「当社でAI検索に強いサイトを作らせていただけないでしょうか」。こうした営業メールが増えていますね。
契約書を見せてもらうと、成果物の権利がどちらにあるのか書かれていませんでした。書かれていないものを問題だと気づくのは難しいものです。言われるままに契約し、囲い込まれて困った、という相談が後を絶ちません。
本稿では、中小企業がどのように囲い込まれていくかを紹介します。
1. 知識の差が突かれる時期。AI成長期と中小企業の法務
中小企業基盤整備機構が2026年3月に公表した調査では、AIを導入済みの中小企業は20.4%でした。これからどんどん増えるでしょう。一方、同じ調査で、「適切な事業者や製品を選ぶ情報が十分にあるか?」という問いに、79.8%が「当てはまらない」と答えています。知識が足りないまま契約の時期を迎える会社が大半というわけです。
経済産業省も2025年2月、「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」を公表しました。AIの技術や法務に習熟していない事業者が、法的なリスクを検討しないまま契約するおそれがある、というのが理由です。
法務部のある大企業では、契約書は法務部に回り、条項を一つずつ点検してから署名されます。しかし、中小企業の多くには法務部がありません。筆者が累計200社超の支援で見てきた限り、契約書は経営者が本業の合間に自分で読んでいます。相手が用意した文面に、その場で署名してしまう会社も珍しくありません。AIの広がる速さに中小企業の知識と法務が追いついていないのです。
2. 何で囲い込まれるのか。ロックインの五つの手段
公正取引委員会は2022年、導入した事業者にしか改修や保守を頼めず、その事業者を使い続けるほかない状態を「ベンダーロックイン」と呼び、回避すべきと警鐘を鳴らしました。国と地方公共団体を調べた報告書ですが、中小企業でも同じことが起きます。囲い込みのポイントは、おおむね五つです。
所有権
ホームページ、記事、画像など。こうした成果物の著作権は、契約に定めがなければ作った側に認められます。解約後の利用を認める定めがなければ、「契約を解除するならホームページを削除してください」と求められることがあります。
管理者権限
ホームページ、Googleビジネスプロフィール、AIツール等の管理者権限を事業者だけが持つ形です。自社のサイトなのに、ちょっとした変更でもいちいち事業者に頼まねばなりません。解約時にアカウントを引き継げるかどうかも、契約書に書かれていなければ相手次第です。
操作の難しさ
事業者にしか使い方がわからないと、自社で更新できません。手順書はなく、説明もされない。更新のたびに費用が発生します。違法性を証明しづらく、公正取引委員会の定義にいちばん近い手段です。
データ
AIに入力した顧客情報や業務情報を、事業者やAIサービスがどこまで使えるのか、解約時に返してもらえるのか。定めがなければ、蓄積したデータごと相手の手元に残ります。
契約期間
自動更新、途中解約の禁止、高い違約金。効果が出なくても支払いが続きます。
五つがすべて事業者の側にあると苦しいです。値上げされても品質が落ちても替えられません。
3. 署名の前に確かめること。契約書の点検
次の五点を契約書で探してください。書かれていなければ追記を求めます。追記に応じるかどうかは、事業者を見極める材料にもなります。
| 手段 | 契約書で確かめること |
|---|---|
| 所有権 | 成果物の権利は自社にあるか。解約後も使い、書き直せるか |
| 管理者権限 | アカウントの名義は自社か。自社も管理者として入れるか |
| 操作の難しさ | 社員が更新できる仕組みか。手順書と説明が付くか |
| データ | 入力した情報の利用範囲と、解約時の返還・削除 |
| 契約期間 | 期間、自動更新、中途解約、違約金、通知期限 |
迷った条項は、署名の前に弁護士や支援機関、あるいはAIに見てもらってください。経済産業省のチェックリストは無料で読めます。すでに契約している会社は、更新日と解約の通知期限を先に確かめてください。
一時的に人手が足りない業務や、社内に抱える必要のない機能なら、代行に出すのは合理的な選択です。繰り返し発生する業務なら、社員が使えるようになることを目的にした契約を選んでください。筆者はこの型を「能力移転型」と呼んでいます。
4. 結語
事業者が囲い込みで頻繁に使うのは、所有権、管理者権限、操作の難しさ、データ、契約期間です。
成功に近道なし。共に頑張りましょう。
よくある質問
Q1 AI検索対策の営業を受けました。契約してよいですか。
契約書で五点を確かめてから決めてください。成果物の権利、管理者アカウントの名義、社員が操作できるか、データの扱い、契約期間と解約の条件です。Googleは、AI機能に表示されるための特別な最適化は必要ないと説明しています。
Q2 外部の会社に書いてもらった記事は、自社のものですか。
契約に定めがなければ、著作権は書いた側に認められます。譲渡を受ける場合は、書き直しや転用に関わる権利まで契約書に明記してください。
Q3 AIを使った業務代行は、頼まないほうがよいですか。
頼んでよい場面があります。一時的に人手が足りない業務や、社内に抱える必要のない機能です。繰り返し発生する業務は、権限と成果物を自社に置き、社員が使えるようになる契約を選んでください。
出典
- 中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」2026年3月 https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/202603_AI_point.pdf
- 経済産業省「『AIの利用・開発に関する契約チェックリスト』を取りまとめました」2025年2月18日 https://www.meti.go.jp/press/2024/02/20250218003/20250218003.html
- 公正取引委員会「官公庁における情報システム調達に関する実態調査報告書」2022年2月8日 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/feb/220208_system.html
- Google検索セントラル「AI機能とウェブサイト」(2026年10月12日確認) https://developers.google.com/search/docs/appearance/ai-features?hl=ja
- 著作権法 第17条、第61条第2項(e-Gov法令検索)
- 文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」2024年3月15日 https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_07/pdf/94024201_01.pdf
- 特定商取引に関する法律 第26条第1項第1号(e-Gov法令検索)
- 砂川大輔(2026)「能力移転型とは」副業人材活用ラボ® https://fukukatsu-lab.com/nouryoku-iten/
