はじめに
ここ数年、タスクフォースを使い新規事業を立ち上げる中小企業が増えています。かつて、人材に恵まれた大企業しかできなかった手法ですが、中小企業も行えるようになりました。本日はこの潮流についてお話したいと思います。
タスクフォース(Task force)とは、企業や組織において、緊急性の高い課題や特定のプロジェクトを解決するために、部門横断的に集められたメンバーで一時的に結成される専門チームのこと。語源は軍事用語の「機動部隊(任務部隊)」であり、迅速な意思決定と実行力、短期間での成果創出が求められる。
第1章:大企業のタスクフォース
大企業には、新規事業を立ち上げるときに各部門からエース級を引き抜き、専属チームを組む習慣があります。戦略、リサーチ、マーケ、技術、財務。機能ごとに最適な人材を集め、本業から切り離して立上げに専念させる。期間限定で結成し、立上げが軌道に乗れば解散するか、事業部に発展させる。これがタスクフォースです。
私自身、そういった企業に所属し、エース級を集めて短期決戦で立ち上げる場面を何度も見てきました。一人ひとりは「戦略のエース」「マーケのエース」と呼べる人材で、その人たちが半年から1年、新規事業に集中する。スピードも、アウトプットの質も、普段の業務とは別物でした。
なぜタスクフォースが効くのかというと、新規事業はその会社にとって初めての取組ですから、必要な知見が一箇所に揃った部門は存在しません。だから各部門から秀でた人材を集めて新たに結成するのです。当たり前のように聞こえますが、既存部門からエースを抜いてこられるのは、人材を豊富に有する大組織に限られていました。
第2章:中小企業がこの手法を真似できなかった理由
中小企業の経営者にこの話をすると、「うちでもやりたい」と言われます。しかし、これまで中小企業がタスクフォースを組むのは難しかった。理由は二つです。
一つは、エース級を本業から外す体力がないこと。中小企業のエースは、本業の屋台骨を支えています。彼らを新規事業に専念させたら、本業が止まります。
もう一つは、そもそも社内に必要なスキルセットが揃っていないこと。市場調査の専門家、財務モデリングの経験者、PoC設計に長けた人材。中小企業の人員構成では、これらが社内に同時に存在することは稀です。
結果、新規事業の立上げは社長の個人技になるか、外部のコンサル会社に丸投げになるか。社長だけでは既存事業との両立が難しく、丸投げでは知恵が社内に残りません。多くの中小企業の新規事業がこの壁にぶつかってきました。
第3章:副業人材市場の成長が追い風に
ここ数年で、一気に状況が変わりました。
副業人材市場の成長で、大企業や成長企業のエース級が参画してくれるようになっています。戦略を組める人、リサーチに長けた人、マーケに強い人、技術知見を持つ人。それぞれの分野のエース級を、機能ごとに副業人材として迎え入れる。これが現実的な選択肢になったのです。
つまり、大企業のタスクフォースに匹敵するチームを、中小企業も組めるようになった。新規事業の立上げを外部人材チームに依頼する求人が最近増えています。先見の明がある企業が数年前から取り入れてきた手法が、ようやく一般化しつつあります。
第4章:チーム構成の基本──機能ごとにエースを置く
ではどう組むか。基本は「機能ごとに1名」です。
戦略担当、リサーチ担当、マーケ担当、技術担当、財務担当。新規事業の性質に応じて必要な機能を切り分け、それぞれに最適な副業人材をアサインする。一人に複数機能を兼任させない。これは大企業のタスクフォースの原則と同じです。
なぜ兼任させないか。専門性を担保したいというのもありますが、もう一つ大きい理由があります。副業人材の稼働は週数時間です。一人に複数の役割を背負わせれば中途半端になります。絞るからこそ、限られた時間内に質の高いアウトプットが出るのです。
| 項目 | 従来の中小企業 | タスクフォース型 |
|---|---|---|
| 担い手 | 社長の個人技、またはコンサル丸投げ | 機能ごとに副業人材を配置 |
| 専門性 | 一人で兼務、または外注先任せ | 各機能のエース級が担う |
| スピード | 本業との両立で停滞 | 短期集中で立上げ |
| 社内への定着 | 残らない、または依存が続く | 設計次第で社内に蓄積 |
第5章:経営者は経営判断に集中する
タスクフォースを組むときに、経営者には自信の役割の自覚が求められます。
ずばり、経営判断です。
経営者は、重要な打合せに必ず同席する。新規事業の方向性を決める場には、本人が参加する。これは譲れません。新規事業は不確実性が高く、進路の判断が事業の成否を分けます。判断は経営者の専権事項であり、外部人材に委ねるべきものではありません。
ただし、経営者がやってはいけないのが運用までの兼務です。日々の進捗管理、副業人材間の調整、資料の取りまとめ。ここに経営者の時間を取られると、肝心な経営判断に集中できなくなります。
私の支援現場でも、経営者が運用を抱え込んだ結果、判断に必要な材料が揃わず、決定が遅れて新規事業が失速した例は珍しくありません。経営者は判断する人。運用は別の人。この分担を最初に決めておくことです。
第6章:運用責任者を別に立てる
副業人材は本業優先で、稼働は限られます。日々の運用や調整を担うのは構造的に難しい。だから運用責任者は別に立てる必要があります。
選択肢は二つです。
一つは、社内のプロパー社員から運用責任者を任命する。新規事業の立上げを通して、社内人材を育てる効果もあります。
もう一つは、運用専任の副業人材を別に立てる。比較的稼働時間を確保できる人材を運用役として配置するやり方です。
私のおすすめは前者です。前回の記事でも書きましたが、企業文化の主役は正社員です。新規事業の運用も、最終的には社内に根づかせる必要があります。立上げの段階から正社員が運用に関わっていれば、立上げ後の引き継ぎがスムーズになります。ただ、これを出来る社員が育っていない場合は後者で進めます。その際、社員の育成もできるとよいでしょう。
運用責任者の仕事は、副業人材間の進捗を取りまとめ、経営者への報告を整理し、定例会議の運営を回すこと。タスクフォースで言うところの「事務局」に相当します。「プロジェクトマネージャー」と呼ぶこともあります。
第7章:失敗パターン
ここまで書いてきた設計を踏まえても、失敗する事例があります。よくあるパターンを挙げておきます。
①副業人材1名に多くの役割を期待する
「戦略もリサーチもマーケも全部見てほしい」という依頼は、稼働時間に収まりません。優秀な人材ほど期待されがちですが、結果として中途半端なアウトプットしか出ません。
②経営者が運用も兼務する
経営判断に集中すべき経営者の時間が運用業務で埋まり、肝心な決定が遅れます。
③運用責任者を立てない
副業人材同士の連携が取れず、情報がそれぞれの中に閉じ込められます。各自が個別に動いた結果、全体最適にならない。
④自社員のリソース投入を渋り、机上の空論で議論が進む
これが、私の支援現場で一番もったいないと感じる失敗です。
新規事業は仮説検証の連続です。机上で立てた仮説は、現場の実働で裏づけを取って初めて意味を持ちます。顧客へのヒアリング、既存顧客への試験的な打診、営業現場での反応収集、競合店舗の実地観察、サンプル品の試用テスト。こうした実働は、外部の副業人材には担えません。なぜか。自社の顧客接点を持つのも、自社の商品を熟知しているのも、正社員だからです。
ところが経営者の中には、「本業が忙しい」「現場を動かす余裕がない」と社員リソースの投入を渋る方がいます。結果、副業人材だけで議論が進み、会議室の中で美しい事業計画書ができあがる。いざ販売してみたら、顧客の反応がまるで違った。こういう例を何度も見てきました。
副業人材の役割は仮説の設計と、検証結果の解釈です。実働は社内が担う。この分業を腹落ちさせられない経営者は、外部人材を活かしきれません。
⑤立上げ後の引き継ぎ設計を怠る
新規事業が軌道に乗っても、運営できる正社員が育っていない。外部人材が抜けた途端に事業が止まる。これは設計の問題というより、最初から「立上げ後どうするか」を考えていなかった結果です。
第8章:立上げ後を見据えて設計する
前章の失敗④で触れた通り、立上げ段階で社員が手を動かしていることが、立上げ後の自走力につながります。
新規事業立上げは、外部人材で完結する話ではありません。立上げが成功した先には、社内で運営し続ける段階が必ず来ます。
だから立上げ段階から、正社員のうち誰が新規事業を引き継ぐかを織り込んでおく。立上げに関わる正社員は、外部人材から知恵を吸収しながら、自分自身が次のリーダーになる準備をする。これがタスクフォース型の設計の肝です。
副業人材の役割は、知恵を移植して去ること。立上げ後に副業人材がいなくなっても新規事業が回る状態を作って初めて、タスクフォースは成功と言えます。
企業文化の主役は正社員。新規事業も、最終的には正社員が誇りを持って運営する事業に育てていく。外部人材は、そのための触媒です。
まとめ
新規事業立上げは、中小企業にとって長らく難題でした。社内のスキルセットが揃わず、社長の個人技かコンサルへの丸投げかという二択に閉じ込められていた。
しかし副業人材市場の成長が、この構造を変えました。大企業が昔から使ってきたタスクフォースを、中小企業も持てる時代になっています。
機能ごとにエース級の副業人材を配置し、経営者は経営判断に集中し、運用責任者を別に立てる。実働は社員が担い、立上げ後を見据えて社内人材を育てる。この設計ができれば、外部人材を取り入れた新規事業立上げは、中小企業にとって現実的な打ち手になります。
成功に近道なし。共に頑張りましょう。
