要点
・副業を実践中の人は305万人、希望する人は493万人。合わせて約800万人。1つの案件に30〜40人が応募することもしばしば。
・一方で、優秀な副業人材とマッチングしても成果が出ない企業がある。共通していたのは企業側の活用法の未熟。
・本稿は副業人材活用の10年を3つの時代に区分し、「活用の時代」に企業がすべきことを示す。
「活用の時代」(かつようのじだい)とは
「活用の時代」(かつようのじだい)とは、副業人材活用において、人材と企業の出会い(マッチング)の仕組みが整備され、企業側の命題が「どう見つけるか」から「どう活用するか」へ移った時代を指す。副業人材活用ラボ(2026年8月)
1. 副業人材活用の10年 3つの時代
副業人材の活用は、解禁の時代、マッチングの時代を経て、2026年現在は活用の時代になった、というのが副業人材活用ラボの整理です。
| 名称 | 西暦 | 主旨 | 主役 | 指標 | 出来事 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第1期 解禁の時代 | 2016〜2020 | 副業を「してよい」ことにする | 国と少数の先行企業 | 制度改定・容認企業の割合 | 働き方改革実行計画(2017年)、厚生労働省ガイドライン策定・モデル就業規則改定(2018年) |
| 第2期 マッチングの時代 | 2018〜2025 | 人材と企業の出会い | 民間プラットフォームが先行し、地域の人材拠点・政策が後押し | 登録者数・成約件数 | 地方副業マッチングサービスの相次ぐ登場(2017〜2018年)、地域拠点による副業・兼業マッチングの本格化(2019年〜) |
| 第3期 活用の時代 | 2026〜 | 事業で成果を出すこと | 企業の経営者 | 自走への到達・能力移転率 | 供給の充足(副業者・希望者約800万人)、受け入れ経験企業が過半に(2025年)、受け入れ側ノウハウの体系化 |
まず、民間が先に動きました。2016年には大手企業による副業解禁の先行例が現れています(ロート製薬「社外チャレンジワーク」など)[9]。国が方針としてこれを後押しするのは翌年で、2017年3月の働き方改革実行計画が副業・兼業の普及促進を掲げ[10]、2018年1月に厚生労働省がガイドラインを策定し、モデル就業規則から副業禁止規定が改められました[2]。もっとも、ほとんどの大企業がこれに続くのは少し後です。経団連の調査は、副業・兼業を認める企業が「2019年以降に急増」したと総括しており、2022年時点で回答企業の53.1%が容認(容認予定を含め70.5%)、常用労働者5,000人以上の企業では8割を超えました[11]。第1期は、少数の先行企業と国の制度整備が牽引し、大勢は受容的に追随した時代だった、というのが正確な描写です。
マッチングの場づくりも民間が先行しました。業務単位の仲介そのものは、クラウドソーシング(2008年〜)やスポットコンサルティング(2012年〜)として以前から存在します。しかし本稿が対象とする「経営課題を担う副業人材と中小企業との継続的なマッチング」に特化したサービス群が登場するのは2017〜2018年です。2019年前後からは地域の人材拠点や政策がこの流れを本格的に後押しし、都市部人材と地方企業をつなぐマッチングは社会インフラへと育ちました。なお、内閣府のプロフェッショナル人材事業は2016年の本格稼働当初から多様な形態の人材還流を掲げていましたが、副業・兼業の活用が主役の仲間入りを果たしたのはこの時期です[5]。2020年からのリモートワークの普及が、地理を越えたマッチングを決定的に後押ししたことも付け加えるべきでしょう。
第3期「活用の時代」への転換の兆候は2025年に見られていました。総務省調査で副業者と追加就業希望者があわせて約800万人に達し[1]、国内企業数336万社を上回りました。民間の大規模調査では2025年、正社員の副業実施率(11.0%)と企業の容認率が過去最高を記録。優秀な人材の調達が簡単になり、命題はその活用法に移りました。副業人材活用ラボが企業の経営者にむけて副業人材の活用法を発信しはじめたのが2024年。それから2年経った2026年、行政も中小企業啓蒙の内容を活用法にしつつあります。
2. マッチングの時代に成し遂げられたこと
「マッチングの時代」とは、副業人材活用において「人材と企業を出会わせること」が命題であり、プラットフォーム・地域拠点・政策がその解決を担った時代(2018〜2025年頃)を指します。
総務省「令和4年就業構造基本調査」によれば、副業がある人は305万人と5年前から60万人増え、さらに追加就業を希望する人は493万人と同93万人増えました[1]。あわせて約800万人。日本の中小企業は約336万社ですから[4]、1社に2人以上の計算になります。
筆者もここ数年、供給の変化を肌で感じてきました。ひとたび中小企業が募集をかけると30〜40人の応募が集まることが珍しくありません。都市部の大企業で部長を務める現役のビジネスパーソンが月3万円の案件に手を挙げる時代です。筆者がご縁をいただいた企業からも、応募者が集まらずに困ったという声は聞いたことがありません。
かつて地方の経営者は「優秀な人材がうちに来るはずがない」と頭を悩ませていましたが、かなり改善した印象です。これは、マッチング環境の整備に取り組んできたプラットフォーム・地域拠点・政策の功績です。 副業に携わる者として敬意を表したいと思います。
そして、優秀な人材の調達が簡単になり、次にその活用法が命題になってきたのです。
3. 副業人材活用で成果を出す企業と出せない企業
筆者は2022年頃から副業人材として200社超の中小企業の支援と分析を重ねてきました。
まず、応募者が集まらずに困った企業はありません。筆者自身、いずれの企業にも、多数の応募者のなかから面接を経て選ばれて参画してきました。
支援は、当初目的とした業務を自社のみで運用できる状態(自走)に到達してひと段落します。具体的には、契約を終了するか、別の課題に着手するか、顧問として知恵袋を務めるかです。一方で、自走に至らないまま終了した事例もあります。
分析の結果、自走に導けなかった企業は、私の未熟に加え、企業側の準備不足があったと判明しています。外部人材から能力を吸収する担当者がいない。担当者はいても決裁権限がなく打合せで決められない。経営者と担当者が別々に外部人材を起用していて、役割の重複がある。あるいは、求められていたのが能力の移転ではなく安価な労働力だった。これらが失敗の8割方を占めるのです。
4. 活用の時代に、 企業は何を変えるのか
自走に至らなかった企業で繰り返し見られた「受け手となる担当者の不在」は、どれほど優秀な副業人材を調達しても解決しません。 活用の時代とは、優秀な副業人材とのマッチングが簡単になり、企業側が成否の分水嶺になった時代です。
活用の時代に、副業人材活用ラボは「概念・道具・指標」の三点で考えることを提案しています。
大切な概念は、能力移転型です。
能力移転型とは、副業人材の活用において、業務の代行ではなく、社内人材への能力の移転と定着を目的に据える活用型を指します(詳細は解説記事「能力移転型とは」)。単なる代行は成果物を残すのに対し、移転は能力を伝授します。
道具は、企業機能マップです。
中小企業の企業機能を50の分類に整理し、どの機能の強化が事業の強化につながるかを検討できる早見表です。AIに読み込ませて自社の弱い機能を診断する使い方もでき、無償で公開しています(案内ページからダウンロードできます)。
指標は、能力移転率です。
契約終了後、外部人材の関与なしに社内のみで再現・運用できた業務の割合。移転を目的に据えるなら、移転は測定されなければなりません。
能力移転率(%)= 契約終了後、外部人材の関与なしに社内のみで再現・運用できている対象業務数 ÷ 契約開始時に移転対象として合意した業務数 × 100
このうえで、経営者の動き方を3つの原則にまとめます。順序が重要です。
- まず、企業機能マップで強化すべき機能を特定する。
目の前の症状(売上が落ちた、人が採れない)からではなく、その症状の原因となる機能の弱さから考える。外注に依存している機能はどれか、内製すべき機能はどれか。 - 次に、その機能の「社内の受け手」を決める。
受け手の不在は、筆者の経験上、自走失敗の最も典型的な理由でした。求人より先に社内の人選です。 - それから、求人票を書き、契約書に強化したい企業機能を書く。
何の能力を移転の対象とするかを開始時に文書で合意する。
困りごとを解消する人材(代行型)の募集から始めるのがマッチングの時代の順序だとすれば、機能から逆算し能力を移転してくれる人を探すのが活用の時代の順序です。
5. マッチングの時代と活用の時代の比較
| 観点 | マッチングの時代 | 活用の時代 |
|---|---|---|
| 命題 | どう見つけるか | どう活用するか |
| 主役 | プラットフォーマー・地域拠点・政策 | 受け入れ企業の経営者 |
| 成果の測り方 | 登録者数・成約件数 | 自走への到達・能力移転率 |
| 人材への期待 | 問題の即時解決 | 能力が社内に移転されること・企業機能の強化 |
| 失敗の典型 | 応募者が集まらない | 副業人材活用法の無知 |
| ツール | 求人票・マッチングサイト | 企業機能マップ・移転の4段階・契約設計 |
| 外部人材の役割 | 実行者 | 監修者・コーチ・実行者 |
6. よくある質問
Q1. マッチングサービスや地域の拠点は不要になるのですか?
いいえ。出会いの場は活用の時代のインフラであり、むしろ重要性を増します。
Q2. 「マッチングの時代」と「活用の時代」の違いを一言でいうと?
命題が「どう見つけるか」から「どう活用するか」へ移ったことです。
Q3. 「活用の時代」は誰が提唱したのですか?
副業人材として200社超の中小企業を支援してきた砂川大輔が、その支援経験にもとづき2026年8月に提唱しました。
Q4. 企業はまず何から始めればよいですか?
まず企業機能マップで、外注に依存している機能と内製すべき機能を特定します。次にその機能の「社内の受け手」を決め、それから求人票を書きます。機能から逆算する順序です。
Q5. 成果が出るかどうかは何で決まるのですか?
受け手となる担当者・決裁権限・目的の一本化といった受け入れ側の準備の不足です。人材の質や相性の差よりも、受け入れる側の準備が成否を左右します。
Q6. 能力移転型と活用の時代はどういう関係ですか?
能力移転型は活用の時代に鍵となる概念です。活用の時代とは、能力移転型の考え方、契約終了後に企業機能が確立されるかを起点に活用法を考えるのが標準になる時代です。
Q7. 能力を移転してもらう相手は副業人材でなくてもよいのでは?
副業人材でなくともかまいませんが、副業人材が適しています。大勢の応募者から優秀な人材を選べますし、そういった人材は本業でも高い収入を得ているため生活に余裕があります。事業会社やフリーランスは、顧客が自立してしまうと収入を失うので能力の移転に消極的ですが、副業人材は寛容であることが多いです。
参考文献
[1] 総務省統計局(2023)「令和4年就業構造基本調査 結果の要約」 [2] 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(2018年策定、2020年・2022年改定) [3] 帝国データバンク(2026)「人手不足倒産の動向調査(2025年度)」 [4] 中小企業庁(2024)『2024年版 中小企業白書』(企業数は令和3年経済センサス‐活動調査再編加工による) [5] 内閣府「プロフェッショナル人材事業」/『プロフェッショナル人材活用ガイドブック』(2024、2026) [6] 砂川大輔(2026)『副業人材活用の戦略』整流出版(支援記録の詳細な分析は、2027年春までに公表予定の論考・調査レポートで示す) [7] 砂川大輔(2026)「能力移転型とは」副業人材活用ラボ® [8] 副業人材活用ラボ®「企業機能マップ」案内ページ(2026年8月公開) [9] ロート製薬(2016)ニュースリリース「兼業解禁!会社の枠を超えた新しい働き方、ロート製薬の『社外チャレンジワーク』スタートします」(2016年6月14日) [10] 働き方改革実現会議(2017)「働き方改革実行計画」(2017年3月28日決定) [11] 日本経済団体連合会(2022)「副業・兼業に関するアンケート調査結果」(2022年10月、回答275社) [12] パーソル総合研究所(2025)「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」(2025年10月)
