はじめに
大企業の現役社員が何十人も応募してくる。それも月数万円で。
今、副業人材市場は雇い手優位です。中小企業にとって、かつてない好機です。
しかし、ここで一つ問いを立てたいと思います。
この「安く優秀な人材が選び放題」の状況は、いつまで続くのでしょうか。
私の見立てでは、この状況は永遠ではありません。
それも、最も欲しいプレミアムな人材から先に、手が届きにくくなっていきます。
本記事では、その理由と、今のうちに何をしておくべきかを紹介します。
第1章:「30人集まる」の背景
まず、今の雇い手優位がなぜ起きているのか。
副業を希望する大企業社員が急増しています。
一方、副業人材を受け入れる中小企業はまだ少ない。
だから1つの案件に応募が集中します。需要に対して供給が厚い。これが「30人集まる」の正体です。
しかし、落とし穴があります。「30人集まること」と「価値を出せる人材を獲得し、実際に価値を引き出せること」は別の話です。
そして、本当に希少なものは何か。大企業のシニアが持つ専門知見や、戦略・判断を担える力。これも希少です。
しかし中小企業にとって、それ以上に希少なものがあります。社員を育てる力です。
中小企業には、育成に専念できる人材がいません。育成のできる優秀な社員ほど、利益を生む最前線に回さざるを得ない。教えるより、稼いでもらう。これが中小企業の現実です。結果、社員を育てる機能が空洞化しています。
だからこそ、外から「育成力」を借りられることに、計り知れない価値があります。
専門知見、判断力、そして育成力。これらを併せ持つプレミアム人材は、応募者の多さとは裏腹に、本当に希少なのです。
第2章:雇い手優位は、上位層から終わっていく
副業市場は、これから2つの力によって二極化していきます。
ひとつは、AIです。
ライティング、デザイン、動画編集、定型的なコーディング。こうした汎用的な作業は、AIが急速に飲み込んでいます。この層は応募がさらに殺到し、単価も下がる。雇い手優位がいっそう強まります。
もう一つは、人手不足です。
戦略、専門知、DXのリード、判断を要する仕事。こうした上位の領域は、本業の労働市場の人手不足と地続きで、ますます希少になります。リクルートワークス研究所の試算によると、日本の労働供給は2030年に約341万人、2040年には約1,100万人不足するとされています。これは景気変動による一時的な不足ではなく、人口減少による構造的なものです。
この2つの力が働くと、市場はK字に分かれます。
下位の作業層は買い手優位がさらに強まり、上位のプレミアム層は売り手市場に転じる。
実際、その兆候はもう表れています。フリーランスのエンジニア単価を見ると、AIを使いこなす高度人材の報酬は高騰する一方、AIで代替できる汎用スキルの単価は横ばい。複数の調査が、この「K字型の二極化」を指摘しています。
つまり「安く優秀な人材が選び放題」の状況は、最も欲しいプレミアム人材から先に終わっていきます。「いつでも雇える」と高をくくっていると、本当に必要なときに振り向いてもらえません。
第3章:プレミアム人材は、骨太な課題に惹かれる
では、プレミアム人材が売り手市場に転じる時代に、選ばれるのはどんな会社か。
「プレミアム人材を惹きつけるには、業務を細かく定義し、やることを明確にしなければならない」と思われがちです。しかし、これは必ずしも正しくありません。
プレミアム人材が本当に求めているのは、明確に整理された作業ではなく、難易度の高い挑戦です。
考えてみてください。大企業で十分な経験を積み、経済的にも余裕のある人材が、なぜ月数万円の副業をするのか。
お金のためではありません。本業では味わえない、骨太な課題に挑みたいからです。
「うちは採用力が弱いので、なんとかしてほしい」 「社員を育てる仕組みがないので、作ってほしい」
こうした依頼は、一見すると曖昧です。成果がすぐに出るものでもありません。しかし、だからこそ魅力的なのです。一朝一夕には解けない、知恵と経験を総動員して挑む価値のある課題。
プレミアム人材は、こういう難題にこそ心を動かされます。
逆に、誰でもできる単純作業を切り出して「これをやってください」と渡しても、優秀な人材は退屈します。彼らが欲しいのは、自分の力が試される手応えです。
つまり、中小企業が抱える「採用が弱い」「人が育たない」「新規事業が立ち上がらない」といった根深い悩みは、プレミアム人材にとっては、むしろ腕の見せどころ。自社の弱みを正直に差し出すことが、優秀な人材を惹きつける誘い水になります。
ただし、課題は大きくてよいのですが、受け入れる側の準備は必要です。
実際、副業人材の活用がうまくいった企業とそうでない企業の最大の差は、「業務内容・期待成果を明確にしているか」「受け入れのルールを決め、稼働時間を管理しているか」だったという調査結果があります(リクルート、ソンポ・リスケアマネジメントの調査)。
課題そのものは「採用をなんとかしてほしい」と大きく構えてよい。しかし「どこまでを任せ、どんな状態を目指すか」「どのくらいの稼働で関わってもらうか」という枠組みは決めておく。挑戦の大きさと、枠組みの明確さ。この両立が、プレミアム人材を活かす鍵です。
第4章:プレミアム人材を「作業者」として扱うと去っていく
第3章で見た通り、プレミアム人材は骨太な挑戦に惹かれます。裏を返せば、彼らを単純な作業者として扱った瞬間に、挑戦のしがいは失われ、心が離れていきます。
プレミアム人材は、お金だけでは動きません。本業を持ち、経済的な余裕もあるからです。
彼らが副業に求めるのは、面白い課題、裁量、自分の知見が活きる手応え、そして敬意です。
だから、便利な作業者としてこき使う会社には、来ないし、来ても残りません。
過去記事「環境変化に社長のマインドセットが追い付いていない」で論じた通り、原則は「内製化のコーチ」として迎えることです。
特に、育成力を期待してプレミアム人材を迎えたなら、なおさらです。社員を育ててほしいと頼んでおきながら、目先の作業ばかり振っていては、本来の力を発揮してもらえません。プレミアム人材には、難題に挑んでもらう。そして、その過程で社員が育つ。この構図を守ることが、優秀な人材に長く力を貸してもらう条件です。
売り手市場に転じる時代、「この会社は自分を活かしてくれる」と思われることが、人材獲得の決め手になります。
第5章:今のうちに、関係を築いておく
雇い手優位の今は、プレミアム人材と関係を築く絶好のタイミングです。
まだ売り手市場になりきっていない今のうちに、良い人材と出会い、信頼関係を作っておく。
そして単発で終わらせず、継続的な関係を育てる。プロジェクトごとに、また力を借りる。
プレミアム人材ほど、信頼できる相手とだけ長く付き合いたいと考えています。一度良い関係を築けば、市場が売り手優位に転じても、優先的に時間を割いてもらえる。
これが先行者利益です。早く受け入れ体質を作り、良い人材と関係を築いた企業が、これからの人材獲得競争で先んじます。
実際、副業は転職の入口にもなりつつあります。副業人材を受け入れた企業の半数以上が、その副業人材が自社に転職してきた経験を持つという調査もあります。良い関係を築いたプレミアム人材が、やがて正社員として加わってくれる。そんな展開も、現実に起きています。
私が見てきた限り、伸びている中小企業は、副業人材を使い捨てず、長期的なパートナーとして大切にしています。だから市場が変わっても、優秀な人材に困りません。
まとめ
「安く優秀な人材が選び放題」の状況は、永遠ではありません。AIが下位の作業層を飲み込み、人手不足が上位の専門家層を希少化させる。最も欲しいプレミアム人材から先に、売り手市場に転じていきます。
その時代に選ばれるのは、プレミアム人材を活かせる会社です。骨太な課題を正直に差し出し、枠組みだけは明確に握り、彼らを作業者ではなくコーチとして遇する。この体質を、雇い手優位の今のうちに作っておく。
「30人集まる」に安心している場合ではありません。今こそ、受け入れ体質を整え、良い人材と関係を築くときです。
成功に近道なし。共に頑張りましょう。
出典
- リクルートワークス研究所『未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる』(2023年)
- パーソルキャリア「副業・フリーランス人材白書2025」
- 各種フリーランス単価調査(2025〜2026年)
