支援先の社長がAIを使い始めました。商品のポップデザインを作り、受発注処理システムまで作成するなど。次々と実務へ取り入れています。
これを見た外注先の動きが変わりました。マーケティング代理店と税理士が、社長に提案や成果物を持ってくるようになったのです。それまでのペースは何だったのかと感じるほど動きが活発になりました。
AIを使う効用は、自分の仕事を早く終えることだけではありません。社長が自ら形にし始めると、外注先が「これはマズい」と仕事をするようになります。今回は社長がAIを使うことの意味を考えます。
外注先が、契約を失う可能性を意識する
注目すべきは、外注先の解釈です。
私はファシリテーターとして、社長と外注さんたちが居並ぶ会議で司会をしていたのですが、社長がご自身で作ったポップを画面共有した時の緊張感が忘れられません。
外注先の受け止め方を言葉にすれば、「社長は自分でできる。このままでは契約を切られる」ということでしょう。
画面共有はほんの数十秒でしたが、盤面をガラリと変える妙手でした。
それからは目に見えて、提案や成果物を持ってくるペースが変わりました。引き続き自分たちに任せてもらうために、仕事で価値を示す必要が生じたのです。
人間は痛みに敏感な生き物です。「自分たちは代替され得る」という恐怖から行動が一変したのです。
契約を続けてもらう理由を、外注先が示し始める
契約を失う可能性を意識すると、外注先は、引き続き任せてもらう理由を示すようになります。要はがんばるということです。
社長が自ら形にできることが分かった以上、外注先は、内製する場合と比べてどのような価値を提供できるかを問われます。より良い成果物、専門的な確認、社長が気づいていない改善提案、高頻度の納品。自分たちに頼む意味を、働きぶりで示すようになります。
たとえば、社長が商品のポップを作れるなら、代理店には、売り場や顧客の反応を踏まえた改善を提案する余地があります。業務処理を自社で進められるなら、外部の専門家には、その処理の確認や、さらに改善すべき点を示す役割が考えられます。
AIで外注先の行動を変えられるという点は、中小企業の経営者に知っていただきたいところです。
提案が増えた後は、社長の判断力が問われる
外注先が積極的に提案するようになったら、その内容が自社の課題の解決に役立つかを確認します。
提案書が増えれば、読む時間も打ち合わせの時間も増えます。取り組む施策を増やすと社員の時間やお金が消費されます。取捨選択の判断が求められます。
何を改善する提案なのか。誰が実行するのか。どの指標を見て、続けるかを決めるのか。この三つを、提案を受けるたびに確認したいところです。
たとえば、ポップの改善なら、見栄えに加えて、商品を選ぶ理由が伝わるかを見ます。業務の仕組みを変えるなら、処理にかかる時間や手戻りが減るかを確かめます。提案や成果物を、自社の仕事の変化につなげて評価します。
この基準は、社長自身がAIで作ったものにも当てはめます。作れた喜びは大きいでしょう。あとは使う社員が困っていないか、修正や維持にどれほど時間がかかるかを確認します。
社長も外注先も、同じ目的に向けて仕事を評価する。 その共通認識があれば、AIで作った案も、専門家からの提案も、建設的に検討できます。
社長の実行力を、会社の能力にする
社長がAIを使いこなすようになったら、次は社員が運用できる状態を目指します。
ポップの修正もシステムの不具合対応もすべて社長が担うでは、本来の社長業に支障をきたします。社長が始めた取り組みを、他者が運用できるようにする必要があります。
まずは、作成に使った情報、AIへの指示、操作の手順、確認する項目を残します。とくに、なぜその案を採用したのか、どこを直したのかという判断の理由は、社員が次の仕事を進める材料になります。
その資料を使い、社員が実際に作成や修正を行います。分からなかった箇所を補い、もう一度試す。担当者が自分で扱える範囲を、少しずつ広げていきます。
社長だけでは教える時間を取りにくい場合、専門知識を持つ副業人材に支援を頼む方法があります。社員と一緒に実務を進め、手順や判断基準を整理してもらいます。
能力移転型の副業人材活用は、社員への能力の移転と定着を契約の目的に据えます。契約終了後も、社内で対象業務を再現・運用できる状態を目指すものです。
今回のように、社長が自ら作り始めた企業なら、その成果物を教材にできます。何を改善し、どこを社員に任せるかを具体的に話し合えるからです。副業人材を選ぶ際は、作る能力に加え、その考え方を社員へ説明できるかも確認してください。
社長が可能性を示し、社員が実務を担い、必要な専門性を外部から取り入れる。この分担ができれば、社長自身の実行力が、会社全体の力へつながります。
まず一つ、自分で形にしてみる
現在外注している仕事の一部を、社長自身がAIで試してみてください。実務で使えるものを作り、その取り組みを外注先との打ち合わせでも共有します。
社内でどこまで進められたかが伝われば、外注先にも、内製化が現実の選択肢として見えてきます。そのうえで、引き続き何を任せたいか、どのような価値を期待するかを話し合います。
冒頭の支援先で変わったのは、外注先の認識でした。この社長なら、自分たちに頼らず進めるかもしれない。その危機感が、提案や成果物を持ってくる行動につながったのです。
成功に近道なし。共に頑張りましょう。
よくある質問
Q1.社長がAIを使うと、なぜ外注先が頑張るのですか?
外注先が、社長の行動から、自分たちの仕事を内製化される可能性を意識するためです。契約を続けてもらうには、任せる価値を示す必要があります。本記事の支援先では、社長が業務の一部を自社で進め始めた後、代理店と税理士から届く提案や成果物が増えました。
Q2.AIで作れる仕事は、すべて内製化すべきですか?
内製化する範囲は、品質を確認できるか、継続して運用できるか、社内の時間を使う価値があるかで決めます。試作できた段階で全業務を引き受ける必要はありません。外部の専門家による確認や改善と組み合わせる方法もあります。
Q3.外注先の提案や成果物は、何を基準に評価すればよいですか?
自社の課題の解決に、どう役立つかを基準にします。提案の目的、実行する担当者、効果を確かめる方法を確認してください。提出物の数や速さに加え、社員の負担、必要な費用、実務での使いやすさも評価します。
Q4.社長しかAIを使えない状態から、どう抜け出せばよいですか?
一つの業務を選び、手順と判断基準を整理して、社員が実際に作成・修正する機会を設けます。必要に応じて副業人材の支援を受け、社員への能力移転を進めます。資料を渡すだけで終えず、担当者自身が運用できるかを確かめることが大切です。
