市場の成長期こそ原則に立ち返る

目次

はじめに

副業マッチングサービスは乱立し、行政は後押しを強め、今や募集をかければ40名ほどが応募してくる。副業人材市場はかつてない過熱を見せています。

しかしこの追い風の陰で問題が起きています。副業人材を、事業会社・フリーランス・ボランティアといった他の外部プレイヤーと同じ感覚で採用してしまう企業が、後を絶たちません。結果、優秀な人材を迎え入れたにもかかわらず、中長期的な目で見ると経営が不安定になっている企業をよく目にします。

市場が成長期に入ったフェーズでは、原則が軽視されます。歴史を振り返れば、このフェーズで原則に忠実だった企業と、原則を見失った企業の差が、成熟期に入ってから取り返しのつかない形で表れるのは自明です。今回は、市場が過熱する今だからこそ尊守していただきたい原則を紹介します。


第1章:市場のライフサイクルと、成長期の落とし穴

市場には、導入期・成長期・成熟期・衰退期というサイクルがあります。黎明期には誰もが慎重に検討します。実績がないので、自分の頭で考えざるを得ない。ところが成長期に入ると、「みんなやっているから」という根拠のない雰囲気で、自分の頭で考えることが省略されていきます。

副業人材市場は、2018年の厚生労働省によるモデル就業規則改定、2020年のガイドライン整備を経て、導入期から成長期へ移行してきました。数字で確認しておきます。

総務省「就業構造基本調査」(2022年)によると、日本の副業・兼業人口は約305万人。厚生労働省の資料では副業を希望する就業者が368万人にのぼり、実際に副業を持っている人の数を大きく上回っています。つまり「やりたいのにできていない」潜在層が100万人以上存在する。一方、中小企業庁「2024年版中小企業白書」によると日本の企業数は約360万社ですが、副業人材を実際に活用している企業はパーソルキャリア「副業・フリーランス人材白書2025」によれば全体の29.2%にとどまります。

さらに、パーソルキャリア「HiPro Direct」のデータでは、2024年度において企業が出す1案件に対して平均6.4人の副業希望者が応募している。正社員採用では中小企業にまず起こらない倍率が、副業市場では当たり前になっています。

供給は潤沢、需要はまだ広がる余地がある、倍率は高い。経営者にとっては追い風そのものです。しかしこの追い風の中で、「とりあえず始めてみよう」が優勢になり、「誰に、何を、どう依頼するか」の設計が省略されていきます。


第2章:外部人材には4つの選択肢がある

そもそも外部の力を借りると一口に言っても、選択肢は一つではありません。事業会社、フリーランス、ボランティア、副業人材。この4者はインセンティブも、稼働構造も、価値の出し方もまるで違います。

事業会社(コンサルティングファーム・制作会社・代理店)

成果物の納品に強いパートナーです。チームで動くため対応力があり、品質管理の体制が整っていることも多い。ただし事業会社は、ビジネスモデルとして継続受注を必要とします。依頼企業が自立してしまうと、次の発注がなくなる。だから、知恵をすべて渡して「次からは自分たちでやってください」とは言いにくい、言えません。もしそんなことをすれば株主の利益分配要求に応えられなくなってしまいます。

フリーランス(専業の個人事業主)

特定の専門領域──デザイン、プログラミング、ライティング──において、技術力と即応性に強みを持ちます。しかし事業以外の収入源が限られるため、「自分がいないと回らない状態」を作る方向に力が働きやすい。稀に内製化を積極的に支援してくれるフリーランスもいますが、あくまで例外です。HP運営に必要なIDやパスワードを独占し、クライアントが触れないようにする話は枚挙に暇がありません。

ボランティア

共感をベースに善意で集まる存在です。熱意と経験を持つ方が参加することもあります。ただし契約関係があいまいで、品質管理と継続性に難がある。遠慮が入ると必要なフィードバックが滞ったり、難局ではフェードアウトするなど、失敗が許されない場面で頼るには心もとありません。

副業人材(本業を持つ現役人材)

大企業・成長企業で鍛えられた「型」を持ち、本業収入からくる経済と心の余裕から企業を囲い込む動機が薄い。知恵を社内に残して去ることを自分の成果と捉える人材が多い。稼働が限られるため、限られた時間の中で規律ある仕事設計が求められます。

項目事業会社フリーランスボランティア副業人材
強み成果物の品質と期限専門スキルの即応性共感・熱意・低コスト型と考え方の移転
構造的な弱み自立支援しにくい依存関係を作りやすい品質・継続性に難稼働が限られる
向いている場面完成物の納品スポットの専門作業きっかけづくり機能の社内立ち上げ
知恵が社内に残るか残りにくい残りにくい偶発的残しやすい

どれが優れているかは依頼する側の文脈に大きく左右されます。


第3章:混同が生む悲劇

支援の現場で見てきた失敗の多くが、副業人材を他のタイプの外部人材と混同したことから起きています。

副業人材に「事業会社的な期待」をかける失敗。
完成された成果物の納品だけを求め、考え方の移転には関心を示さない。副業人材は求められたものを納品しますが、そこに宿っていた判断基準や設計意図は社内に残りません。数ヶ月後、同じ問題が再発したとき、社内の誰も自力で対応できない。

副業人材に「フリーランス的な期待」をかける失敗。
即レス、毎日対応、何でも対応。本業優先で稼働が限定的な副業人材にとって、これはそもそも不可能な要求です。経営者は「反応が遅い」と苛立ち、副業人材は「期待された働き方ができない」と消耗する。どちらも悪意がないのに、双方が疲弊する構造です。

副業人材に「ボランティア的な期待」をかける失敗。
善意や好意を前提に、報酬や成果の定義を曖昧にする。関係性が惰性で続き、成果も曖昧なまま終わる。副業人材の側も、何をもって貢献と評価されるのか分からないまま時間だけが過ぎていきます。

これらは、副業人材の能力の問題ではありません。副業人材という新しい概念を、旧来のどれかの型にあてはめて理解しようとする経営者側の認知の問題です。


第4章:歴史が教える「成長期の原則」

成長期に原則を貫いた企業と、原則を手放した業界。二つを見てみます。

ニトリ──原則を貫いた成長

1980年代から2000年代にかけて、日本の家具・インテリア市場は本格的な成長期を迎えました。郊外型店舗の拡大、量販店の台頭、輸入家具の流入。市場が膨らむ中で、多くの事業者が短期的な流行や価格競争に走りました。

ニトリはこの流れに乗りませんでした。彼らが貫いたのは「製造物流IT小売業」、いわゆるSPAという原則です。企画・製造・物流・販売をすべて自社で手がけることで、品質とコストを両立させる。この仕組みを作り込むには、膨大な時間と投資が必要でした。成長期の追い風を使って「とりあえず店を増やす」「流行のデザインを追う」という選択肢もあったはずですが、ニトリは原則から外れなかった。

結果はどうなったか。国内の家具市場が成熟し、需要が頭打ちになった現在も、ニトリは成長を続けています。成長期に築いた仕組みが、成熟期の競争力そのものになった。原則を貫いたことが、後になって効いてきた典型例です。

労働者派遣業──原則を手放した成長

一方、労働者派遣市場は逆の道をたどりました。1986年の労働者派遣法施行、そして2000年代の規制緩和を経て、派遣市場は急成長期に入りました。

本来、派遣事業の原則は「派遣社員のキャリア形成と適切なマッチング」にありました。派遣会社は派遣社員を教育し、派遣先との相性を見極め、長期的なキャリアを支援する役割を担うはずでした。

しかし急成長期に、多くの事業者がこの原則を軽視しました。教育投資やキャリア支援に時間をかけるより、「人を右から左へ流す」ほうが目先の収益につながる。成長期の追い風の中で、この選択をした事業者が市場を拡大させていきました。

その結果は、後になって表面化しました。派遣社員の処遇問題が社会問題化し、業界全体への不信感が広がり、2015年の派遣法改正をはじめとする規制強化を招きました。成長期の追い風に浮かされて原則を軽視した業界が、成熟期に入って構造的な逆風を受けることになったのです。

副業人材市場は、どちらの道を歩むのか

私の支援現場で見てきた限り、副業人材を「知の伝道者」として位置づけ、原則に忠実に活用している企業は、1〜2年もあれば社内に型が蓄積し、自走できる機能が育っています。一方、副業人材を「安い外注先」として扱った企業は、毎回ゼロから同じ問題に直面し続けています。

今はまだ市場が成長期のため、この差は顕在化しにくい。しかし数年後、市場が成熟期に入ったとき、原則を押さえた企業と手放した企業の差は、取り返しのつかない規模になるはずです。


第5章:企業文化という、もう一つの原則

外部人材の使い分けという原則と並んで、もう一つ押さえておくべき原則があります。企業文化の主役は、あくまで正社員であるということです。

マッキンゼーは、企業文化を業績を左右する最重要要素の一つに位置づけています。戦略がどれだけ優れていても、それを実行する文化が伴わなければ意味がない。文化は、事業の成否を決める土台です。

そして企業文化は、日々の業務の中で正社員が積み上げていくものです。朝礼での一言、会議での発言、トラブルが起きたときの判断、後輩への指導。こうした無数の振る舞いが積み重なって、その会社ならではの文化が形作られていきます。

外部人材は、どれだけ優秀であっても、この文化醸成の主役にはなれません。本業を別に持ち、週数時間の稼働で関わる人間が、その会社の文化を主導するのは不可能です。

むしろ外部人材の乱用は、企業文化の破壊リスクを伴います。外部に頼りすぎれば、正社員が自分たちで考え判断する機会が減っていく。外部の声が大きくなるほど、内部の声は小さくなる。気づいたときには、「うちの会社の方針」を自分たちの言葉で語れない組織になっています。

私自身、副業人材として現場に入るときに常に意識しているのは、「自分は主役ではない」ということです。経営者と正社員が主役であり、私は一時的に脇から型を持ち込む存在にすぎません。

以前、複数の副業人材を同時に迎え入れ、社内の意思決定の大半を外部人材が主導している企業を見たことがあります。運営としては高度に見えました。しかし数年後に再び接点を持ったとき、その会社は「自社の方針を自分たちで語れない組織」になっていました。経営の匙加減を誤り、文化が維持・発展するための環境づくりを度外視してしまった成れの果てです。

外部人材を使う原則は、「正社員の文化醸成を助けるために使う」という従属的な位置づけに尽きます。主役を譲ってはいけない。踏み外すとどれだけ優秀な外部人材を揃えても、会社は長期的に弱くなっていきます。


第6章:原則に立ち返るための3つの問い

外部人材を迎え入れる前に、3つの問いに答えてみてください。

①今回の目的は、成果物の納品か、機能の社内立ち上げか

成果物の納品なら、事業会社やフリーランスが適しています。機能の立ち上げと知恵の定着なら、副業人材が適しています。ただしどちらの場合も、主役は正社員であるという前提を忘れない。外部人材は、あくまで正社員の仕事を助ける存在です。

②相手の背景を理解しているか

副業人材は本業優先で、稼働は週数時間から十数時間程度です。この前提で仕事を設計しているか。ルーティン遂行者として期待していないか。稼働の構造を誤ると、どれだけ優秀な人材でも力を発揮できません。

③何をもって成功とするかを事前に合意しているか

ゴールを曖昧なまま走らせると、優秀な人材を迎えても成果は曖昧に終わります。期間、アウトプット、評価基準。最初に言葉にして合意する習慣が、プロジェクトの成功確率を大きく左右します。


まとめ

副業人材市場は成長期に入りました。しかし熱に浮かされたまま、副業人材を他の外部人材と一緒くたに扱ってしまうと、せっかくの追い風を活かしきれません。

ニトリが原則を貫いたように、成長期の規律が成熟期の競争力を作ります。派遣業界のように原則を手放せば、成長期の追い風は成熟期の逆風に変わります。経営資源に乏しい中小企業が、外部依存したまま市場の淘汰フェーズを迎えるとどうなるか、結果は明らかです。

そしてもう一つの原則を忘れないでください。企業文化の主役は正社員です。外部人材はその文化を助ける存在であり、主役を担うことはできません。

成長期こそ、原則に立ち返ってください。使い分けのリテラシーを持ち、文化の主役を見失わない経営者が、市場の本当の恩恵を手にできます。

成功に近道なし。共に頑張りましょう。

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この記事を書いた人

副業人材活用の専門家。副業人材活用ラボ編集長。
会社員・副業人・経営者の3つの草鞋で活動中。
富士通・アマゾンジャパン出身。
トトノエルジャパン合同会社 代表。

大企業に勤めながら副業として200社超の経営支援を実施。
経営者が副業プロ人材を活用して経営課題を解決するための実践ノウハウを発信中。

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