環境変化に社長のマインドセットが追い付いていない

はじめに

副業人材の募集をかければ、大企業の社員が何十人も応募してくる。それも月数万円で。
かつて中小企業には手の届かなかった人材が列をなしてやってくる時代になりました。

しかし雇い手優位な市場の急速な膨張に際し、中小企業経営者の認識はまだまだ追い付いていないというのが現場での実感です。

副業人材は、内製化のコーチとして使うもの。社員が力をつけるのを助ける存在です。

ところが「これだけ優秀な人を安く使えるなら」と、実務の実行要員として使う社長が増えている。
そしてその姿を、社員は冷めた目で見ています。


第1章:副業人材は「内製化のコーチ」が原則

副業人材の価値は、社員に知恵と型を伝え、社員が自分の力で回せるようにすることにあります。

従来の外注先(事業会社やフリーランス)は囲い込みのビジネスです。だから、依頼企業が自立してしまうと困る。知恵をすべて渡して自立を支援することはインセンティブに反します。

副業人材は違います。本業で収入があり、懐にも心にも余裕があります。
数十名の応募者の中から採用される人材は有能で、本業でも然るべきポジションに就いていることが多いのです。そのため依頼企業を囲い込む必要がなく、支援先の自立を喜びます。こういう稀有な立場だからこそ、副業人材は「内製化のコーチ」として適任なのです。

社員を育てるコーチ。これが副業人材の正しい使い方です。


第2章:追い風が、原則を忘れさせる

ところが、この原則は簡単に忘れ去られます。

ハイスペックな人材が、安く、大量に集まる。すると、こういう発想が芽生えます。「これだけできる人が、こんなに安く使えるなら、もっといろいろやってもらおう」。

ここで思い出してほしいのが、「できる」と「やらせていい」は別物だということです。その人にスキルがあることと、その人にその作業をやらせるべきかは、まったく別の話。熱狂といっていい雇い手優位な市場が急にあらわれ、危機感が欠如しているように思います。


第3章:社員は、その姿をこう見ている

ここからが本題です。

副業人材に躍起になる社長を、社員はどう見ているか。

社長本人は、「攻めの経営」をしているつもりです。優秀な外部人材を活用して、会社を前に進めている。そういう手応えを感じているかもしれません。

しかし、社員の目には冷めて映っているケースがほとんどです。

「社長は外部の人ばかり頼りにして、自分たちを信用していないのではないか」 「あの人の意見はすぐ通るのに、自分たちの意見は聞いてもらえない」 「結局、おいしい所は外の人にとられる」

社員が感じているのは、軽んじられているという感覚。そして、成長の機会を奪われたという感覚です。

よりスペックの優れた人材が入ってくると、もといた人達は「自分の居場所がない」と感じ追い詰められ、やがて辞めていきます。

ことわっておくと、私は、正社員として優秀な人をひっぱってくることを否定しません。正社員は、企業が競争を勝ち抜くため、自力の強化に必須だからです。

問題は、正社員ではない外部の人材に、中核業務を担わせすぎてしまうことです。

優秀な人材が正社員として、次々と応募してくる大企業は、外部の人材をどんどん使っていいです。
なぜなら、正社員が抜けてもすぐに補充できるからです。大企業にはそれだけの待遇があります。
しかし、中小企業はそうではありません。


第4章:こき使いが招く、二重の損失

副業人材を実務要員としてこき使うと損失が生じます。

一つ目は、社員の離職です。

軽んじられていると感じた社員は辞めていきます。
もともと中小企業の離職率は高く、厚生労働省のデータによると、就職後3年以内の離職率は、従業員30〜99人規模の企業で約40%にのぼります。大企業の約25%と比べて、かなり高いのです。

そして離職理由の多くは、人間関係、評価、成長実感です。外部人材ばかり重用すれば、社員は「評価されていない」「成長させてもらえない」と感じる。離職理由のど真ん中を、社長自ら刺激してしまうわけです。

二つ目は、内製化の失敗です。

外部の人材を実務要員として使えば、知恵は社員に残りません。コーチではなく作業者として消費しているのだから当然です。社員が自走できるようにはならないのです。

結局、副業人材がいなくなった後に、何も残らない。社員は減り、ノウハウも蓄積されていない。倒産リスクを膨張させてしまう。これが、こき使いの行き着く先です。


第5章:追い風だからこそ、原則に立ち返る

ハイスペックな人材が、安く集まる。この追い風は、正しく使えば中小企業にとって絶好の機会です。

だからこそ、原則を忘れてはいけません。

副業人材は、内製化のコーチ。主役は社員です。
副業人材の知見を、社員が吸収する。社員が成長する。成長の伴走役として副業人材を使う。
この順番を守ってください。

そして、社員が「自分たちは大切にされている」「成長させてもらえる」と感じる使い方をする。
副業人材を入れることで社員が伸びるなら、社員は外部人材を歓迎します。逆に、副業人材によって自分の出番が奪われると感じれば、社員は離れていきます。同じ副業人材の活用でも、社員の受け取り方は正反対になる。その分かれ目は、社長が原則を守れているかどうかです。

私が見てきた限り、副業人材の活用がうまい社長は、社員を主役に置き続けています。
副業人材に躍起になる社長ではなく、社員の成長に躍起になる社長。そういう企業が、結局は伸びています。

安くて優秀な人材が手に入る時代に、その誘惑に負けず、原則を守れるか。ここが問われています。


まとめ

ハイスペックな人材が安く集まる副業人材市場では、「副業人材は内製化のコーチ」という原則が忘れられがちです。

外部の人間を重用しすぎると、社員は軽んじられたと感じ離れていきます。

追い風のときこそ、原則に立ち返ってください。副業人材は、社員を主役にするための存在です。

成功に近道なし。共に頑張りましょう。

副業人材は、どう使うのが正しいのですか?

「内製化のコーチ」としての起用が原則です。社員に知恵と型を伝え、社員が自分の力で回せるようにする存在です。事業会社やフリーランスは囲い込みのビジネスなので依頼企業の自立を望みませんが、副業人材は本業で収入があり懐にも心にも余裕があるため、支援先の自立をむしろ喜びます。だからこそ社員を育てるコーチに適任なのです。

なぜ「内製化のコーチ」という原則が忘れられてしまうのですか?

ハイスペックな人材が安く大量に集まると、「これだけできる人を安く使えるなら、もっといろいろやってもらおう」という発想が芽生えるからです。しかし「できる」と「やらせていい」は別物です。スキルがあることと、その人にその作業をやらせるべきかは、まったく別の話です。

副業人材を実務要員としてこき使うと、社員はどう感じますか?

「社長は外部の人ばかり頼って、自分たちを信用していない」「成長の機会を奪われた」と冷めた目で見ます。よりスペックの高い人材が中核業務を担うと、もといた社員は居場所を失ったと感じ、やがて辞めていきます。社長は攻めの経営をしているつもりでも、社員には軽んじられていると映っているケースがほとんどです。

副業人材をこき使うと、具体的にどんな損失がありますか?

二重の損失が生じます。一つは社員の離職です。中小企業はもともと離職率が高く、離職理由の多くは評価や成長実感。外部人材ばかり重用すれば、その理由のど真ん中を社長自ら刺激してしまいます。もう一つは内製化の失敗です。作業者として消費すれば知恵は社員に残らず、副業人材がいなくなった後に何も残りません。

では、追い風の今こそ何を意識すべきですか?

原則に立ち返ることです。主役は社員であり、副業人材はその成長の伴走役だという順番を守る。社員が「大切にされている」「成長させてもらえる」と感じる使い方なら、社員は外部人材を歓迎します。同じ活用でも社員の受け取り方は正反対になり、その分かれ目は社長が原則を守れているかどうかです。

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この記事を書いた人

砂川 大輔(すながわ だいすけ)

副業人材活用の専門家/トトノエルジャパン合同会社 代表

早稲田大学先進理工学部卒業、同大学院先進理工学研究科修了。新卒でアマゾンジャパン合同会社に入社し、マーケティングを担当。ハードライン事業本部にて最優秀マーケティング表彰を受ける。世界最先端のマーケティングの現場で、個人の能力に頼らず成果を出し続ける「しくみ」の力を学ぶ。

富士通株式会社CEO室にて、企業ビジョンの刷新や経営戦略の策定など、経営の意思決定に携わる。そのかたわら、副業人材として200社を超える中小企業の現場を支援。大企業で磨かれた経営の型を、中小企業で使える形に翻訳し、企業機能の内製化と自走する組織づくりに伴走している。自らもトトノエルジャパン合同会社を経営し、会社員・副業人材・経営者の、三足のわらじで活動。

副業人材活用の知見は行政・金融機関からも注目され、内閣府『プロフェッショナル人材活用ガイドブック』に歴代最多の3度掲載(2024、2026。うち2024は2事例)。厚生労働省広報誌『厚生労働』、野村證券『野村週報』に取材記事が掲載されたほか、株式会社みらいワークス「プロフェッショナルアワード2023」個人賞を受賞。高知県、和歌山県などの自治体・公的機関のセミナーや、大学の経営学部で登壇。2024年、副業人材活用の専門メディア『副業人材活用ラボ®』を開設し、編集長を務める。2026年には『経営者のための副業人材活用・適正運用ガイドライン』を公開。

2026年7月、初の著書『副業人材活用の戦略 参画企業200社超の専門家が実践から見出した企業経営者の思考と技術』(整流出版)を刊行。

掲げるビジョンは「よいものが正当に評価される社会をつくる」。

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