プロジェクトマネージャーの価値が高まっている

はじめに

新しい取り組みを始めたい。ところが、人が割けない。

営業から一人、経理から一人と声をかけてみるものの、みな本業で手一杯。結局「落ち着いたらやろう」と棚上げになる。この手の推進力の減退は中小企業のプロジェクトでよくあることです。

しかし今、その常識が変わり始めています。実務をAIが担い、人間は判断と調整に徹する。プロジェクトに必要なメンバーが減り、束ねるプロジェクトマネージャー(PM)の価値が高まっているのです。

本記事では、この変化を紹介し、中小企業におすすめの打ち手を提案します。


第1章:単価が語る地殻変動

PMは、IT業界だけの役割ではありません。マーケティング施策の立ち上げ、採用の仕組みづくり、営業体制の刷新、新規事業の開発。複数の関係者を巻き込み、期限までに成果へ導く仕事には、必ず束ね役がいます。呼び名は会社ごとに違っても、あらゆる領域のプロジェクトにPMが存在します。

そのPMの価値の変化が、早くから数字に表れる領域があります。単価が公開されているIT人材市場です。

AIの普及により、IT人材市場の単価は二極化しています。コーディングをはじめとする下流工程の単価が下がる一方、関係者との調整や戦略判断を担うPMの単価は上がり続け、月額80万〜150万円の高水準を保っています。

実務をこなす人の値段が下がり、束ねる人の値段が上がっています。AIに任せられる仕事は安くなり、AIに任せる側の仕事は高くなる。単価の開きは、その表れです。

この地殻変動はITの中にとどまりません。AIが肩代わりできる実務は、コーディングに限らないからです。市場調査も、企画書づくりも、商談の準備も同じ。数字で見えやすいIT市場に最初に表れただけで、同じ変化があらゆる領域のプロジェクトで進んでいます。

では、単価が上がっている側の仕事とは何なのか。次章で掘り下げます。


第2章:プロジェクトメンバーの役割分配が書き換わっている

プロジェクト運営の定番に、RACI(レイシー)があります。プロジェクトの各業務について、誰が実行するのか(R:実行責任)、誰が説明責任を負うのか(A:説明責任)、誰に相談するのか(C:相談先)、誰に報告するのか(I:報告先)を一覧表にする手法です。大企業のプロジェクトで広く使われてきました。

この表の作り方には、長らく暗黙の前提がありました。実行役を複数人に割り当てるのが常識だったのです。調査は若手に、資料作成は別の担当に、データ整理はまた別の担当に。実行の量が多いほど、多くの人をR(実行責任)の欄に書き込む必要がありました。

いま、このR(実行責任)をAIが補助し始めています。調査、資料作成、議事録、データ整理、たたき台づくり。かつて数人がかりだった実務を、PM本人がAIに指示して片づけられるようになりました。

実行が安くあがるほど、判断は高くなる。安くなるものの隣が、高くなるのです。

土木の現場に例えてみましょう。ブルドーザーが普及して土を運ぶ人手は減りましたが、工事が早く進むので、現場監督の判断頻度は増しました。同じことが、いまホワイトカラーのプロジェクトで起きています。

私自身の働き方も、AIの進化でガラリと変わりました。成果物の作成や商談の準備はAIに指示を出してさくさく進め、空いた時間を判断と対話に注ぐ。スピードが上がった分、顧客満足度が高まり、掛け持たせていただくクライアント様の数も増えました。支援先が増えるほど現場の知見が積み上がり、それが次の支援の質を引き上げる。良い循環が回り始めています。

PMの世界標準資格であるPMP(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル)は、2026年7月に大きな改定を迎え、進捗管理の技法よりもビジネスの理解と意思決定に重心を移しました。PMが注力すべきことの比重が、人的マネジメント(お尻叩き役)から意思決定や指示に戻っていっているのです。


第3章:「ひとりPM+AI」という新しい編成

変化はチーム編成にも表れています。

先進企業では、責任者一人にAIエージェントを組み合わせた小さな編成でプロジェクトを回す試みが始まっています。案件の性質に応じて、責任者とAIだけで進めることもあれば、そこに各分野の専門家を少数加えることもある。調査会社は、2028年までに約4割の組織がAIエージェントをチームの一員に迎えると予測しています。ピラミッド型の大所帯で何とかする時代ではなくなりました。

変化の恩恵は、中小企業に及びます。

以前の記事「中小企業がタスクフォースを手にする時代」で、かつて大企業の専売特許だったタスクフォースを中小企業も持てるようになったと書きました。それでも壁は残っていました。人です。大企業は5人を割けても、中小企業には割く人がいない。冒頭の経営者が足踏みしていたのも、まさにここでした。

PM一人とAIで回るなら、この壁は低くなります。頭数で勝負する時代が終われば、人数のハンデは薄れる。優れたPMを一人押さえられるかどうか。勝負所はそこに移ります。


第4章:ただし「PMなら誰でもいい」わけではない

「とにかくPM経験者を」と動くと、高値掴みをします。

高く評価されているのは、AIに実務をやらせられるPMです。会議の調整と進捗表の更新を仕事の中心にしてきた従来型のPMではありません。肩書きは同じでも、中身はまるで違います。

従来型PMAIネイティブPM
実務メンバーに割り振る自らAIにやらせる
会議進捗確認が中心判断と意思決定が中心
成果物提出を待つAIの出力を自ら検証する
価値の源泉調整力調整力+AI活用力+検証力

私が支援の現場で得た教訓は、プロジェクトの成否を分けるのは頭数ではなく、束ねる一人の質だということです。そしてその質は、経歴書の肩書きからは読み取れません。

見極めの視点を三つ挙げます。

第一に、直近のプロジェクトでAIをどう使ったかを具体的に語れるか。ツール名の羅列ではなく、どの実務を任せ、出力をどう検証したかまで話せる人は本物です。

第二に、少人数で回した経験があるか。大所帯の分業に慣れきった人は、R(実行責任)の欄を人で埋める発想から抜けられないことがあります。

第三に、成果物を自分の目で確かめる習慣があるか。AIの出力を鵜呑みにするPMは、速いだけで危うい。


第5章:打ち手① 副業人材で「型」を輸入する

一つ目の打ち手は、AIネイティブなプロジェクト運営を実践している副業人材に入ってもらうことです。

大企業や成長企業の現場でAIを使った進め方を身につけたPMが、副業市場に出てきています。彼らに自社のプロジェクトを一つ任せ、実際に回してもらう。ただし目的は代行ではありません。型の移植です。

会議をどう設計するか。どの実務をAIに任せ、どんな指示を出すか。出力をどう検証し、どう判断につなげるか。この一連の型を、社内の担当者が横について吸収する。半年も伴走すれば、次のプロジェクトは社内の人間が回せるようになります。副業人材の仕事は、自分がいなくなった後も型が社内に残ること。当ラボが繰り返し書いてきた、内製化のコーチとしての使い方です。

PMは育成に時間のかかる職種です。実務経験の積み重ねでしか育たないため、社内でゼロから育てるには年単位の時間がかかります。だからこそ、まず借りて、型を学び、社内に残すのです。


第6章:打ち手② 選ばれる会社になる

二つ目の打ち手は、採用力の強化です。

以前の記事「『安く優秀な人材が選び放題』は、いつまで続くか」で、プレミアムな人材から先に売り手市場へ転じていくと書きました。判断と調整を担えるAIネイティブなPMは、その筆頭です。単価の上昇は始まりにすぎません。いずれ、中小企業の予算内の報酬を積むだけでは振り向いてもらえなくなります。

では何で選ばれるか。骨太な課題を正直に差し出すこと。細切れの作業ではなく、事業の行方を左右するテーマを任せること。判断の裁量を渡すこと。そして、AIを使って存分に働ける環境を整えておくことです。優れたPMほど、自分の腕が生きる場を選びます。AIの利用に及び腰な会社と、AI前提でプロジェクトを設計している会社。どちらに惹かれるかは明らかでしょう。

一つ目の打ち手は、ここにつながっています。副業人材と型を作った会社は、AI前提の仕事場をすでに持っている。選ばれる側に回る土台ができている。二つの打ち手は別々の話ではなく、順番の話です。


まとめ

AIの普及で、プロジェクトが変わりつつあります。実行役を複数人に割り当てる流れは縮小に向かい、かわりに、優れたPM一人を確保できるかが勝負所になりました。

プロジェクトメンバーを集められないことは、もう言い訳になりません。むしろ人を集められなかった中小企業にこそ、追い風が吹いています。まずは副業人材の力を借りてAIネイティブな型を社内に作る。その積み重ねが、優秀なPMに選ばれる会社への一番の近道です。

なお、副業人材の活用については、拙著『副業人材活用の戦略 参画企業200社超の専門家が実践から見出した企業経営者の思考と技術』(整流出版)に考え方をまとめています。あわせてお読みいただければ幸いです。

成功に近道なし。共に頑張りましょう。

なぜ今、プロジェクトマネージャーの価値が高まっているのですか?

AIの普及で、調査や資料作成といった実務をAIに任せられるようになったためです。実務の担い手の価値が下がる一方、何を作るか決め、関係者を調整し、結果を引き受ける束ね役の価値は上がっています。実際、IT人材市場ではコーディングなど下流工程の単価が下落する一方、プロジェクトマネージャーの単価は月額80万〜150万円の高水準を保っています。実行が安くなるほど、判断は高くなるのです。

プロジェクトマネージャーはIT業界だけの役割ではないのですか?

IT業界に限りません。マーケティング施策の立ち上げ、採用の仕組みづくり、営業体制の刷新、新規事業の開発など、複数の関係者を巻き込み期限までに成果へ導く仕事には必ず束ね役がいます。単価が公開されているIT人材市場に変化が最初に数字として表れただけで、AIが実務を肩代わりできる領域は市場調査も企画書づくりも商談準備も同じです。あらゆる領域のプロジェクトで同じ変化が進んでいます。

AIが実務を担うようになると、プロジェクトの体制はどう変わりますか?

実行役を複数人に割り当てる従来の常識が崩れ、プロジェクトマネージャー一人にAIを組み合わせた少人数の編成が可能になります。役割分担表(RACI)でいえば、実行責任(R)の欄をAIが埋め始める一方、説明責任(A)の欄は人間に残り続けます。責任の宛先は替わらないからです。この変化の恩恵が最も大きいのは、人を集められないことがプロジェクトの壁だった中小企業です。

プロジェクトマネージャーなら誰を起用してもよいのでしょうか?

誰でもよいわけではありません。高く評価されているのは、自らAIに実務をやらせ、その出力を検証できるプロジェクトマネージャーです。会議の調整と進捗管理を中心にしてきた従来型とは、肩書きが同じでも中身が違います。見極めの視点は三つ。AIをどう使ったか具体的に語れるか、少人数でプロジェクトを回した経験があるか、成果物を自分の目で確かめる習慣があるか。単価の高さだけで選ぶと高値掴みになります。

中小企業がAIを前提としたプロジェクト運営を取り入れるには、何から始めればよいですか?

AIを活用したプロジェクト運営を実践している副業人材に、自社のプロジェクトを一つ任せることから始めるのが現実的です。目的は代行ではなく、型の移植です。会議の設計、AIへの実務の任せ方、成果物の検証の仕方を社内の担当者が横について吸収すれば、半年ほどで次のプロジェクトは社内で回せるようになります。プロジェクトマネージャーは育成に年単位の時間がかかる職種だからこそ、まず借りて学び、社内に残す順番が合理的です。

優秀なプロジェクトマネージャーを採用するには、何が必要ですか?

報酬だけでなく、選ばれる理由を用意することです。判断と調整を担えるプロジェクトマネージャーは今後、売り手市場に転じていきます。事業の行方を左右する骨太な課題を正直に差し出す、判断の裁量を渡す、AIを使って存分に働ける環境を整える。この三つが採用力の中身になります。副業人材とともにAI前提のプロジェクト運営の型を先に作っておけば、選ばれる側に回る土台がすでにできていることになります。

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この記事を書いた人

砂川 大輔(すながわ だいすけ)

副業人材活用の専門家/トトノエルジャパン合同会社 代表

早稲田大学先進理工学部卒業、同大学院先進理工学研究科修了。新卒でアマゾンジャパン合同会社に入社し、マーケティングを担当。ハードライン事業本部にて最優秀マーケティング表彰を受ける。世界最先端のマーケティングの現場で、個人の能力に頼らず成果を出し続ける「しくみ」の力を学ぶ。

富士通株式会社CEO室にて、企業ビジョンの刷新や経営戦略の策定など、経営の意思決定に携わる。そのかたわら、副業人材として200社を超える中小企業の現場を支援。大企業で磨かれた経営の型を、中小企業で使える形に翻訳し、企業機能の内製化と自走する組織づくりに伴走している。自らもトトノエルジャパン合同会社を経営し、会社員・副業人材・経営者の、三足のわらじで活動。

副業人材活用の知見は行政・金融機関からも注目され、内閣府『プロフェッショナル人材活用ガイドブック』に歴代最多の3度掲載(2024、2026。うち2024は2事例)。厚生労働省広報誌『厚生労働』、野村證券『野村週報』に取材記事が掲載されたほか、株式会社みらいワークス「プロフェッショナルアワード2023」個人賞を受賞。高知県、和歌山県などの自治体・公的機関のセミナーや、大学の経営学部で登壇。2024年、副業人材活用の専門メディア『副業人材活用ラボ®』を開設し、編集長を務める。2026年には『経営者のための副業人材活用・適正運用ガイドライン』を公開。

2026年7月、初の著書『副業人材活用の戦略 参画企業200社超の専門家が実践から見出した企業経営者の思考と技術』(整流出版)を刊行。

掲げるビジョンは「よいものが正当に評価される社会をつくる」。

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