受け手決定の法則とは 同じ副業人材でも成果が変わる

同じ副業人材でも、ある会社では好評で別の会社では不評、といった事がままあります。

副業人材を成果につなげるには、企業に「受け取る力」が要ります。

副業市場はマッチング環境が整備され、多くの応募者からハイポテンシャルな人材を選べるようになりました。
食材を活かすも殺すもシェフ次第。活用の成否は雇い手、つまり企業側にかかってきます。これを筆者は「受け手決定の法則」と呼んでいます。

目次

すぐ実行する会社としない会社

複数の企業を支援する副業人材は、会社間の違いを比べる機会に恵まれています。似た課題に同じ手法で取り組んでも、実行スピードは会社によって違います。

A社では、初回の打ち合わせに社長と営業担当者がそろっていました。経営レベルと現場レベル。切り口を変えながらのヒアリングで抽出した課題に対し、提案した施策は翌日から会社の者が試し、1か月後には、現場で使いやすいよう自分で手を入れるようになりました。

担当者がいる。情報がそろう。決裁者がいる。試す時間がある。A社では条件が整っていたためすみやかに学びが積みあがりました。

注目すべきはすぐに動けるかです。そのために企業自身が変えられることが数多くあります。

受け手決定の法則とは

受け手決定の法則とは、副業人材の知識や提案を受け、実行し、社内に定着させる企業側の能力が、副業人材活用の成果を大きく左右するという考え方です。

本稿でいう「受け手」には、担当者の知識や経験に加え、経営者の判断、情報共有の仕組み、実行する時間など、企業側の体制を含めています。

「活用の時代」では、自走に至らなかった企業で、能力を移転される担当者の不在や決裁権限の不足が見られたことを書きました。

担当者が学び、判断し、実行できる条件を整えると受け入れ体制が機能します。

受け手が成果を左右する理由

運用は自社

週に数時間の支援を受けながら能力移転を進める場合、副業人材の役割は、課題の整理、手順の設計、実演、助言などに絞られます。日々の運用は主に社員が担うことになります。

たとえば、副業人材が商談の進め方を教えても、実際に商談するのは営業担当者です。自ら試してうまくいったこと、うまくいかなかったことを持ち帰ることで、次の助言が具体的になります。

試行錯誤を重ね社員に能力が移転します。

実行されるまでの壁

困りごとを説明し、仮説を立て、早々の検証を経てアクションを決める。提案を理解し、採用するかを決める。実際に試し、結果を振り返る。

成果につなげるには、PDCAサイクルを回さねばなりません。現場の声が届かなければ検討が遅れ、決裁が止まれば実践に進めません。担当者が多忙であれば着手は後回しになります。

受け入れ体制を点検するときはボトルネックを探します。たとえば、担当者の理解が深まっていても、決裁に毎回1か月かかるなら、まず意思決定の進め方を見直す必要があります。

受け手の素養

数々の知識移転の研究で、受け手の素養が注目されています。

Szulanski(1996)は、8社における122件の社内の優良実践の移転を分析しました。移転の主な障害として挙げられたのは、受け手の吸収能力の不足、成果につながる仕組みの分かりにくさ、送り手と受け手の関係の難しさです。意欲の問題に加え、知識を理解し、使えるようにする過程に目を向ける必要があると読めます。Szulanski(1996)

CohenとLevinthal(1990)は、新しい外部情報の価値を認識し、理解して事業に生かす力を「吸収能力」と呼び、その土台として、すでに持っている関連知識を重視しました。企業が外部の知識を活用する力には、過去の学習や経験が関わるという考え方です。Cohen・Levinthal(1990)

副業人材の活用に当てはめると、その業務を経験した社員は、提案を自分の仕事に結びつけて理解しやすいと考えられます。経験が浅い社員には、副業人材が実際にやってみせ、判断の理由を説明するところから始める。そうして、学ぶための手がかりを増やしていきます。

受け手の力を点検する

受け取る力は、日々の行動に分けると点検しやすくなります。筆者は、次の六つで整理しています。

受け手の力停滞の兆候主に取り組む人改善の一歩
課題を説明する力「とにかく売上を上げてほしい」で話が止まる経営者・担当者困っている事実と、原因についての見立てを書き分ける
必要な情報を渡す力売上データや顧客情報の共有が後回しになる経営者・情報管理の担当者必要な資料、共有範囲、渡す担当者と期限を決める
提案を理解する力提案を自分の業務でどう使うか説明できない受け手の担当者・副業人材実演を見ながら、手順と判断の理由を確かめる
意思決定する力「社長に聞いてみます」で毎回止まる経営者・決裁者決裁者が打ち合わせに出るか、担当者が決めてよい範囲を定める
実行する力提案に賛成しても、着手する人や時間が決まらない経営者・担当者担当者の予定に実践の時間を確保し、既存業務の分担を調整する
学習して定着させる力担当者が替わると、手順や判断の理由が分からなくなる担当者・上司・経営者実践の結果と判断基準を記録し、別の社員も業務を経験する

誰に任せるか。どこまで決めてよいか。何の情報を共有するか。実践にどれだけ時間を使うか。これらは、経営者や管理者が決められることです。

担当者の習熟には時間がかかります。要は経営者には忍耐が求められる、ということです。

募集前に整え、契約中に確かめる

募集の前には、六つの項目を見ながら、実行を妨げそうな箇所を確認します。受け手が決まっていなければ人選をする。決裁に時間がかかるなら、決め方を見直す。必要な資料が散らばっているなら、担当者と期限を決めてそろえる。

副業人材活用ラボの「任せどころ」も、受け手が定まっていない場合には、求人に進む前にその確保を促す設計にしています。

契約が始まったら、提案がどこまで進んだかを記録します。「資料の共有待ち」「決裁待ち」「担当者が試している」「結果を見て修正中」と分かれば、次に必要な対応が見えてきます。

資料が届かない場合には、依頼が曖昧だったのか、共有の手続きに時間がかかっているのかを確認します。提案が実情に合わない場合には、現場の説明が十分だったか、副業人材が前提を確かめたかを振り返ります。情報の渡し方と提案のつくり方を、双方で見直していきます。

「卒業原則」で述べた、社員が自走して支援を終えられる状態も、この積み重ねの先にあります。何ができれば卒業かを、経営者、受け手、副業人材で共有しておきましょう。

人材選びと支援の設計も、あわせて考える

受け手決定の法則が支配的になるのは、社員への学習と定着を目指す能力移転型の活用です。代行を依頼する場合にも、要件の説明、情報提供、意思決定、成果物の確認といった企業側の役割があります。活用の目的に応じて、受け手に必要な役割を考えます。

受け手を担える社員がまだいない会社では、その育成から支援を設計する方法があります。実演と練習に十分な時間を取る。社長が一時的に受け手を兼ねる。代行を受けながら担当者を育て、徐々に引き継ぐ。会社の状況に合わせて、始め方を選びます。

社長が受け手を兼ねる場合は、学習や実行に使える時間を確保することが重要です。判断が社長に集中すると、ほかの経営業務との兼ね合いで進行が滞ることもあります。担当者に任せる範囲を広げる準備も、並行して進めます。

副業人材の側にも、受け手の経験や業務量を見て、教え方と進め方を調整する役割があります。筆者自身、受け手の状況を十分に見立てられず、進め方を変えられないまま契約を終えた案件がありました。受け手の力を考えることは、支援する側の仕事を見直すことでもあります。

本法則は、筆者の支援経験と知識移転の研究を手がかりにした実務上の提案です。人材の能力と受け入れ体制が成果に与える影響の大きさは、今後の検証課題です。

受け手から、能力移転と卒業へ

副業人材活用ラボでは、企業が外部の力を事業の成果につなげる方法を、いくつかの概念で整理しています。

「活用の時代」は、企業が人材を活用する力に注目した時代の捉え方です。受け手決定の法則は、その力を各社の担当者、情報共有、意思決定、実践の仕組みに落とし込んで考えます。

受け手が学び、実践することで能力移転が進み、社員だけで業務を担う自走に近づきます。その到達を、支援を終えられる状態として評価するのが卒業原則です。

限られた稼働時間が企業側の実践に与える影響を考える「短時間効果」や、進行を妨げる箇所に注目する「最弱リンクの法則」など、関連する考え方は用語集で整理しています。

おわりに

副業人材を迎えるときには、その人の経歴とともに、自社で誰が学び、誰が決め、いつ実行するかを確認してみてください。

打ち合わせに決裁者が出る。必要な情報をそろえる。担当者が試す時間を予定に入れる。

受け取る力を高めるのは、企業自身です。

同じ副業人材の知識や経験から、自社が得られるものを増やしていく。そのために、受け手決定の法則を役立てていただければと思います。

成功に近道なし。共に頑張りましょう。


用語の定義

  • 用語:受け手決定の法則(うけてけっていのほうそく)
  • 定義:副業人材の知識や提案を受け取り、実行し、社内に定着させる企業側の能力が、活用の成果を大きく左右するという考え方
  • 提唱:砂川大輔(副業人材活用ラボ®編集長)
  • 初出:本ページ(公開日を記入)
  • 関連概念:活用の時代、活用決定則、能力移転型、短時間効果、卒業原則、最弱リンクの法則
  • 用語集副業人材活用 用語集

よくある質問

Q1. 副業人材活用の「受け手決定の法則」とは何ですか?

受け手決定の法則とは、副業人材の知識や提案を受け取り、実行し、社内に定着させる企業側の能力が、活用の成果を大きく左右するという考え方です。副業人材活用ラボ編集長の砂川大輔が、支援経験をもとに提案しています。

Q2. 副業人材の「受け手」には、誰を選べばよいですか?

対象業務の経験や関連知識があり、学習と実践に継続して時間を使える社員が候補になります。兼務の場合は、既存業務との分担を調整します。経験が浅い社員を選ぶ場合は、実演や練習の機会を多く設け、担当者が判断できる範囲も決めておきます。

Q3. 社長が副業人材の受け手になってもよいですか?

社長が受け手を担う方法もあります。小規模な会社や、社内の担当者を育てている段階では、現実的な選択です。学習と実行に使う時間を確保し、業務が増えてきたら、社員に任せる範囲を広げていきます。

Q4. 優秀な副業人材に依頼しても、成果が出ないのはなぜですか?

成果が出ない背景には、専門分野と課題の不一致、情報不足、決裁の遅れ、実行時間の不足などが考えられます。提案がどこで止まっているかを確認すると、見直すべき箇所が具体的になります。人材の適性と企業側の受け入れ体制を、あわせて点検することが大切です。

Q5. 受け手を任せられる社員がいない場合は、どうすればよいですか?

受け手の育成を、支援の最初の目的に置く方法があります。副業人材の実演を見ながら練習する、社長が一時的に受け手を担う、代行を受けながら社員へ徐々に引き継ぐ、といった進め方が考えられます。誰が学ぶかと、そのための時間を決めるところから始めます。

Q6. 受け手の力を高めるために、経営者は何をすればよいですか?

受け手の選定、情報を共有する範囲、担当者が決めてよい範囲、実践に使う時間を具体的に決めます。課題の説明、情報共有、提案の理解、意思決定、実行、学習と定着の六つを点検し、支援の進行を妨げている箇所から改善します。

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この記事を書いた人

砂川 大輔(すながわ だいすけ)
副業人材活用の専門家/副業人材活用ラボ®編集長/トトノエルジャパン合同会社 代表

専門領域:副業・兼業人材の企業活用、外部人材から組織への能力移転、中小企業の人的資本形成

早稲田大学先進理工学部卒業、同大学院先進理工学研究科修了。アマゾンジャパン合同会社でマーケティングに従事し、ハードライン事業本部最優秀マーケティング表彰を受賞。富士通株式会社CEO室では、企業ビジョンの刷新や経営戦略の策定など、経営の意思決定支援に携わった。

大企業での実務と並行して、副業人材として200社を超える中小企業を支援。戦略、人事、営業、マーケティングなど幅広い経営課題に携わる中で、外部人材に業務を代行してもらうだけでなく、その知識・技術・判断基準を企業内部へ移し、最終的な自走につなげる「能力移転型」の副業人材活用モデルを提唱している。現在は、副業・兼業人材を「採用する」こと以上に、企業がその能力をいかに受け取り、組織能力として蓄積するかを主要な研究・実践テーマとしている。

副業人材活用に関する実践事例は、内閣府『プロフェッショナル人材活用ガイドブック』に計3事例掲載(2024年2事例、2026年1事例)。厚生労働省広報誌『厚生労働』、野村證券『野村週報』などにも取り上げられた。株式会社みらいワークス「プロフェッショナルアワード2023」個人賞を受賞。高知県、和歌山県をはじめとする自治体・公的機関のセミナーや、大学経営学部での登壇実績を持つ。

2024年、副業人材活用に特化した専門メディア『副業人材活用ラボ®』を開設し、編集長に就任。2026年には『経営者のための副業人材活用・適正運用ガイドライン』を公開し、著書『副業人材活用の戦略―参画企業200社超の専門家が実践から見出した企業経営者の思考と技術』(整流出版)を刊行。副業人材活用に関する研究発表・論文執筆にも取り組む。人材育成学会員。

研究・実践上の関心領域は、副業・兼業人材活用、外部専門人材の能力移転、中小企業の人的資本形成、企業の内製化・自走化、地域企業における外部人材活用。

掲げるビジョンは「よいものが正当に評価される社会をつくる」。

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