見える化された社会で

はじめに

確実性が高まる時代に」という記事を書きました。
社会の情報化に伴い、付け焼刃のテクニックが効かなくなった、というお話でした。

今回はその続編です。

AIによって、誰でも有識者並みの情報を手にできるようになりました。

見える化された社会で、中小企業が直面する問題と、どう立ち向かうべきかを整理します。


第1章:情報の非対称性で儲ける時代の終わり

ビジネスは長らく、情報を持っている側が儲かる構造でした。

江戸時代の豪商、紀伊国屋文左衛門という人がいました。文左衛門は、紀州でみかんが豊作で価格が暴落していた一方、江戸では高騰していることを知り、みかんを江戸に運んで巨利を得たと伝えられています。両方の地域の相場を知っているのは限られた商人だけ、という情報の非対称性が利益の源泉でした。

時は流れて2000年ごろ、価格比較サイトが登場するまで、家電やパソコンの価格は店舗により大きく異なっていました。安く仕入れて、相場を知らない顧客に売る。家電量販店の商売も、情報格差の上に成り立っていた面があります。

ところが、価格.comのような比較サイトが普及すると状況が変わりました。同じ商品の最安値が、ものの数秒で誰にでも分かるようになったのです。家電量販店は、他店より1円でも高ければご相談くださいとまで打ち出すようになり、利益を稼ぐのは急速に難しくなりました。

早稲田大学の入山章栄教授は、著書『世界標準の経営理論』の中で「情報の非対称性は実はチャンスでもある」と述べています。自社だけがある情報を持っていれば、それを武器にライバルを出し抜ける。経営学の世界でも、この点は長く支持されてきました。

ところが情報化、特にAIの普及で、この非対称性が急速に萎んでいます。価格、品質、企業内部、業界知見。これらを、誰でもものの数分で確認できる時代になりました。

「知っているだけで儲かる」時代は終わり、「知った上で何をするか」が問われる時代になっているのです。


第2章:見える化する社会で顕在化する中小企業の課題

見える化する社会で、中小企業は次の問題に直面しています。

①採用

求人情報プラットフォームOpenWorkの累計会員数は約753万人(2025年9月末時点)、社員クチコミ数は累計2,000万件を超えています。求職者は応募前に、必ずといっていいほど企業の口コミを確認する時代です。

組織課題、人間関係、評価制度の歪み。これらが応募者に丸見えになります。中小企業の場合、少数の口コミで大きな影響を受けたりします(★1のレビューがひとつ付くだけで平均点が大幅に下がる)。

一般に、中小企業の待遇は大手に劣るため、相対的に低い評価になりがちです。

②マーケティング

顧客は購入前に、複数の選択肢を比較します。自社の商品と競合の商品が、価格・スペック・口コミで横並びに並び、多くの商品は価格競争に巻き込まれています。

③営業

顧客は商談前にAIで業界の相場や一般的な提案内容を予想できます。「営業に話を聞いてみたら耳よりな新情報があった」という付加価値は出しづらくなっています。

④広報・危機管理での透明化

不祥事や顧客対応の失敗がSNSで即時拡散します。隠せる時代ではなくなりました。


第3章:AIが社会の見える化を加速

過去記事でも触れましたが、ここでは可視化の観点でAIを考えてみます。

AIが普及したことで、これまで専門家しか持てなかった視点を、誰もが手にしています。

法律の世界では、AIによって、弁護士など有識者しか分からなかった難解な条文の意味が、誰でも読み解けるようになりました。財務分析では、決算書から経営状態を読み解けるようになりました。競合分析では、Webサイト1つから競合の思惑を推定できたりします。

不動産業界では、AIによる中古マンション価格推定の研究が進んでいます。情報処理学会の論文によると、これまで「不動産エージェントの経験に依存していた属人的な価格査定」が、AIによって透明化されつつあります。顧客と不動産業者の間の情報の非対称性が、技術によって解消されようとしているわけです。

中小企業も、AIを駆使する側であり、同時にAIに評価される立場にあります。使う側になれば武器、使われる側になれば脅威。どちらの影響が上回るかは、経営者次第です。


第4章:見える化社会でのタブー

見える化された社会のタブーを紹介します。

①隠す

内部情報を隠そう、口コミを削除しよう、悪評を抑え込もうとする打ち手です。

一時的には効きますが、隠した事実は遅かれ早かれ表に出ます。むしろ「隠している会社」という悪評が立ち、逆効果になることが多いのです。ですから例えば、近年の記者会見は、露見から数時間以内に行われることが多くなっています。(日を跨いでしまうと、「開示が遅い!不誠実だ!」と、ズレた論点で叩かれたりもします。)

②着飾る

派手なキャッチコピーに整いすぎた口コミ。

過去記事「物語でのセールスは難しくなっている」で触れた罠と同じです。背伸びしても、見える化された社会で隠し通せるものではありません。

③見ないふり

「うちは口コミに登場しないから関係ない」「うちの顧客はネットを見ないから」。

多くの場合、これは経営者の希望的観測です。見える化は自社の意向とは関係なく進む環境変化です。


第5章:見える化社会こそ地力が大切

隠す・着飾る・見ないふりが効かないなら、やはり地力をつけることです。

採用、商品、営業、広報。自社のビジネスを支える領域で「中身を強くする」。見られても恥ずかしくない実態を、地道に作る。これが見える化された社会での数少ない対策です。

見える化された時代で勝つのは、地力を積み上げた企業。当たり前すぎて拍子抜けする結論かもしれませんが、当たり前のことを当たり前にやり切る企業が、結局のところ強いのです。

ところが、地力をつけるという話になると、多くの中小企業の経営者は「地力をつけるためのリソースが社内にない」と頭を悩ませることになります。

採用を強化したいが採用担当者がいない。マーケを磨きたいがマーケ担当者がいない。営業の型を作りたいが教えられる人がいない。商品を磨きたいが商品開発の経験者がいない。

地力をつける意欲はある。しかし方法が分からず、教えられる人もいない。多くの中小企業は長らく足踏みしてきました。


第6章:地力をつけるのに副業人材を使う

副業人材は、企業が地力をつけるための支援者として機能します。これは他の外部人材には真似できない、副業人材だけの特徴です。

副業人材ではなく、事業会社やフリーランスに依頼する選択肢はあります。しかしそれでは、依存関係が続くだけで、自社に力は溜まりません。事業会社は継続受注がビジネスモデルなので、依頼企業を自立させる方向には力が働きにくい。フリーランスも、自分の存在が必要であり続ける方向に動きがちです。これは彼らが意地悪なのではなく、ビジネスモデルがそうなっているのです。

ボランティアにも、地力をつけるために必要な期間中ずっと支援してくれるとは期待しにくいです。

一方、副業人材は本業の収入があり、依頼企業を囲い込む必要がありません。むしろ企業の自立を喜ぶ人材が多い。採用の型を社内担当者に伝授する。マーケの実務を社内担当者に教えながら回す。営業の勝ちパターンを社内に残して去る、といった具合です。

結果として、副業人材がいなくなった後も、自社の中に力が残ります。

見える化された社会に対抗する地力をつけるため、副業人材は適しています。


第7章:内製化の副産物として、外の目も手に入る

副業人材を内製化のコーチとして迎え入れると、副産物として「外から自社はどう見えるか」も分かってきます。

副業人材は複数企業の現場を渡り歩いていることが多いので、「他社ではこうしている」「業界ではこの数字が標準」といった情報が、内製化を進める過程で自然と社内に持ち込まれます。

これは見える化された社会で価値ある情報です。ただし主目的ではなく、副次効果として捉えてください。

主は内製化、副は外の目。副業人材の本当の価値は、企業の自立を支援してくれるところにあります。


まとめ

見える化された社会で、隠すのは筋が良いとは言えません。結局、地力をつけること。

しかし地力をつけるためのリソースが、多くの中小企業にはありません。ここで副業人材が活きます。副業人材は、内製化のコーチとして機能します。事業会社やフリーランスでは難しい役割を、副業人材は引き受けられるのです。

見える化された社会で、自社に力を蓄える。

成功に近道なし。共に頑張りましょう。

「情報を持っている側が儲かる」時代は、なぜ終わったのですか?

価格・品質・企業内部・業界知見といった情報を、AIの普及で誰もが数分で確認できるようになったからです。かつては情報の非対称性が利益の源泉でしたが、それが急速に萎んでいます。「知っているだけで儲かる」時代は終わり、「知った上で何をするか」が問われる時代になりました。

見える化が進むと、中小企業はどんな課題に直面しますか?

採用・マーケティング・営業・広報のすべてで実態が見えてしまいます。求職者は応募前に口コミを確認し、顧客は購入前に競合と横並びで比較し、商談前にAIで相場を予想します。不祥事や対応の失敗もSNSで即座に拡散する。中小企業は、AIを使う側であると同時に、AIに評価される立場にもあります。

悪い評判は、隠したり抑え込んだりすればよいのでは?

それは見える化された社会のタブーです。隠す・着飾る・見ないふり、いずれも通用しません。隠した事実は遅かれ早かれ表に出て、むしろ「隠している会社」という悪評を招きます。背伸びした演出も見破られ、「うちは関係ない」という見ないふりは、たいてい経営者の希望的観測にすぎません。

では、見える化された社会で何が一番大切ですか?

地力をつけることです。採用・商品・営業・広報といった自社を支える領域で中身を強くし、見られても恥ずかしくない実態を地道に作る。当たり前のことを当たり前にやり切る企業が、結局は強い。ただし多くの中小企業は「地力をつけるためのリソースが社内にない」という壁にぶつかります。

リソースのない中小企業は、どうやって地力をつければよいですか?

副業人材を内製化のコーチとして使うことです。事業会社やフリーランスは継続受注や自分が必要であり続ける方向に力が働き、依頼企業に力が溜まりにくい。一方、副業人材は本業の収入があり囲い込む必要がなく、企業の自立を喜びます。採用の型やマーケの実務、営業の勝ちパターンを社内に残して去るので、いなくなった後も自社に力が残ります。

副業人材を使うと、地力をつける以外の効果もありますか?

副産物として「外から自社はどう見えるか」が分かります。副業人材は複数企業の現場を渡り歩いているため、「他社ではこうしている」「業界の標準はこの数字」といった情報が、内製化の過程で自然と社内に持ち込まれます。ただしこれは副次効果であり、主目的はあくまで企業の自立支援です。

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この記事を書いた人

砂川 大輔(すながわ だいすけ)

副業人材活用の専門家/トトノエルジャパン合同会社 代表

早稲田大学先進理工学部卒業、同大学院先進理工学研究科修了。新卒でアマゾンジャパン合同会社に入社し、マーケティングを担当。ハードライン事業本部にて最優秀マーケティング表彰を受ける。世界最先端のマーケティングの現場で、個人の能力に頼らず成果を出し続ける「しくみ」の力を学ぶ。

富士通株式会社CEO室にて、企業ビジョンの刷新や経営戦略の策定など、経営の意思決定に携わる。そのかたわら、副業人材として200社を超える中小企業の現場を支援。大企業で磨かれた経営の型を、中小企業で使える形に翻訳し、企業機能の内製化と自走する組織づくりに伴走している。自らもトトノエルジャパン合同会社を経営し、会社員・副業人材・経営者の、三足のわらじで活動。

副業人材活用の知見は行政・金融機関からも注目され、内閣府『プロフェッショナル人材活用ガイドブック』に歴代最多の3度掲載(2024、2026。うち2024は2事例)。厚生労働省広報誌『厚生労働』、野村證券『野村週報』に取材記事が掲載されたほか、株式会社みらいワークス「プロフェッショナルアワード2023」個人賞を受賞。高知県、和歌山県などの自治体・公的機関のセミナーや、大学の経営学部で登壇。2024年、副業人材活用の専門メディア『副業人材活用ラボ®』を開設し、編集長を務める。2026年には『経営者のための副業人材活用・適正運用ガイドライン』を公開。

2026年7月、初の著書『副業人材活用の戦略 参画企業200社超の専門家が実践から見出した企業経営者の思考と技術』(整流出版)を刊行。

掲げるビジョンは「よいものが正当に評価される社会をつくる」。

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