副業人材の活用がうまくいかない主要因は、副業人材に対する解像度の粗さにあります。
*人材育成学会 第24回人材育成学会年次大会(2026年12月13日(日)、文教大学越谷キャンパス)で発表させていただきます。
副業人材=大企業で経験を積んだ専門家 という認識は一面にすぎません。
副業人材は、すでに完成された専門性を企業へ持ち込むだけの存在ではありません。異なる企業の課題に直面し、試行錯誤を重ねる過程で、新しい能力を身につけ、自分自身の価値観さえ変えていくことがあります。
私は、大企業に勤務する傍ら副業人材としての活動を始め、累計200社を超える企業の支援に携る幸運に恵まれました。振り返ると、変わっていったのは支援先の企業だけではありません。私自身もまた、仕事に求めるもの、他者との向き合い方、自分の能力に対する認識の変化がありました。
参考になるのが、「越境学習」という研究です。
本稿では、石山恒貴氏・伊達洋駆氏の著書『越境学習入門』などで整理された成長プロセスに、私自身の副業経験を重ねます。そして、副業人材の内面を理解することが、なぜ企業にとって実利につながるのかを考えます。

1. 「越境学習」とは
越境学習とは、自分が普段所属する組織や集団の境界を越え、異なる環境で活動することを通じて生じる学びを指します。
石山恒貴氏・伊達洋駆氏の『越境学習入門』(日本能率協会マネジメントセンター、2022年)は、慣れ親しんだ環境を「ホーム」、異なる環境を「アウェイ」と捉え、その間を行き来することによる学習を体系的に説明しています。
特徴的なのは、新しい知識を身につけることだけでなく、自分の常識が通用しない経験や葛藤が、成長の契機になるという点です。
越境学習の研究を踏まえて作成された経済産業省関連事業の「越境体験ルーブリック」では、越境による学びのプロセスが概ね次の六つの段階に整理されています。
- 準備: 社外で活動する目的や自分の働き方を見つめ直す
- 衝撃: 異なる環境で従来の考え方や能力が通用せず、試行錯誤する
- 理解: 越境先を理解し、所属組織との違いを俯瞰できるようになる
- 貢献: 新しい環境に適応し、自分なりの成果を出せるようになる
- 再適応: 所属組織に戻り、新たに得た視点と従来の環境の間で葛藤する
- 働きかけ: 新しい考え方を周囲に伝え、少しずつ変化を生み出す
2. 準備――副業きっかけは危機感
越境学習の最初の段階では、所属組織の外に出る目的や、自分が何のために働くのかを問い直すことが重要になります。
私が副業へ踏み出したきっかけは危機感でした。
学生時代、私は大学院で生物の研究に取り組んでいました。しかし、世界で初めての発見を競う研究の厳しさに挫け、研究者としての道を断念しました。
逃げるようにアマゾンジャパン合同会社に入社し、マーケティング業務に従事しました。そこで目にしたのは、IT技術によって、これまで人間が担っていた判断が次々と高度化・自動化されていく光景でした。
組織で仕事を任され、評価を得ることができても、その能力は本当に他の場所でも通用するのだろうか。
ITシステムで代替される程度のものではないか。
そんな問題意識から、知人の事業を無償で手伝うところから、外での活動を始めました。
AIが世間に浸透する以前のことです。
後に富士通株式会社へ転職し、経営戦略などの業務に携わりながら、中小企業への副業支援を本格化させます。
振り返ると、根底にあったのは、組織に所属する自分とは別に、一人の人間としてどこまで価値を提供できるのかを確かめたいという思いでした(若かったですね)。
企業への示唆:副業人材の動機は、報酬だけとは限らない
受け入れ企業は、候補者の職歴や保有スキルだけでなく、なぜ自社の仕事に関心を持ったのかを聞いてみる価値があります。
「自社の事業に関心がある」「別の業界で経験を積みたい」「経営者と直接仕事をしてみたい」。相手の行動原理を知れば経営がはかどります。
もちろん、成長機会が報酬の代わりになるわけではありません。適切な対価を前提に、本人の関心と企業の課題を一致させることが重要です。
3. 衝撃――大企業で培った能力が、そのまま通用するとは限らない
越境学習では、アウェイに入ったとき、自分がこれまで当然だと思っていた仕事の進め方や判断基準が通用せず、葛藤が生じることがあります。
私も中小企業の支援を始める中で、大企業の当たり前が、そのまま成果につながるわけではないことを学びました。
大企業には、専門部署、情報システム、管理体制などが整っています。一方、中小企業では、経営者自身が営業、採用、資金繰り、現場管理まで担っていることも珍しくありません。
例えば、マーケティングの施策を提案しても、それを実行する人がいない。営業戦略を立てても、新しい顧客に対応する生産能力が不足している。
専門的に正しい提案であっても、相手の経営資源や業務の制約を理解していなければ、成果には結びつきません。要はリソースがないのです。
この経験は、私にとって自分の能力を捉え直す契機になりました。
重要なのは、相手の置かれた環境で、知識を実利に繋げる力。特に翻訳の力でした。
企業への示唆:専門性だけで判断しない
副業人材が受け入れ先のやり方に戸惑うことは、必ずしも能力不足を意味しません。
むしろ、異なる環境を理解しようとする過程で、本人の持つ専門性がより自社に恩恵をもたらしてくれる、実践的なものへ昇華する可能性があります。
企業側には、自社の制約条件を丁寧に伝えること、必要な情報を開示すること、社内の担当者との対話機会を設けることが求められます。
4. 理解――専門性は越境で広がる・深まる
越境先での葛藤を経て、相手の事情を理解できるようになると視座が変わっていきます。
私の場合、当初はデジタルマーケティングを中心に中小企業を支援していました。
ところが、マーケティングが成功し受注が増えると、今度は生産能力が足りなくなる。生産現場の負荷が高まれば、人材の採用や定着が課題になる。組織が大きくなれば、業務の標準化や管理体制の整備が必要になる。
中小企業のボトルネックは、大企業を遥かに凌ぐスピードで入れかわります。
すると、面白いことが起きます。
具体的には、専門外のことも任せてもらえるのです。
中小企業は採用力に乏しいです。課題が変わったからといって、すぐには専門家を雇えません。
となると今いる人に白羽の矢が立ちます。お話の中で「やってもらえないだろうか」とご相談いただけるのです。
顧客の新たな課題に応えようとするうちに、私の支援領域は営業、人事、経営戦略、業務改善などへ広がっていきました。
得られたのは、個別の問題を、経営全体のつながりの中で考える俯瞰の視点でした。
自分の専門分野を起点に考えるのではなく、相手の事業にとって何が最も重要なのかを起点に考える。その変化は、仕事の進め方そのものを変えていきました。
企業への示唆:副業人材の職務経歴書は、現在の能力を完全に表しているとは限らない
複数の現場を経験する副業人材は、本業の職種名だけでは捉えきれない能力を身につけている場合があります。
例えば、マーケティング担当者が採用や組織づくりに詳しいこともあれば、エンジニアが経営者の意思決定を支援できることもあります。
受け入れ企業は、本業の肩書だけで判断するのではなく、これまでどのような課題を解決し、何の役割を担ったのかを確認することが大切です。
5. 貢献――「自分ができること」から「相手のためにできること」へ
越境先の環境を理解し、試行錯誤を重ねるうちに、自分なりの貢献ができるようになる。
越境学習では、この段階で本人の行動や周囲との関係に変化が現れることがあります。
私自身の変化を最もよく表しているのは、支援を続ける中での感情の変遷です。
みらいワークス総合研究所のインタビューで、感情の変化を教えてほしいと問われ、こう答えました。
危機感 → 無力感 → 反骨心 → 喜び → 共感 → 使命感
初めは、自分の能力が通用しなくなることへの危機感がありました。
実際に支援を始めてみると、思うように役立てない自分の無力さを知ります。それでも何とかしたいと試行錯誤を続け、成果につながると喜びを感じるようになりました。
そして、支援先の経営者や社員の方々と関わりを深めるほど、彼らが抱える課題や思いを、自分のこととして考えるようになっていきました。
これは、単なるスキルアップとは異なる変化です。
当初は自分の能力を高めるために始めた活動が、いつしか他者への貢献を中心にしたものへと変わっていたのです。
企業への示唆:副業人材の意欲は、仕事を通じて変化し得る
受け入れ企業は、契約開始時に確認したスキルや動機が、その後も変わらないとは考えない方がよいでしょう。
信頼関係が深まることで、新たな提案や貢献意欲が生まれることがあります。
一方で、本人の意欲が高まったからといって、契約外の業務を無制限に依頼してよいわけではありません。
定期的に対話を行い、役割、報酬、稼働時間を見直しながら、双方の利益が一致する関係を築くことが重要です。
6. 再適応――副業で成長すると、本業の見え方も変わる
『越境学習入門』で特に興味深いのが、アウェイでの経験を経てホームに戻ったときにも、葛藤が生じるという指摘です。
新しい環境で別の考え方を身につけると、以前は当たり前だと思っていた所属組織のやり方に、違った見方が生まれます。
副業では、本業と副業の二つの環境を並行して行き来します。そのため、一度だけ外に出て戻る研修とは異なり、双方の環境を繰り返し比較する機会があります。
私も正社員として勤務していた当時、副業で得られた知見を本業に持ち帰ることを意識していました。
ただし、社外で学んだやり方が、本業の組織でもそのまま正しいとは限りません。
大企業には、長年にわたって積み上げられた制度や業務の歴史があります。社外の経験をもとに改善を提案するのであれば、まず本業の組織がなぜ現在の方法を採用しているのかを理解し、尊重する必要があります。
この姿勢は、中小企業を支援するときにも同じです。
相手の事情を理解せず提案しても、よい結果にはつながりません。
企業への示唆:副業人材の提案には、異なる組織を比較して得た知見が含まれている
副業人材は、自社の内部だけでは気づきにくい問題を指摘できる場合があります。
ただし、それを取り入れるかどうかは受け入れ企業の判断です。
「他社ではこうしている」という提案を無条件に採用するのでも、外部からの意見として退けるのでもなく、自社の歴史や制約条件に照らして検討する。
この姿勢が、外部人材の知見を経営成果へとつなげます。
そして、ここで一つ、従来の越境学習の枠組みに加えて考えたいことがあります。
副業で得た学びが還流する先は、必ずしも本業の会社だけではないということです。
7. 働きかけ――副業先から、別の副業先へ。学びは企業の境界を越えて循環する
越境学習では、異なる環境で得た知識や視点を所属組織へ持ち帰り、周囲に働きかけることが重視されます。
私自身も、副業先で得た経験を本業に生かしてきました。
しかし、副業人材として200社を超える企業に関わってきた経験から、私はもう一つの重要な学びの経路があると考えています。
それは、副業先で得た経験が、別の副業先での課題解決に生かされることです。
本業は一つでも、副業先は複数ある
通常、本業として勤務する会社は一つです。
一方、副業先については、一人の人材が複数の企業と関わることができます。同時期に複数社を支援することもあれば、一つの契約を終えた後、別の企業の支援に移ることもあります。
このとき、経験や学びは「副業先から本業へ」という一方向に限られません。
A社で得た知見がB社で役立ち、B社で学んだことがC社で役立つ。場合によっては、C社での経験からA社に対する理解が深まることもあります。
副業先が増えるほど、知見を応用できる組合せも増えていきます。
ここでは、複数の副業先の間で知識や経験が生かされる現象を「副業先間の知見循環」と捉えたいと思います。
200社の支援経験から見えてきたこと
私は当初、デジタルマーケティングを中心に中小企業を支援していました。
しかし、ある企業のマーケティング上の課題を解決しようとすると、営業体制に問題が見つかる。別の企業では、売上を増やす以前に、採用や人材育成が課題になっている。
こうした経験を重ねる中で、個別の施策だけではなく、経営課題同士のつながりを捉えるようになりました。
また、ある企業でうまくいかなかった方法が、別の企業ではうまくいくことがあります。
同じ施策でも、経営者の意思決定、社員の能力、組織の規模、競合との関係によって結果が変わるからです。
私が別稿で「受け手決定の法則」と呼んでいるのは、こうした企業側の条件が、副業人材活用の成果を左右するという考え方です。
複数の企業で経験を積むことによって、単に成功事例を増やすだけではなく、ある施策がどのような条件で成功し、どのような条件では機能しないのかを、比較しながら学ぶ機会が得られます。同時に知見を得られるので、時間変数を固定できる利点があります。
これは、一つの組織の中で仕事を続けているだけでは得にくい経験です。
そして、その学びを次の支援先で生かせることが、副業人材の提供価値の一つになり得ると考えています。
経験を積むほど、仕事への向き合い方も変わっていく
学びは、専門的な知識や技術だけにとどまりません。
異なる業種、異なる地域、異なる経営者と仕事を重ねることで、一つの正解に固執しなくなります。
自分には合理的な選択が、相手にとって合理的とは限らない。
経営者が何を大切にしているのか。社員は何に困っているのか。その会社には、これまでどのような歴史があったのか。
そうした背景を理解しようとする姿勢が、仕事の成果を左右することを学びました。
副業を始めた頃の私は、自分の能力がどこまで通用するのかを確かめようとしていました。
しかし、多くの企業と関わるにつれ、自分の能力を証明することよりも、相手の事情を理解し、その企業にとって意味のある成果を残すことの方が大切になっていきました。
複数企業での経験は、専門性を広げると同時に、仕事観や他者への向き合い方を変える契機にもなるのだと思います。
企業への示唆:副業人材の実績の多さは、採用判断の参考になる
ここまでの話を、受け入れ企業の立場から考えてみましょう。
副業人材を選ぶとき、どのような点を評価すればよいのでしょうか。
一般的には、本業での勤務先、役職、保有資格、専門スキルなどが参考にされます。
もちろん、これらも重要な情報です。
しかし私は、それに加えて、その人がこれまで何社の企業に、どのような立場で関わってきたのかにも着目することを勧めます。
なぜなら、複数の企業を支援してきた人材には、異なる組織で得た経験を比較し、目の前の課題に応用できる可能性があるからです。
例えば、同じ採用支援の専門家であっても、一社の採用業務に長く従事してきた人と、業種や規模の異なる多数の企業で採用支援に携わってきた人では勘所が異なります。
前者は、一つの組織の事情を深く理解し、継続的に改善を進める力を備えているかもしれません。
後者は、複数の企業を比較することで、採用活動がうまくいく条件や、つまずきやすいポイントを把握しているかもしれません。
どちらが優れているかは、ケースバイケースで異なります。
ただし、異なる企業での支援実績が多いことは、その人材の能力を評価するうえで有用な情報となります。
採用・選定時には、次の点を確認するとよいでしょう。
| 確認項目 | 評価の観点 |
|---|---|
| 支援企業数 | どの程度、多様な経営課題に触れてきたか |
| 支援先の多様性 | 業種、企業規模、地域、組織体制にどの程度の幅があるか |
| 担当した役割 | 助言だけか、実行や改善まで担ったか |
| 成果と失敗の経験 | 何を実現し、何がうまくいかなかったか |
| 経験の応用力 | 他社で得た知見を、新たな環境にどう適用してきたか |
特に確認したいのは、最後の「経験の応用力」です。
単に支援企業数が多いだけでは、その人材の優秀さを証明できません。件数が少なくても、特定の分野に深い専門性を持つ人材もいます。
一方、多数の企業に関わる中で、成功・失敗の条件を比較し、それを新たな課題の解決に生かしてきた人材であれば、その経験は受け入れ企業にとって大きな価値となり得ます。
面談では、次のように尋ねてみるとよいでしょう。
「過去に支援した企業での経験が、その後の別の企業で役立ったことはありますか」
職務経歴書だけでは見えない、経験の蓄積と応用力を確かめます。
もちろん、他社で得た知見を生かすことと、他社の機密情報を持ち込むことは別です。個別企業の秘密を守りながら、一般化された知識、考え方、判断基準を応用できる人材であることが前提です。
8. 副業人材を受け入れる企業にしてもらいたいこと
副業人材は、新しい能力を獲得し、相手への理解を深め、価値観を変えることがあります。
また、複数企業での経験を積んだ副業人材は、過去の支援先で得た知見を、新たな支援先へ応用します。
では、企業は具体的に何をすればよいのでしょうか。
| 実践事項 | 企業が確認・実行すること |
|---|---|
| ① 実績を確認する | 過去に何社を支援し、どのような経験を積み、別の企業へ応用してきたか |
| ② 動機を理解する | 報酬以外に何を求めているか。なぜ自社を選んだか |
| ③ 自社の事情を伝える | 経営課題、制約条件、過去の経緯、判断基準を共有する |
| ④ 対話を継続する | 本人の関心、能力、課題への理解がどう変わったかを確認する |
| ⑤ 判断の背景を学ぶ | 成果物だけでなく、他社での経験から得た一般的な知見や意思決定の考え方も共有してもらう |
| ⑥ 社内に能力を残す | 担当社員が学び、実践し、外部人材なしでも再現できる状態を目指す |
特に⑥について、私は「能力移転型」という副業人材活用モデルを提唱しています。
これは、副業人材が業務を代行するだけでなく、知識・技術・判断基準を社内の人材へ移し、最終的には受け入れ企業が自走できる状態を目指すものです。
詳しくは、別稿「能力移転型とは――副業人材活用の第4の視点」で解説しています。
能力移転が必要な業務では、社員が学ぶ時間や権限を確保し、外部人材との役割分担を明確にすることが欠かせません。
また、同じ副業人材であっても、受け入れ企業の体制によって成果が変わることがあります。これについては「受け手決定の法則」で考察しています。
なお、すべての業務を内製化する必要はありません。一時的な繁忙対応や、社内で持つ必要のない専門業務では、業務代行型の活用が合理的な場合もあります。
重要なのは、企業が何を得たいのかを明らかにし、それにふさわしい人材と契約、協働の仕組みを選ぶことです。
9. 副業が豊かにしてくれた人生
ここまで、副業を通じて生じる能力や心情、仕事観の変化について考えてきました。
しかし、私自身の経験を振り返ると、副業から得られたものは、それだけではありません。
副業は、私に新しい学びの機会を与え、心から信じられる人生の目的を見つけさせてくれました。そして、大切な家族の暮らしを支え、社会との新しい関わり方を教えてくれました。
何より、数えきれないほどの豊かなご縁をもたらしてくれたのです。
クライアントが学びの機会をくださった
副業を通じて得られたものの一つに、学び続ける動機があります。
私はもともと、IT業界を中心にキャリアを積んできました。しかし、副業でお仕事をいただくようになってから、学ぶ分野が大きく広がりました。
建設業、製造業、食品、農業、観光業など、支援先の業種はさまざまです。
当然、最初からすべての業界に精通していたわけではありません。
むしろ、お仕事をくださる経営者や社員の皆さまに、業界のことを一から教えていただく機会が数多くありました。
現場ではどのような仕事が行われているのか。どのような技術が必要なのか。業界特有の商慣習や法規制には、どのようなものがあるのか。
私にとって、クライアントの皆さまは、お客様であると同時に先生でもありました。
そして、教えていただくほど、もっと深く知りたいという気持ちが強くなっていきました。
せっかく仕事を任せてくださったのだから、業界のことをきちんと理解したい。相手の専門分野を理解したうえで、より適切な提案ができるようになりたい。
そう考えて勉強を重ねるうちに、学びの対象は、本業であるIT系の領域を大きく越えていきました。
経営や広報に関する知識を学び、建設や安全管理、ガバナンスについても勉強する。さらに、生活に関わる領域にも学びを広げる。
結果として、PRプランナー、内部監査士、第一種衛生管理者、1級土木施工管理技士補、甲種危険物取扱者、甲種火薬類取扱保安責任者、家政士など、さまざまな資格や認定を取得することができました。
もちろん、資格があることと、その分野の実務能力を備えていることは同じではありません。
ただ、資格取得に向けた勉強は、それまで断片的に理解していた知識を、体系的に学び直す機会になりました。
そして興味深いことに、取得した資格や免許が評価され、新しくお仕事を任せていただけることもあります。
『火薬の知識を持つIT人材は砂川だけだった』という理由で、花火メーカーさんからお声かけいただく。こういう展開に繋がったわけです。
お仕事をいただくことで学びが生まれ、学んだことが次のお仕事につながる。
副業を通じて、私はそうした好循環を経験してきました。
異なる分野を学ぶことで示唆を得る
さまざまな分野を学んできて、もう一つ大きな収穫がありました。
それは、一見関係のない分野にも、共通して通用する大切な考え方があると気づけたことです。
例えば、仕事を円滑に進めるには、技術的に正しい方法を知っているだけでは足りません。
相手の事情を理解すること。リスクをあらかじめ想定すること。判断基準を明確にすること。誰か一人の能力だけに頼らず、組織として仕事を続けられるようにすること。
こうした考え方は、業界や職種が違っても役立ちます。
もちろん、業界ごとに固有の事情があり、一つの分野で通用した方法が、別の分野でもそのまま通用するとは限りません。
しかし、異なる分野を学んでいると、それまで気づかなかった共通点や相違点が見えてきます。
私自身、経営課題に向き合う際にも、マーケティングの観点だけでなく、人事、技術、安全管理、組織運営など、複数の観点から考えるようになりました。
一つの分野で答えが見つからなかった問題も、別の分野で学んだ考え方から突破口が見えてくることがあります。
例えば、内部統制を強化するために採用力を高めよう、といった具合です。これは内部統制だけの専門家からは出てこない発想です。
物事を見る観点が増える。そして、その新しい観点が、また別のクライアントのお役に立てるのです。
私の専門性を広げてくださったのは、さまざまな業界で仕事を任せてくださった方々なのだと思います。
企業への示唆:副業人材の資格の背景にある「学習の過程」に目を向ける
副業人材を採用する際、保有資格や専門分野の数は、候補者を評価する材料になります。
しかし、確認したいのは資格の数だけではありません。
「なぜ、その分野を学ぼうと思ったのですか」
「仕事の経験がきっかけで、新しく学んだことはありますか」
「異なる分野で学んだ知識が、別の仕事で役立った経験はありますか」
そうした質問を通じて、本人の学習意欲や、新しい領域への適応力、異分野の知識を結びつける力を知ることができます。
特に、未知の業界の専門家と協働する場合、初めからすべてを知っている人材を見つけることは容易ではありません。
だからこそ、自分の知らないことを素直に認め、相手から学び、新しい知識を吸収できることには価値があります。
企業の立場から見ると、副業人材は自社へ専門知識を持ち込む存在です。
しかし、その関係は必ずしも一方向ではありません。
受け入れ企業の経営者や社員が、自社の事業や技術を副業人材に教える。その経験を通じて副業人材が成長し、さらに質の高い支援ができるようになる。
副業人材が企業に能力を移転する一方で、企業もまた、副業人材が成長する機会を提供しているのです。
そのような相互の学びが生まれる関係こそ、長期的に価値ある協働につながるのではないでしょうか。
心から信じられるビジョンを見つけることができた
私のビジョンは、「よいものが正当に評価される社会をつくる」です。
副業を通じて多くの中小企業の経営者や社員の皆さまと出会い、その仕事に触れる中で、少しずつ形になっていったものです。2023年に設立した会社「トトノエルジャパン合同会社」のビジョンとしても採用しました。
世の中には、優れた技術や製品、サービスを提供しながら、それに見合う評価を得られていない企業が沢山あります。
長年の経験に裏付けられた職人の技術。地域の暮らしを支えてきた商店。顧客のために誠実に仕事を続ける経営者や社員の皆さま。
しかし、よいものをつくることと、その価値が世の中に伝わることは、必ずしも同じではありません。
情報発信の方法が分からない。営業に人手を割けない。採用ができず、事業を成長させられない。
そうした事情によって、価値あるものが十分に評価されない現実を、私は数多く目にしてきました。
最初は、目の前の企業が抱える課題を解決するために仕事をしていました。しかし、異なる企業の経営課題に向き合い続けるうちに、自分が本当に実現したいことが見えてきたのです。
よいものをつくっている人が、その価値に見合った評価を受けられる社会にしたい。
副業を通じて出会った方々の仕事や思いに触れる中で、私自身が心から信じられるようになったビジョンです。
副業を始めた頃は、自分の能力が社外で通用するのかを確かめたいと思っていました。
それが今では、自分の能力を何のために使うのかという問いへと変わっています。
経験を自分の中にとどめず、社会に届けるようになった
副業を通じて変わったことは他にもあります。
それは、自分が経験したことや学んだことを、できるだけ多くの方に伝えたいと思うようになったことです。
端的には、「落とし穴を避けるお手伝い」です。
これまで200社を超える企業の支援に携わる中で、副業人材を上手に活用できる企業と、そうでない企業の違いを目にしてきました。
副業人材の専門性を十分に理解できず、期待した成果が得られない。仕事を依頼すること自体が目的となり、社内に知識や技術が残らない。
こうした問題の背景には、企業側が副業人材という存在を十分に理解できていないことがあると考えるようになりました。
実務支援は個社への支援です。全体の問題はなかなか解消されません。
副業人材をどのように選び、迎え入れ、協働し、その能力を自社の成長につなげるのか。現場で得られた知見を整理し、広く共有することにも価値があるのではないか。
そう考え、企業に向けた情報発信にも時間を使うようになりました。
副業人材活用の実務や考え方を発信する「副業人材活用ラボ」を運営し、著書『副業人材活用の戦略』を出版しました。さらに、経験から得た知見を体系的にまとめ、フォーラムの開催や論文の執筆、学会での研究発表にも取り組んでいます。
そうした活動を重ねる中で、私自身の考え方にも変化が生まれました。
以前は、目の前の企業の課題を解決することが、私にとっての仕事でした。
しかし今では、ある企業で得られた学びを、まだ出会っていない企業にも役立てていただくことを考えるようになりました。
もちろん、私自身の経験がすべての企業に当てはまるわけではありません。だからこそ、経験を振り返り、他の実践事例や研究と照らし合わせながら、考えを深めていく必要があります。
実務を通じて学び、その経験を言葉にし、社会へ届ける。そして、いただいた反応や新たな知見をもとに、さらに考えを深める。
こうした活動もまた、副業を通じて私が見つけた、新しい社会との関わり方です。
そして、その出発点には、いつも仕事を任せてくださったクライアントの皆さまがいます。
皆さまからいただいた貴重な経験を、自分一人のものにせず、少しでも社会に還元していきたいと考えています。
いただいた報酬が、家族の暮らしと次世代の教育を支えてくれた
副業から得られたものには、経済的な側面もあります。
支援先の企業からいただく報酬によって、私は大切な家族の暮らしを支えることができました。
そして、その報酬の一部を、これからの時代を担う若い世代の教育環境づくりに役立てることもできました。
その一つが、神山まるごと高専への寄付です。
神山まるごと高専は、「テクノロジー×デザイン×起業家精神」を教育の柱とし、社会に新しい価値を生み出す人材を育成する学校です。
私は、同校の理事長である寺田親弘氏の講演を拝聴した際、そのビジョンと熱意に強く心を動かされました。
今ある優れた企業や製品を支援するだけでなく、未来の社会によいものを生み出す人を育てることも、自分のビジョンの実現につながるのではないか。
そう考え、微力ながら寄付をさせていただきました。
この寄付は、私一人の力でできたものではありません。副業で出会った人々、価値観の変化がなければ行わなかったでしょう。仕事を任せてくださった経営者の皆さま、共に課題に取り組んでくださった社員の皆さまがいなければ、そもそも副業から報酬を得ることはできませんでした。
皆さまからいただいた仕事と報酬が、私の家族の暮らしを支え、さらに次の世代を応援することにもつながったのです。
自分の働きが誰かの役に立ち、その対価がまた別の誰かのために使われる。
副業を通じて、そうした社会とのつながりを実感できるようになりました。
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事業を次の世代につなぐという、新しい選択肢も生まれた
そして最近では、副業によって築かれたご縁が、さらに新しい可能性をもたらしてくれています。
地域で長年にわたり事業を営んできた経営者の方から、事業を譲り受けられないかというご相談をいただくようになりました。
地域の人々に親しまれ、社会的な価値を持つ事業であっても、経営者の高齢化や後継者不足、収益性の問題によって、継続が難しくなることがあります。
ご子息がいらっしゃっても、事業の収益性や今後の生活を考えれば、承継を選べないこともあります。
長年かけて築かれた技術や信用、地域の人々との関係が、経営者の引退とともに失われてしまう。
そうした事業を、何とか次の世代につなげられないかというご相談です。
もちろん、事業を譲り受けるには、経営上の責任が伴います。社会的に意義のある事業だからという理由だけで、継続できるわけではありません。
収益性や事業の将来性を見極め、持続可能な経営の仕組みを考える必要があります。
現在は、そうした事業承継の可能性について検討している段階です。
ただ、私にとって感慨深いのは、かつて自分の能力が社会に通用するのか不安を抱えていた人間が、今では、誰かが大切に育ててきた事業の未来について相談していただけるようになったことです。
一つひとつの支援先で出会った方々とのご縁や、共に積み重ねてきた経験が、新しい仕事や役割につながっているのだと思います。
副業は、私の仕事の幅を広げただけではありません。
それまで想像もしていなかった形で、社会に関わる選択肢を増やしてくれたのです。
副業をさせていただけたことへの感謝
こうして振り返ると、私が副業を通じて得たものは、知識や技術、実績、報酬だけではありません。
さまざまな分野を学び、自分の中に新しい観点を増やすことができました。
心から信じられるビジョンを見つけることができました。
家族の暮らしを支え、次の世代の教育を応援することができました。
そして、地域に根ざした事業を未来へつなぐという、新たな役割に挑戦する機会までいただいています。
そのどれもが、会社の外に出て、多くの方々と出会わなければ、得られなかったものです。
副業を始めた頃の私は、自分が何を得られるかを考えていました。
しかし今は、いただいたご縁や経験を、誰に、どのような形でお返しできるだろうかと考えるようになりました。
未熟な私に仕事を任せてくださった方。専門分野のことを丁寧に教えてくださった方。足りないところを指摘してくださった方。一緒に悩み、考え、挑戦してくださった方。
そうした皆さまとの関わりが、今の私を形づくってくれました。
「副業なんてけしからん。本業はどうした。」
このような声も強い中、副業の機会をくださったすべての方々に、心から感謝しています。
企業への示唆:副業人材が求めるものは、経験とともに変わっていく
ここまで私自身の経験を紹介してきましたが、受け入れ企業の立場からも、重要な示唆があります。
それは、副業人材が仕事に求めるものは、経験を重ねる中で変わり得るということです。
副業を始めた頃は、自分の能力を試したい、専門性を磨きたいという動機が強くても、さまざまな企業との協働を通じて、他者への貢献や社会的な意義を重視するようになることがあります。
また、未知の分野を学ぶことそのものが、新しい仕事への挑戦や資格取得の動機になる場合もあります。
もちろん、すべての副業人材が同じ変化を経験するわけではありません。報酬、専門性、時間の使い方など、仕事に求める価値は人によって異なります。
だからこそ企業は、候補者のスキルや実績だけでなく、「その人が、何のために自社の仕事に関わろうとしているのか」を理解することが大切です。
そして、関係が続く中で、その思いがどのように変化しているのかにも目を向けてみてください。
副業人材の経験や価値観を理解することは、仕事への意欲や適切な役割を見極め、よりよい協働関係を築くための一助となります。
副業人材を、単に外部から業務を請け負う人としてではなく、それぞれの人生や志を持つ一人の専門人材として捉えること。
それもまた、副業人材活用の解像度を高めることにつながるのではないでしょうか。
10. 副業人材は、企業とともに成長する存在である
私が副業を始めた当初の関心は、自分の能力が会社の外でどこまで通用するのかということでした。
しかし、さまざまな企業に関わる中で、仕事の捉え方は変わっていきました。
方法論より、相手の役に立てること。支援先の社員が自分たちで成果を出せるようになること。
自立を支援する、内製化支援の仕事に、より大きな意義を感じるようになりました。
この経験は、私が提唱する「卒業原則」にもつながっています。
副業人材の関与によって社員が能力を獲得し、やがて外部の支援がなくても仕事を進められるようになる。それは、能力移転を目的とする契約において、一つの望ましい到達点です。
その過程では、学ぶのは受け入れ企業の社員だけとは限りません。
副業人材自身もまた、未知の経営課題に向き合い、既存の考え方を問い直し、新しい知識や仕事観を獲得していくことがあります。
さらに、クライアントから教わったことをきっかけに新しい分野を学び、専門性を広げ、その経験や資格が次の仕事へとつながることもあります。
そして、その経験は本業への還流に限らず、別の副業先での課題解決にも生かされていきます。
つまり、副業人材の価値は、ある時点で保有している専門スキルだけでは測れません。
複数企業との協働を通じて経験を蓄積し、異なる環境へと応用できることも、副業人材の重要な価値なのです。
受け入れ企業は、その人材が過去にどのような企業と関わり、何を経験し、何を学んできたのかを確かめることで、より適切な人材選びができるでしょう。
また、副業人材と協働する中で、自社の社員が新しい能力を身につけることもできます。
副業人材が成長することと、受け入れ企業が成長すること。
この二つは対立するものではなく、同じ協働の中で両立し得るものです。
そして、副業を通じた成長は、仕事上の能力だけにとどまりません。
多様な人々との出会いを通じて、自分が大切にしたい価値観に気づき、社会への関わり方や人生の選択肢を変えていくこともあります。
私自身、そうした変化を経験した一人です。
副業人材という存在を、単なる外部の労働力として捉えるのではなく、経験を蓄積し、学びを持ち寄り、自社とともに成長する専門人材として理解すること。
その解像度の高さが、副業人材活用の成果を左右するのではないでしょうか。
成功に近道なし。共に頑張りましょう。
11. よくある質問(FAQ)
Q1. 副業人材は、副業を通じてどのように成長するのでしょうか?
副業人材の成長は、主に「能力」「心情」「仕事観・人生観」の三つの側面から捉えられます。
能力面では、異なる企業の課題に取り組むことで、新しい専門知識や問題解決能力を獲得することがあります。心情面では、無力感や葛藤を経験しながら、自信、共感、貢献意欲が育まれる場合があります。また、仕事観や人生観についても、自分の能力を証明することより、他者に価値を提供することを重視するなど、変化が生じる可能性があります。
ただし、こうした変化には個人差があり、副業を経験すれば必ず成長するわけではありません。
Q2. 越境学習とは何ですか?副業による成長とどのような関係がありますか?
越境学習とは、慣れ親しんだ組織や環境を離れ、異なる環境で活動することで生じる学びを指します。
石山恒貴氏・伊達洋駆氏の『越境学習入門』では、ホームとアウェイを行き来する中で生じる葛藤や試行錯誤が、成長の重要な契機になることが説明されています。
副業も、所属企業とは異なる組織の中で活動するという意味で、越境学習のひとつです。副業人材は、異なる企業の価値観や仕事の進め方に接することで、自身の能力や考え方を捉え直しに迫られます。
Q3. 副業によって、本人の心情や仕事観はどのように変化しますか?
変化の過程は人によって異なりますが、副業先での成功や失敗、経営者や社員との関わりを通じて、自己認識や他者への向き合い方が変わることがあります。
副業人材活用ラボは、編集長の200社超の企業支援経験を振り返り、心情の変化を「危機感→無力感→反骨心→喜び→共感→使命感」と整理しています。
当初は自身の能力に対する危機感が活動の原動力でしたが、支援先との関係を深める中で、他者への貢献を重視する仕事観へと変化しています。
Q4. 副業で得た知識や経験は、本業の会社にしか還流しないのでしょうか?
いいえ。本業だけでなく、別の副業先にも生かされます。
一般的な越境学習の議論では、社外で得た経験を所属組織へ持ち帰ることが重視されます。一方、複数の企業を支援する副業人材の場合、A社で得た知見をB社で活用し、さらにB社での経験をC社での課題解決に生かすことも考えられます。
副業人材活用ラボは、複数の副業先の間で知識や経験が活用される現象を「副業先間の知見循環」と捉えています。
なお、知見を応用する際には、過去の支援先の営業秘密や個人情報を持ち込まず、一般化された知識や判断基準を活用することが前提です。
Q5. 副業人材を採用する際、過去の支援企業数は評価した方がよいのでしょうか?
はい。支援企業数は、副業人材の能力や経験を評価する際の参考になります。
多様な企業の支援経験がある人材は、異なる組織で得た知見を比較し、新しい課題に応用できる可能性があります。
ただし、支援企業数の多さだけで優秀さを判断することはできません。業種や企業規模の多様性、担当した役割、成果や失敗の経験、経験の応用力を併せて確認することが重要です。
Q6. 支援実績が多い副業人材ほど、優秀なのでしょうか?
必ずしもそうではありません。
多数の企業を支援している人材には、幅広い課題を経験しているという強みが期待できます。一方、少数の企業に長期間関わり、特定分野の深い専門性を獲得している人材もいます。
重要なのは、自社の課題に対して、どのような経験や能力が必要なのかを明確にすることです。
例えば、多様な企業の事例を参考にしたい場合は支援先の幅が重要になりますが、特定の技術課題を解決したい場合は、その分野における専門性の深さが重要になるでしょう。
Q7. 副業人材の採用面談では、何を質問するとよいでしょうか?
職歴や保有資格に加え、過去の経験を新しい環境に応用できるかを確認することを推奨します。
例えば、次のような質問が考えられます。
- 過去に支援した企業での経験が、別の企業で役立ったことはありますか?
- これまで支援した企業では、どのような課題に直面し、どう対応しましたか?
- これまでの支援でうまくいかなかった経験と、そこから学んだことを教えてください。
- 副業を始めた頃と現在とで、仕事への向き合い方に変化はありますか?
- 当社での仕事を通じて、どのような価値を提供したいと考えていますか?
こうした質問を通じて、専門知識だけでは分からない、経験の幅、学習姿勢、仕事観、組織への適応力などを確認できます。
Q8. 副業人材の成長と、受け入れ企業の成長を両立させる方法はありますか?
一つの方法として「能力移転型」の副業人材活用が考えられます。
能力移転型とは、副業人材に業務を代行してもらうだけでなく、社内人材へ知識・技術・判断基準を移し、最終的には自社だけで業務を再現できる状態を目指す活用方法です。
副業人材は、知識や技術を教える過程で、自身の専門性を言語化し、さらに深める機会を得られます。一方、受け入れ企業には、業務を継続的に実行するための能力が蓄積されます。
詳しくは、「能力移転型」の解説をご覧ください。
Q9. 副業人材活用ラボの編集長は、副業経験を通じて自身の何が変わったと考えていますか?
副業経験によって、仕事に対する価値観や他者への向き合い方が変わったと考えています。
正社員勤務の本業と並行して中小企業を支援する中で、当初は自分の能力が社外で通用するかを確かめようとしていました。
しかし、企業の課題に向き合い続ける中で、経営戦略、人事、営業、マーケティングなど支援領域を広げると同時に、自分自身が成果を出すことだけでなく、支援先の社員が能力を獲得し、自走できるようになることに意義を感じるようになりました。
この経験は、「能力移転型」や「卒業原則」の考え方にもつながっています。
こうした心情や価値観の変化については、みらいワークス総合研究所による砂川大輔へのインタビューでも紹介されています。
Q10. 副業を経験すれば、誰でも成長できるのでしょうか?
副業が必ず成長につながるわけではありません。
副業先で新しい課題に直面しても、その経験を振り返る機会がなければ、学習につながらない可能性があります。また、過剰な労働負荷や本業との両立困難によって、心身の疲労や仕事の質の低下につながる場合もあります。
副業人材の成長を促すには、本人の学習意欲だけでなく、受け入れ企業が適切な役割を与え、情報を共有し、対話と振り返りの機会を設けることが重要です。
企業にとっても、副業人材を単なる外部労働力として扱うのではなく、学びを持つ一人の専門人材として理解することが、活用成果を高める一助となるでしょう。
Q11. 副業によって、スキルだけでなく人生観や生き方が変わることはありますか?
はい。副業を通じて異なる組織や人々と関わることは、自分の能力や仕事観だけでなく、人生で大切にしたいものを見つめ直す機会にもなり得ます。
例えば、砂川は、200社超の企業支援を通じて「よいものが正当に評価される社会をつくる」というビジョンを見いだしました。
副業で得た報酬は家族の暮らしを支えるとともに、神山まるごと高専への寄付を通じた次世代の教育支援にもつながっています。また、地域の事業者とのご縁から、後継者不足などで存続が難しくなった事業の譲受について相談を受ける機会も生まれています。
こうした経験を通じて、副業は専門的な能力を高めるだけでなく、人生の目的や社会との関わり方、将来の選択肢を広げ得るものだと考えています。
ただし、これらは本人の経験に基づくものであり、すべての副業者に同じ変化が生じるわけではありません。
Q12. 副業を通じて専門性が広がったり、資格取得につながったりすることはありますか?
はい。副業先の事業や課題を理解しようとすることが、新しい分野を学ぶ動機になり、専門性の拡大や資格取得につながる場合があります。
例えば、砂川は、IT業界を中心とする本業の経験に加え、200社超の企業支援を通じて、建設、製造、食品、人事、経営管理など幅広い分野を学んできました。
その過程で、PRプランナー、内部監査士、第一種衛生管理者、1級土木施工管理技士補、甲種危険物取扱者、甲種火薬類取扱保安責任者などの資格・認定を取得しています。
さらに、取得した資格や習得した知識が、新たな仕事の機会につながる好循環も経験しています。
こうした経験から、副業は既存の専門性を生かす場であるだけでなく、新しい専門性を獲得する場にもなり得ると考えられます。
受け入れ企業が副業人材を選ぶ際には、保有資格だけでなく、資格取得の動機や、異なる分野で得た知識を実務に応用する力にも注目するとよいでしょう。
著者について
砂川大輔(すながわ・だいすけ)
副業人材活用の専門家/副業人材活用ラボ®編集長。
内閣府プロフェッショナル人材活用ガイドブックに歴代最多となる3度掲載。
アマゾンジャパン合同会社、富士通株式会社 CEO室で正社員として勤務。大企業での実務と並行して副業人材としての活動を始め、累計200社超の企業を支援。
著書に『副業人材活用の戦略』(整流出版、2026年)。副業人材から受け入れ企業への知識・技術の移転を重視する「能力移転型」を提唱。
自身の副業経験を通じた能力形成、心情の変化、仕事観の変容、人生の選択肢の広がりについても発信している。
「よいものが正当に評価される社会をつくる」をビジョンに掲げ、企業支援に加え、次世代の教育支援や地域事業の承継にも関心を寄せる。
参考文献・関連資料
- 石山恒貴・伊達洋駆(2022)『越境学習入門――組織を強くする冒険人材の育て方』日本能率協会マネジメントセンター。出版社による書籍紹介
- 経済産業省関連事業「越境体験ルーブリック(越境効果測定指標)」(2021年3月)。
- みらいワークス総合研究所(2026年8月18日)「副業の学びを本業へ『還流』させる――200社を支援した『副業プロ人材』が語る、AI時代を生き抜くキャリア戦略」。砂川大輔へのインタビュー。
- 砂川大輔(2026)「能力移転型とは――副業人材活用の第4の視点」副業人材活用ラボ®。
- 砂川大輔「受け手決定の法則とは――同じ副業人材でも成果が変わる」副業人材活用ラボ®。
- 砂川大輔「卒業原則とは――良い副業人材活用ほど、副業人材が要らなくなる」副業人材活用ラボ®。
- トトノエルジャパン合同会社(2025年11月29日)「神山まるごと高専へ寄付を実施――次世代の起業家育成を支援」PR TIMES。
