から教わるかと考えてください。

まとめ 契約書に判を押す前に

AIやDXへの投資が必要な企業はますます増えるでしょう。しかし焦ってはいけません。中小企業の多くは利益率が低く、固定費の影響を受けやすい。AI活用で成果を上げるために高額な投資が必要なわけではありません。

まず、自社が競争している領域を明らかにする。顧客が求める水準を見極める。そして、外注する場合には、契約終了後に何が社内に残るかを考えることが大切です。

契約が終わったとき、わが社には何が残るのか。その問いに答えられる投資であれば、固定費は単なる負担ではなく、将来の競争力につながります。

本稿の背景にある外注依存の経緯と処方については、拙著『副業人材活用の戦略』(整流出版、2026年)で詳しく述べています。

成功に近道なし。共に頑張りましょう。

よくある質問

Q1 投資を抑えていたら競合に負けませんか。

競争力に直結する領域には、積極的に投資すべきです。本稿で問題にしているのは、競争力への影響を確認しないまま、焦りから固定費を増やすことです。生成AIについても、現在効果が出ている主な用途は文章作成や情報収集など、比較的身近な業務です。投資額ではなく、自社の競争力にどれだけ寄与するかで判断してください。

Q2 AIが分からないので、詳しい会社に任せたいのですが。

外部の専門家を使うこと自体は合理的です。ただし、「代わりにやってもらう」のか、「自社でできるようになるまで教えてもらう」のかは分けて考えてください。後者であれば、契約終了後にも社内に知識や判断力が残ります。

Q3 システム会社からの提案は、どのように評価すればよいですか。

まず、提案された機能を「自社の競争力に必要なもの」と「あると便利なもの」に分けてください。売り手にとって合理的な提案範囲と、買い手にとって必要な範囲は必ずしも一致しません。必要な部分だけを選べるよう、発注する側にも判断できる人材を置くことが重要です。

Q4 補助金が使えるなら、導入した方が得ではありませんか。

補助金によって初期費用は下がります。しかし、月額利用料、保守費、運用費などは導入後も残ります。補助金の有無ではなく、補助金がなくても必要な投資かどうかを先に判断してください。必要な投資に補助金が使えるのであれば、それは有効な支援になります。

Q5 副業人材への支払いも外部支出です。固定費と何が違うのでしょうか。

契約の設計次第です。副業人材に業務を代行してもらい続ければ、当然、継続的な外注費になります。一方、能力移転を目的に契約し、段階的に関与を減らしていけば、最終的には外部支出を減らしながら社内に能力を残すことができます。副業人材だから固定費にならないのではなく、自走を契約の出口に設定できるかどうかが重要です。

Q6 まず何から始めればよいですか。

現在契約している月額・年額サービスを、ツールと外注の両方について一覧にしてください。年間支出額を合計し、自社の年間経常利益と比較します。そのうえで、一つひとつの契約について次の3点を確認します。

  • 自社が勝負している領域に必要か
  • 顧客が価値を感じる水準に必要か
  • 契約終了後に社内へ何が残るか

新しい投資については、この3つを確認したうえで、小さく、期限を決めて始めることを勧めます。

出典

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この記事を書いた人

砂川 大輔(すながわ だいすけ)
副業人材活用の専門家/副業人材活用ラボ®編集長/トトノエルジャパン合同会社 代表

専門領域:副業・兼業人材の企業活用、外部人材から組織への能力移転、中小企業の人的資本形成

早稲田大学先進理工学部卒業、同大学院先進理工学研究科修了。アマゾンジャパン合同会社でマーケティングに従事し、ハードライン事業本部最優秀マーケティング表彰を受賞。富士通株式会社CEO室では、企業ビジョンの刷新や経営戦略の策定など、経営の意思決定支援に携わった。

大企業での実務と並行して、副業人材として200社を超える中小企業を支援。戦略、人事、営業、マーケティングなど幅広い経営課題に携わる中で、外部人材に業務を代行してもらうだけでなく、その知識・技術・判断基準を企業内部へ移し、最終的な自走につなげる「能力移転型」の副業人材活用モデルを提唱している。現在は、副業・兼業人材を「採用する」こと以上に、企業がその能力をいかに受け取り、組織能力として蓄積するかを主要な研究・実践テーマとしている。

副業人材活用に関する実践事例は、内閣府『プロフェッショナル人材活用ガイドブック』に計3事例掲載(2024年2事例、2026年1事例)。厚生労働省広報誌『厚生労働』、野村證券『野村週報』などにも取り上げられた。株式会社みらいワークス「プロフェッショナルアワード2023」個人賞を受賞。高知県、和歌山県をはじめとする自治体・公的機関のセミナーや、大学経営学部での登壇実績を持つ。

2024年、副業人材活用に特化した専門メディア『副業人材活用ラボ®』を開設し、編集長に就任。2026年には『経営者のための副業人材活用・適正運用ガイドライン』を公開し、著書『副業人材活用の戦略―参画企業200社超の専門家が実践から見出した企業経営者の思考と技術』(整流出版)を刊行。副業人材活用に関する研究発表・論文執筆にも取り組む。人材育成学会員。

研究・実践上の関心領域は、副業・兼業人材活用、外部専門人材の能力移転、中小企業の人的資本形成、企業の内製化・自走化、地域企業における外部人材活用。

掲げるビジョンは「よいものが正当に評価される社会をつくる」。

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