AI時代の副業人材

「AIで作れるなら、もっと安くなるはずだ」

ホームページや営業資料の制作費を見て、そう感じる経営者はいるでしょう。文章を書く、画像を用意する、コードを組む。かつて相応の時間がかかった作業を、AIは短時間で進めます。

この変化は、副業人材に何を頼めるかにも影響しています。本業の合間では制作まで引き受けにくかった仕事にも、手が届くようになりました。

ただし、同じAIを使っても、出来は同じになりません。出てきたものを見て、何を直し、どこまで仕上げるか。その判断に、使う人の経験が表れるからです。

中小企業にとっては、頼める仕事が増えると同時に、依頼先を選ぶ基準を見直す機会でもあります。

目次

60万円のホームページをどう見るか

2026年9月、医師会のホームページ制作について、初期費用60万円、管理維持費は月額2万5千円という金額を挙げた投稿がXに出ました。投稿者は、Claudeに任せれば短時間で作れる程度のホームページだとして、価格に疑問を呈しています。X

AIでページがすぐにできる様子を見たことがあれば、この疑問は理解できます。これまで制作会社に任せていた仕事を、自分でもできそうだと感じるからです。

一方、画面ができたところで、ホームページの仕事は終わりません。掲載内容を確かめ、問い合わせが届くかを試し、公開後も必要な情報を更新します。障害が起きれば、原因を調べて復旧する人も必要です。

会員向けの機能があるなら、誰がどの情報を見られるかも設計しなければなりません。ただし、今回のサイトにどの機能が含まれるかは、投稿からは分かりません。金額だけで高いとも安いとも判断できない理由です。

この投稿は、制作費について考える良いきっかけです。AIで作業が速くなる時代、依頼する側は何にお金を払うのでしょうか。

制作費を三つに分けて考える

ホームページの制作費は、「作業」「水準・判断」「運用・責任」に分けると理解しやすくなります。

費用を考える視点含まれる仕事の例AIを使っても確かめたいこと
作業原稿の下書き、画像の加工、コードの作成、ページへの反映どの工程を効率化でき、どれだけの作業が残るか
水準・判断掲載内容の選定、事実確認、使いやすさの評価、公開可否の判断誰が、何を基準に出来を確かめるか
運用・責任情報の更新、障害対応、情報管理、担当交代時の引き継ぎ公開後に誰が、どこまで対応するか

これは、見積書を読み解くための整理です。実際の仕事では、三つが重なります。構成を考える作業にも判断は含まれ、更新作業にも内容の確認が伴います。

AIによる時間短縮を見込みやすいのは、下書きやコード作成などの作業です。ただし、浮いた時間のすべてが、そのまま値下げにつながるとは限りません。出力を検証したり、複数の案を比較したりする時間に充てる場合もあるからです。

依頼する側が聞きたいのは、「AIを使えばいくら安くなるか」に加えて、「何をどこまで仕上げ、その後は何を担ってくれるか」です。

文章を数ページ掲載するサイトと、会員情報を扱い、継続的な保守まで任せるサイトでは、買っている仕事が違います。初期費用と月額費用のそれぞれについて、含まれる仕事を確かめてください。

本業の合間に、完成まで持っていける

副業人材の活用を考えるとき、これまでは稼働時間が大きな制約でした。

週に数時間の打ち合わせや作業であれば、方針を考え、構成を作り、制作会社に指示を出すところまでは頼めます。しかし、本人が文章を書き、画面を作り、修正を重ねるとなると、時間が足りない。そこで、制作は別の会社に発注する分担が選ばれてきました。

AIは、この分担を変えつつあります。

構成を考えた本人が、AIで原稿や画面の初稿を作る。その場で確認して修正し、完成まで進める。こうした進め方ができれば、制作を他者に引き継ぐための説明や、修正意図の伝達も減らせます。

筆者自身も、AIを使って自らの事務所サイトの制作や修正を進めています。何を伝えたいかを考え、それを画面に反映し、見ながら直す。この往復を自分で進められることに、使い勝手の大きな変化を感じます。

副業人材への依頼でも、次のような仕事は見直す余地があります。

制作物AIを使う副業人材に相談できる範囲の例別途、担当と時間を確保したい仕事
ホームページ・採用サイト構成、原稿、画面の制作から公開まで公開後の更新、問い合わせ対応、保守
営業資料・提案書論点整理から、商談で使える資料の作成まで顧客別の調整、営業現場での改善
短い紹介動画企画、台本、提供素材の編集まで現地での撮影、継続的な投稿
業務の自動化・簡易ツール要件整理、試作、動作確認まで安定運用、業務変更への対応
データの集計・可視化指標の設計から、集計処理や画面の作成まで元データの整備、入力、日々の確認

どこまで任せられるかは、本人の専門性と制作物の規模によります。以前から制作まで担っていた副業人材もいます。変わったのは、限られた稼働時間でも完成まで引き受けられる仕事が増えたことです。

本ラボでは、設計や判断、型づくりに副業人材を活かす考え方を「上流原則」と呼んでいます。AIを使えば、その人が設計から制作まで続けて担える場面が増えます。何を作るかを判断する力の使い道が、完成品にまで広がったと捉えられます。fukukatsu-lab.com

出来を左右する「当たり前水準」

採用サイトを作る場面を考えてみてください。

AIに依頼すると、見栄えのよい画面と、それらしい会社紹介文が出てきます。そこで完成とする人もいれば、まだ公開できないと考える人もいます。

後者は、仕事内容が抽象的なことに気づき、現場の写真や社員の説明を足します。「働きやすい職場」という文章を見て、何を根拠にそう言えるのかを確かめます。スマートフォンで開き、募集要項や応募先へ迷わず進めるかも試します。

こうした修正には、「ここまでは確かめてから出す」という基準が働いています。

本稿では、その人が「これで出せる」と判断する成果物の最低ラインを、「当たり前水準」と呼びます。本人にとっては当然なので、普段は意識していないこともあります。

AIの初稿は、完成品らしく見えることがあります。だからこそ、見た目が整っているだけで仕事を終えず、目的を果たすかまで確かめる人が必要です。

もちろん、出来には専門知識や素材の質、AIへの指示も影響します。そのうえで、最後に何を採用し、どこを直すかを決める基準は欠かせません。「AIを使えます」という自己紹介だけでは、任せた仕事の出来を判断できないのです。

本業で求められてきた水準が表れる

当たり前水準は、日々の仕事を通じて鍛えられます。

どんな相手に成果物を出してきたか。どこを指摘され、何を直してきたか。そうした経験が積み重なり、自分で確認する項目になっていきます。

筆者は、大企業でのマーケティングや経営支援業務と、累計200社超の企業支援を経験してきました。その立場から、副業人材を選ぶ際には、職務名に加えて、その人が日常的に求められてきた仕事の水準を見たいと考えています。

大企業の仕事で細部に手間をかける理由の一つは、成果物が届く範囲の広さです。多くの顧客が見る販売ページなら、小さな改善でも、全体では大きな売上差につながり得ます。多数の社員が読む説明資料なら、一つの曖昧な表現が、多くの問い合わせを生むこともあります。

影響が広く及ぶ仕事には、細部を確かめるための時間をかける合理性があります。その環境で修正や検証を重ねた人は、確認の習慣を身につけやすいでしょう。

ただし、企業規模だけで品質は決まりません。中小企業でも、一件の大口商談に使う提案書や、製品の安全に関わる説明には厳しい水準が必要です。見るべきなのは、その人が担当した仕事と、そこで負っていた役割です。

もう一つ確かめたいのが、学び続ける習慣です。

AIの活用では、新しい道具を試し、自分の仕事に使えるかを判断する必要があります。出力が期待に届かなければ、材料や指示を変えて試し直す。こうした学習を続ける人は、使える仕事の範囲を広げていけます。

帝国データバンクが2026年3月に行った調査では、有効回答1万312社のうち、生成AIを業務で活用している企業は34.5%でした。同調査の規模区分では、大企業46.5%、中小企業32.4%で、活用に関する課題として「専門人材・ノウハウ不足」を挙げた企業は41.3%でした。企業の活用率を示す調査であり、個人の能力を測ったものではありません。tdb.co.jp

勤務先でAIに触れる機会があっても、本人が使いこなしているとは限りません。反対に、会社で導入していなくても、自分で学び、制作を重ねている人はいます。

本業で培った品質判断の基準と、新しい道具を身につける習慣。この二つを持つ人にとって、AIは、限られた時間で仕事を仕上げる助けになります。中小企業は、その力を副業という形で借りられます。

面接では、実物と修正の理由を聞く

副業人材に制作まで任せるなら、過去の肩書きとあわせて、本人が作ったものを見てください。公開できる実績や、機密情報を含まない自主制作物で構いません。

完成品を見るだけでなく、どこを本人が担当し、AIの出力をどう直したかまで聞くと、判断の中身が分かります。

確かめること質問の例見たい点
制作する力「最近、AIを使って何を作りましたか。実物を見せてください」任せたい仕事に近いものを、本人が完成させているか
当たり前水準「初稿のどこを直しましたか。なぜですか」問題を見つけ、修正の理由を説明できるか
本業での経験「誰に、どんな成果物を出し、何を確認してきましたか」品質を確かめる経験を、自分で積んでいるか
自社への合わせ方「この予算と人数なら、何を優先しますか」必要な水準と、かけられる手間を両立できるか

副業人材を募集すると、本業で専門的な仕事を担う人が候補に入ることがあります。経営者にとっては、普段なら接点の少ない経験者を選べる機会です。その機会を活かすには、社名や役職から一歩進んで、本人が何をできるかを確かめる必要があります。

大企業での成果には、予算、同僚、専門部署、外注先などの力も含まれます。品質を見る目があっても、少人数で制作を進める経験は乏しいかもしれません。本ラボの「大企業人材の罠」でも、本人の能力と会社側の資源を分けて見ることを重視しています。fukukatsu-lab.com

必要以上に作り込む人にも注意が要ります。経営者が求めるのは、自社の目的に役立つ成果物です。何を優先し、どこで完成とするかを、一緒に決められる人を選んでください。

制作物と一緒に、判断の基準を社内へ残す

制作まで任せられるなら、社員にもその過程に加わってもらうことを勧めます。特に、採用広報や営業資料など、今後も社内で作り直す仕事では効果が期待できます。

副業人材がAIで初稿を作り、修正する。その際に、どこを直したか、なぜ直したかを説明してもらいます。

たとえば採用ページなら、「この表現では一日の仕事が分からない」「この写真では職場の様子が伝わらない」といった判断です。社員が学びたいのは、次のページでも使える確認の仕方です。

最初は副業人材の実演を見る。次は社員も一緒に作る。慣れたら社員が主体となり、副業人材は確認と助言に回る。最後に、社員が自分で作り、確かめ、更新できる状態を目指します。これは、本ラボが提案する能力移転型の「実演・並走・監修・自走」に沿った進め方です。fukukatsu-lab.com

並走中に繰り返し指摘された点は、短いチェックリストに残しておくとよいでしょう。応募先が分かるか、数字の根拠を確認したか、スマートフォンで読めるか。自社の仕事に即した項目を増やしていきます。

ただ隣で見ているだけでは、習得したかは分かりません。別の原稿やページを社員自身に作ってもらい、同じ観点で確認できるかを確かめます。

この役割を担う社員がいなければ、完成品は残っても、判断の基準は社内に残りにくくなります。依頼するときに、「誰が、次からこの仕事をするか」まで決めておく必要があります。

短時間で作れても、いつでも対応できるわけではない

AIで制作時間が縮んでも、副業人材が本業を持つことは変わりません。日中の問い合わせ対応や、障害発生時の即応まで、自動的に頼めるようになるわけではありません。

更新や保守を副業人材に任せる場合も、対応できる曜日や時間、緊急時の連絡先を確かめてください。必要に応じて、社内担当者や保守を担う事業者と分担します。

また、動く試作品ができたことと、業務で安定して使えることには距離があります。重要な情報を扱うサイトやツールでは、詳しい人による検証や、継続的な保守が必要になる場合があります。

短時間でできる仕事が増えたからこそ、完成後の仕事も具体的に決めておきたいところです。

まずは、現在外注している制作物を一つ選んでみてください。それをAIに習熟した副業人材が仕上げられるか。社員が一緒に取り組めば、次回から社内で担える部分はあるか。その二つを相談すれば、価格比較だけでは見えなかった選択肢が出てきます。

AIによって、副業人材に頼める仕事は広がりました。依頼先を選ぶ際は、完成品と、その出来を支える判断の中身を確かめてください。継続して必要になる仕事なら、社員を並走させ、作り方と品質判断の基準を社内に残すことまで依頼できます。

成功に近道なし。共に頑張りましょう。


よくある質問

AIがあれば、副業人材も要らなくなりませんか。

社内で必要なものを作り、品質を判断し、運用までできるなら、その仕事を外部に頼む必要はありません。経験が足りない部分がある場合は、副業人材に制作と確認を担ってもらい、社員が学ぶ方法があります。AIによって、支援を受けながら自社でできる仕事を増やす選択肢も広がっています。

ホームページや採用サイトの制作を、副業人材に頼めますか。

制作経験があり、必要な機能を扱える人であれば、依頼できます。AIを使えることだけで判断せず、制作実績と担当範囲を確認してください。公開までの作業に加え、公開後の更新や保守を誰が担うかも決めておきます。

60万円のホームページの見積もりは高いのですか。

金額だけでは判断できません。ページ数、機能、原稿や写真の準備、確認作業、公開後の対応によって必要な仕事が変わります。「作業/水準・判断/運用・責任」の三つから、見積もりに含まれる範囲を確かめてください。

大企業出身の人を選べば、品質は安心ですか。

出身企業だけでは判断できません。本人がどんな成果物を作り、どこまで確認していたかを見る必要があります。中小企業や独立後の仕事で、高い水準を身につけた人もいます。自社の予算と人員に合わせて仕事を進められるかも確かめてください。

社員にAIの操作を覚えてもらうだけでは不十分ですか。

成果物を仕事で使うには、操作に加えて、内容や動作を確かめる力が必要です。副業人材に修正の理由を説明してもらい、社員自身が別の成果物でも同じ確認をできるようにすることを勧めます。

AIで作ったサイトの運用は、誰に任せればよいですか。

必要な対応時間と専門性を踏まえ、社内担当者、副業人材、保守事業者などから決めます。AIで制作しても、更新や障害対応、情報管理の担当は必要です。発注時に、対応範囲、連絡方法、引き継ぎの方法を確認してください。

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この記事を書いた人

砂川 大輔(すながわ だいすけ)
副業人材活用の専門家/副業人材活用ラボ®編集長/トトノエルジャパン合同会社 代表

専門領域:副業・兼業人材の企業活用、外部人材から組織への能力移転、中小企業の人的資本形成

早稲田大学先進理工学部卒業、同大学院先進理工学研究科修了。アマゾンジャパン合同会社でマーケティングに従事し、ハードライン事業本部最優秀マーケティング表彰を受賞。富士通株式会社CEO室では、企業ビジョンの刷新や経営戦略の策定など、経営の意思決定支援に携わった。

大企業での実務と並行して、副業人材として200社を超える中小企業を支援。戦略、人事、営業、マーケティングなど幅広い経営課題に携わる中で、外部人材に業務を代行してもらうだけでなく、その知識・技術・判断基準を企業内部へ移し、最終的な自走につなげる「能力移転型」の副業人材活用モデルを提唱している。現在は、副業・兼業人材を「採用する」こと以上に、企業がその能力をいかに受け取り、組織能力として蓄積するかを主要な研究・実践テーマとしている。

副業人材活用に関する実践事例は、内閣府『プロフェッショナル人材活用ガイドブック』に計3事例掲載(2024年2事例、2026年1事例)。厚生労働省広報誌『厚生労働』、野村證券『野村週報』などにも取り上げられた。株式会社みらいワークス「プロフェッショナルアワード2023」個人賞を受賞。高知県、和歌山県をはじめとする自治体・公的機関のセミナーや、大学経営学部での登壇実績を持つ。2026年には東京国際フォーラムで副業人材活用フォーラム2026Autumnを開催。

2024年、副業人材活用に特化した専門メディア『副業人材活用ラボ®』を開設し、編集長に就任。2026年には『経営者のための副業人材活用・適正運用ガイドライン』を公開し、著書『副業人材活用の戦略―参画企業200社超の専門家が実践から見出した企業経営者の思考と技術』(整流出版)を刊行。副業人材活用に関する研究発表・論文執筆にも取り組む。人材育成学会員。

研究・実践上の関心領域は、副業・兼業人材活用、外部専門人材の能力移転、中小企業の人的資本形成、企業の内製化・自走化、地域企業における外部人材活用。

掲げるビジョンは「よいものが正当に評価される社会をつくる」。

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