「わからないから外注」が終わる AIが内製化を簡単にした

はじめに

「うちには、できる人がいないから」

経理システムの設定、採用サイトの制作、販促チラシのデザインなど。
多くの中小企業が、わからないものを外注してきました。

しかしいま、AIの普及で、内製化のハードルが目に見えて下がっています。
「わからない」が、外注の理由にならなくなっているのです。

本記事では、「わからない」が問題ではなくなった背景を紹介し、副業人材を活用して内製化を進める提案をします。


第1章:内製化を阻んできた「わからないの壁」

中小企業の内製化が進まなかった主な理由は、わからない仕事を、できるようになれる人がいなかったことです。

新しい能力を身につけるには、書籍を読んだり、セミナーに通ったり、自分で調べて試行錯誤を重ねる必要がありました。未知にチャレンジする習慣を身に着けた社員は、中小企業にはまずいません。誰かが教えればいいかといえば、教えられる人も社内にいないのが実情です。

できる人がいない。育てる時間がない。教える人もいない。三重の壁です。だから「わからないから外注」が何年も続いてきました。私はこれを「わからないの壁」と呼ぼうと思います。


第2章:「わからない」から「できた」までが、数日に縮んだ

しかし、AIの登場で、「わからないの壁」を簡単に超えられるようになりました。

AIに聞けば、方法を教えてもらえるのはもちろん、たたき台まで作ってくれます。就業規則を改定したければ、論点の整理と条文の案文が出てくる。採用サイトを作りたければ、構成案と原稿の下書きが出てくる。毎月のデータ集計を自動化したければ、手順書が出てくる。

かつては、わからない仕事ができるようになるまで数ヶ月かかりました。書籍で調べ、詳しい人を探し、失敗しながら形にする。いまは数日でできるようになります。学び方そのものが変わりました。

変化は数字にも表れています。中小企業基盤整備機構が2026年3月に公表した調査では、中小企業のAI導入率は20.4%。検討中の18.6%を合わせると、約4割が導入に前向きです。導入目的は「業務効率化/作業時間の短縮」が87.0%で突出しています。外に任せるか諦めるかしていた実務を、自分たちの手で片づける企業が増え始めているのです。


第3章:足りないのは「こんなに簡単なんだ!」という驚き

一方で、気になる数字もあります。

商工中金の調査では、生成AIの利用を個人任せにしている企業が64.9%。導入の壁として「具体的な活用場面が不明」が35.6%、「導入を推進する人材がいない」が32.0%と続きます。

AIという便利な道具は、今や誰でも簡単に使い放題です。それなのに、自社で活用できていないと嘆く中小企業経営者が後を絶ちません。

足りないのは、社員の体験です。「AIってこんなに簡単に使えるんだ!」という驚きです。

自分の業務が目の前で片づいていく光景を見たことのある社員と、ない社員では、AIへの向き合い方がまるで違います。見たことのない社員にとって、AIはいつまでも「よくわからない、はじめるのが面倒なもの」のままです。

経営者も気づき始めています。私のもとにも、社員に「こんなに簡単にできるんだ」という発見の機会を提供してほしい、という依頼が増えてきました。世の中でAI研修が流行しているのも同じ流れでしょう。AI活用型の企業研修市場は、アジア太平洋で年率20%を超える成長が見込まれています。企業は社員の驚きを意図的につくりだそうとしています。


第4章:驚きは、講義では生まれない

ただし、講義という形式には限界があります。

リスキリングやDX講義に取り組んできた企業から、よく聞く言葉があります。「学んだはずなのに、現場が変わらない」。一般論の講義は、聞いた瞬間はためになった気がします。翌週、自分の業務に戻ると、どこにどう使えばいいのかわからない。一ヶ月後には内容も忘れている。知識は講義で手に入りますが、驚きはありません。

驚くには、他人の事例ではなく、自分の業務がAIであっという間に片付くのを目の当たりにする必要があります。

項目AI研修(座学)副業人材による伴走
題材一般論・他社事例自社の実業務
形式講義を聞く隣で一緒にやる
得られるもの知識驚き
終わった後忘れる記憶がのこる

第5章:社員の「できた!」を、副業人材が引き出す

そこで提案したいのが、AIを使いこなす副業人材に実業務へ入ってもらうことです。講師としてではありません。伴走者としてです。

進め方は単純です。まず、社員が抱えている業務を一つ選びます。毎月の報告資料でも、求人原稿でも、顧客リストの整理でも構いません。副業人材がその業務を、AIを使って目の前で片づけてみせる。数時間かかっていた仕事が、みるみる形になっていく。大抵の社員は目を見張ってくれます。

次が肝心です。今度は社員自身の手でやってもらいます。副業人材は隣で、AIへの指示の出し方、出てきたものの直させ方、仕上がりの確かめ方を助言する。自分の手で「できた!」の経験をすると、社員の中で何かが切り替わります。AIが「よくわからない、はじめるのが面倒なもの」から「自分の仕事を楽にする道具」に変わるのです。座学をどれだけ重ねてももたらされない変化です。

驚きは伝染します。「できた!」を体験した社員は、放っておいてもAIを使い続けてくれます。やがてその実績が次の社員に伝わり、部署に広がり、社風になっていく。成功者を一人つくれば、あとは社内で広がっていきます。

副業人材の仕事は、全社員に教えて回ることではありません。最初の成功者を生み出し、社内広報し、去ること。数ヶ月の伴走で十分です。


第6章:「わかった上で選ぶ外注」へ

内製化の話をすると、外注が悪であるかのように聞こえるかもしれませんので補足しておきます。AIで変わったのは、外注の理由です。

従来の「わからないから外注」には、リスクがあります。中身がわからないまま任せると、成果物の良し悪しを判断できず、価格の妥当性もわからず、言われるがままになる。以前の記事「経営の主導権を取りもどす」で書いた通り、主導権の喪失です。

「自社でもできるとわかった上で、あえて任せる外注」は健全です。時間を買うため、より高い専門性を借りるため、社員を別の仕事に集中させるため。理由を選べる外注は経営判断です。理由を選べない外注は依存です。

AIで内製の力がついた会社は、外注の目利き力も同時に手に入れます。相見積もりの内容が読める。過剰な提案を断れる。本当に価値のある外部パートナーを見分けられる。内製化の力とは、外注を賢く使う力でもあるのです。


まとめ

中小企業の内製化を阻んできた「わからないの壁」は、AIの進化で簡単に乗り越えられる時代になりました。残る壁は社員の心理、すなわち「AIってこんなに簡単に使えるんだ!」という驚きをまだ体験していないことです。

驚きは講義では生まれません。自分の業務が目の前で片づき、自分の手で「できた!」という成功体験を経て生まれます。AIを使いこなす副業人材に一つの業務で伴走してもらい、最初の成功者を生む。あとは社内広報で、組織に広まっていきます。

なお、副業人材の活用については、拙著『副業人材活用の戦略』(整流出版)に考え方と実務をまとめています。あわせてお読みいただければ幸いです。

成功に近道なし。共に頑張りましょう。

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この記事を書いた人

砂川 大輔(すながわ だいすけ)

副業人材活用の専門家/トトノエルジャパン合同会社 代表

早稲田大学先進理工学部卒業、同大学院先進理工学研究科修了。新卒でアマゾンジャパン合同会社に入社し、マーケティングを担当。ハードライン事業本部にて最優秀マーケティング表彰を受ける。世界最先端のマーケティングの現場で、個人の能力に頼らず成果を出し続ける「しくみ」の力を学ぶ。

富士通株式会社CEO室にて、企業ビジョンの刷新や経営戦略の策定など、経営の意思決定に携わる。そのかたわら、副業人材として200社を超える中小企業の現場を支援。大企業で磨かれた経営の型を、中小企業で使える形に翻訳し、企業機能の内製化と自走する組織づくりに伴走している。自らもトトノエルジャパン合同会社を経営し、会社員・副業人材・経営者の、三足のわらじで活動。

副業人材活用の知見は行政・金融機関からも注目され、内閣府『プロフェッショナル人材活用ガイドブック』に歴代最多の3度掲載(2024、2026。うち2024は2事例)。厚生労働省広報誌『厚生労働』、野村證券『野村週報』に取材記事が掲載されたほか、株式会社みらいワークス「プロフェッショナルアワード2023」個人賞を受賞。高知県、和歌山県などの自治体・公的機関のセミナーや、大学の経営学部で登壇。2024年、副業人材活用の専門メディア『副業人材活用ラボ®』を開設し、編集長を務める。2026年には『経営者のための副業人材活用・適正運用ガイドライン』を公開。

2026年7月、初の著書『副業人材活用の戦略 参画企業200社超の専門家が実践から見出した企業経営者の思考と技術』(整流出版)を刊行。

掲げるビジョンは「よいものが正当に評価される社会をつくる」。

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